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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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鳥獣保護管理法の改正

2025年5月14日

2024年12月27日のコラムで,札幌高裁の判決(2024年10月18日)が大きな波紋を生じさせていることを取り上げました。
この事件は,北海道の砂川市内にヒグマ1頭が出現したことから,砂川市の要請を受けて出動したA氏がライフル銃を1発発射してヒグマを駆除したところ,それが鳥獣保護管理法違反に当たるとして,北海道公安委員会がAの猟銃所持許可を取り消す処分をしたため,A氏が公安委員会の処分の取消しを求めた訴訟でした。
北海道公安委員会がA氏の猟銃所持許可を取り消したのは,ヒグマの駆除のためとはいえ,市街地(住居集合地域等)で猟銃を発射した行為が,

 住居が集合している地域又は広場,駅その他の多数の者の集合する場所(以下「住居集合地域等」という。)においては,銃猟をしてはならない。

と定める鳥獣保護管理法(同法第38条第2項)に違反したとの理由からでした。
A氏の訴訟では,一審の札幌地裁は公安委員会の処分を取消したのですが,控訴審の札幌高裁は札幌地裁の判決を取消し,A氏の訴えを棄却する判決をしました。
A氏は,控訴審判決を不服として最高裁判所に上告したとのことですが,札幌高裁のこの判決は大きく報道され,北海道猟友会は,今後ヒグマ駆除の要請を拒否することを検討したそうですし(ただし,最終的には一律に拒否するのではなく,駆除の要請を受けた各支部の判断に委ねることにしたそうです。),駆除要請を受けて発砲したハンターが不利益を被らないようにすることを内容とする鳥獣保護管理法等の改正を求める動きが活発化しました。

そうしたところ,本年4月18日,第217回国会において鳥獣保護管理法の改正案が可決成立しました。
改正法では,「緊急銃猟」の項目が新設され,一定の要件のもとで住居集合地域等での銃猟が適法とされることとなりました。
改正法は,概略

 市町村長は,ヒグマ等の「危険鳥獣」が「住居」等「人の日常生活の用に供されている場所」等に侵入等して,人の生命身体に対する危害を防止するための措置を緊急に講ずる必要があると認める場合で,銃器を使用した駆除をする以外に方法がなく,他人の生命身体に危害を及ぼすおそれがないときは,「住居」等の付近において当該危険鳥獣について銃猟をすることができる

とし(法第34条の2第1項),

 緊急銃猟として実施する行為については,法第38条等を適用しない。

などとなりました(同条第5項)。
改正法案は内閣が提出し(閣法),2025年4月10日,衆議院で賛成多数で可決され,参議院でも同月17日に賛成多数で可決成立し,同月29日,公布されたのですが(緊急銃猟の定めが施行されるのは,公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日となります。),札幌高裁の判決の後,わずか半年あまりの短い期間で改正法が成立したのでした。
鳥獣保護管理法第38条の改正を求める意見は以前からあったようですが,ヒグマ等が市街地に出没することがいよいよ増加してきており,市街地での銃砲による駆除の必要性が大きくなっていたことが改正法が早期に実現した要因であると考えられます。
今回の鳥獣保護管理法の改正により,市街地に出没する危険鳥獣に悩む自治体と住民の方の安全,安心を確保するものと考えられます。
とはいえ,市街地で発砲する場合,実際には,上記の「他人の生命身体に危害を及ぼすおそれがない」との要件をクリアするのは案外難しいかもしれません。
A氏の件でも,裁判所の判断が分かれたのはこの危険性の有無の判断であったと考えられますので,実際の現場で,「危害を及ぼすおそれがない」との要件該当性の判断は微妙になるかもしれませんし,駆除の必要性,緊急性との兼ね合いもありますので,どのような場合に「危害を及ぼすおそれがない」といえるのかについて,実務的な積み重ねがされていくことになるのではないかと思われます。

さらにここで気になるのは,今回の法改正を受けて,A氏の裁判がどうなるかということです。
本件が最高裁に係属中であれば,最高裁も今回の法改正を考慮する可能性がありますし,そもそもA氏の発砲行為は,最低限の安全性が確保されていたとする余地があり,また発砲に至るまでの一連の経緯や駆除後の状況,さらには住民感情等を踏まえると,本件処分は社会通念に照らし著しく妥当性を欠いているとの評価は十分合理性があると考える余地があります。
最高裁の判断が注目されます。

下請法違反

2025年3月11日

公正取引委員会は,2025年2月18日,自動車部品メーカー2社に対し,下請事業者に金型等を貸与していたところ,当該金型等を用いて製造する部品の製造を大量に発注する時期を終えた後も,多数の金型等を自己のために無償で保管させて,下請事業者の利益を不当に害していたとして,下請法(正式な名称は「下請代金支払遅延等防止法」)に基づいて,下請法違反の事実を取締役会の決議により確認すること等の勧告をしました。
金型等の無償保管の件では,その後も同月20日,機械メーカーに対し,同年3月7日,自動車部品メーカーの子会社に対し,それぞれ同様の勧告をしました。
さらに,同委員会は,同年2月28日,家電量販店に対し,同社がプライベートブランド商品の製造委託をしていた業者に対して「拡販費」等の名目で,当初取り決めていた代金から一定額を減額して代金を支払っていたことを下請法違反として,勧告をしました。
このように公正取引委員会はこのところ下請法違反による勧告を立て続けに出しています。
これは,下請事業者に対する「下請いじめ」ともいうべき取引慣行を改め,下請事業者が適正な利益を得られるようにし,ひいてはその従業員の給与の引き上げを容易にするという当局の意図があると思われます。
このような状況で下請法違反による勧告事例が続いていますが,突然,公正取引委員会が下請法違反の勧告を活発化させたわけではなく,下請法違反による勧告はすでに2,3年前から何度も出されていました。
具体的には,金型等を無償で保管させていた事例では,2023年11月30日,2024年2月28日、同年3月25日にそれぞれ勧告がされていましたし,代金の一方的な減額については,2023年6月29日,同年12月22日,2024年3月7日に勧告がされていました。
ですので,既に他社に対して下請法違反による勧告がされたことを踏まえて,自社が下請法に違反していないか否かを確認する機会もあったでしょうし,仮に下請法に違反する事案を発見した場合,これを是正する措置を講じることが可能だったはずです。
ところが,今回勧告を受けた各社は,これらの確認をしていなかったか,あるいは確認して下請法違反の事案を把握したのに違法状態を継続させていたことになります。

企業が下請事業者に不当な要求をする理由はいろいろあるでしょうが,下請事業者に負担を強いることは,会社の利益を増加させるという関係にあることが一つ考えられます。
つまり,経営サイドからすると,下請事業者に不当な要求をのませればその分利益が増すことから,利益の増加や株価上昇の圧力にさらされている経営陣にとっては,経費節減の名目で下請事業者を叩こうとするインセンティブが働くといえます。
また,現場レベルにおいても,下請事業者を叩いて経費を節減できれば,自分の手柄として評価の対象になるでしょうから,やはり下請叩きをするインセンティブが働くといえます。
また,従前は,金型の無償保管やリベート等の名目での代金の一方的減額は慣行として広く行われていたとのことであり,こうしたことが長年にわたり続けられていたことも,下請法違反の是正を遅らせる要因になっているのかもしれません。
しかし,公正取引委員会の下請法違反に対する厳しい対応が今後も続くであろうと予想されるところ,違法状態を放置すると,公正取引委員会による勧告等がされ,公表されることになります。
したがって,下請法違反の状態を続けることは「下請いじめ」をする会社としてそのレピュテーションを大きく毀損することになりますので,現に下請法違反の状態がある場合は可及的かつ速やかに是正する必要があります。
しかし,違法状態の是正を現場レベルに任せても,現場サイドは一方では経費の削減を厳しく求められていますので,違法状態を是正することは必ずしも容易でないと考えられます。
そうすると,下請法違反の是正は,現場任せではなく,経営側のリーダーシップで下請法違反を解消させ,さらには今後も下請叩きをしないよう現場サイドに指示するしかないと思われます。

また,下請の関係は,親事業者,一次下請事業者,二次下請事業者といった重層的な構造になっています。
この場合,一次下請事業者が二次下請事業者に対して下請法違反の行為をした場合,親事業者の系列の会社という表現で新聞報道がされ,親事業者にも影響が及ぶおそれがあります(本年2月18日に勧告を受けた事例では,親事業者である自動車メーカーの名称が報道されました。)。
そうすると,親事業者としては,直接取引のある一次下請事業者との関係のみならず,二次下請事業者以下の関係も含めて点検をしないと,思わぬところで足をすくわれてしまうことになります。
製造業の場合,系列の関係が重層的で多数の業者が関与していることから,その全貌の把握は困難な点はあると思いますが,親事業者は,この際,系列の取引業者の全体について,下請法違反の事例がないかどうかを点検する必要があると思います。

いずれにせよ,下請いじめともいうべき不当な取引関係を一掃し,下請事業者が適正な利益を得られるようにすれば,社会全体にお金を回す契機になり、ひいては自社の利益にもつながるのではないでしょうか。

フジテレビ その2

2025年2月10日

株式会社フジテレビジョン(以下,「フジテレビ」)とその持株会社である株式会社フジ・メディア・ホールディングス(以下,「ホールディングス」)は,2025年1月27日,タレントのN氏と女性との間で生じた事案に関する共同記者会見を開きましたが,事態の収束にはほど遠い状態であり,フジテレビの収益が急速に悪化しているとのことです。
現在,事実関係及びフジテレビの事後対応やグループガバナンスの有効性についての調査,検証が第三者委員会により行われていますが,内外からフジテレビ及びホールディングス(以下,「フジテレビ等」)のガバナンスの不全を招いた責任が,フジテレビ等で40年以上にわたり取締役の地位にいるH氏にあるとして,その辞任を要求する声も聞かれます。

ただ,H氏は,ホールディングスの取締役であり,H氏が自発的に辞任しない場合は,株主総会において,解任決議(会社法339条,341条)か選任の議案の否決がない限り取締役をやめさせることはできません(ホールディングスは監査等委員会設置会社であり,取締役(監査等委員である取締役を除く。)の任期は1年ですので(会社法332条3項),2025年6月の定時株主総会においても,取締役の選任がされることになります。)。
このように取締役の地位は,株主総会における株主の決議によって決まりますが,逆にいえば,ホールディングスの株主でない外部の第三者がどのように声高に辞任を要求してもあまりH氏の地位に影響しないと考えられます。
それでは,現在の株主の構成で,H氏の取締役解任の決議あるいは選任議案の否決が可能でしょうか(以下,ホールディングスに関するデータは,同社の第83期有価証券報告書によります。)。
ホールディングスの「大株主」は,日本マスタートラスト信託銀行株式会社(自己株式を除いた発行済み株式総数に対する割合11.26%)などの信託銀行等(同合計約22%)のほか,

東宝株式会社(同8.48%)
株式会社文化放送(同3.56%)
株式会社NTTドコモ(同3.52%)
関西テレビ放送株式会社(同2.81%)
株式会社ヤクルト本社(同1.81%)

であり,大株主が保有する株式の割合は合計で約42%となります。
信託銀行等がどのように議決権を行使するかは実質株主の判断になりますが,その一定数は解任決議に反対し,あるいは会社提案の議案に賛成することが予想されます。
また,ホールディングスは,特定投資株式等(いわゆる政策保有株式です。)を保有しており、その一部は持合であり,その持合の相手方がどれくらいホールディングスの株式を保有しているかについて,各社の有価証券報告書を確認したところ,

東映アニメーション   約79万株(同0.36%)
ヤクルト本社       約397万株(同1.81%)
東宝          約1857万株(同8.48%)
鹿島建設        約254万株(同1.16%)
キッコーマン      約13万株(同0.06%)
大日本印刷       約13万株(同0.13%)
ANAホールディングス 約16万株(同0.20%)
大和証券グループ本社   約10万株(同1.27%)

等となっています。
持合をしている会社が保有するホールディングスの株式の合計は約3488万株であり,その発行済み株式数に対する割合(自己株式を除く)は約15.9%になります(なお,ホールディングスの有価証券報告書には持合の記載があるのに対し,他方の会社の有価証券報告書にはホールディングスの株式の保有状況の記載がされていないものもありますので,実際には上記の数字より若干増加すると考えられます。)。
持合株を保有している会社は,一般的に,会社提案の議案に賛成し,株主提案の議案には反対する可能性が高いといえるのではないでしょうか。大株主である信託銀行等の議決権行使の方法にもよりますが,大株主の多数が与党株主であるとすれば,持合株の株主と合わせて50%を超えると考えられます。そうすると,株主総会において,H氏のホールディングスの取締役の地位が剥奪される可能性はそれほど高くないと考えられます。

このような株主構成を前提にしていると思われますが,ホールディングスの株式を保有していると主張するアメリカの投資ファンドのダルトン・インベストメンツ・インク(以下,「ダルトン」)が,ホールディングスに対し,同社の社外取締役がH氏に対し辞任を要求するよう求める書簡を送付しました(但し,書簡を送付したのは,直接にはダルトンの関連会社のライジング・サン・マネジメントです。)
それでは,ホールディングスの取締役会の構成はどのようになっているのでしょうか。
ホールディングスの取締役会は,社内取締役10名,社外取締役7名で構成されていますが,社外取締役の出身母体はそれぞれ

東宝
文化放送
産業経済新聞
総務省
キッコーマン
大和証券
ANAホールディングス

とのことです。
ですので,総務省と産経新聞の方を除けば,出身母体の会社がホールディングスの株主であり,文化放送以外は全て持合株を保有しています。また,産経新聞は,フジサンケイグループを構成するグループ企業ですが,フジサンケイグループの代表はH氏です。
現在,社外取締役7名で構成される経営刷新小委員会が設置され,フジテレビ等のガバナンスの立て直し及び信頼回復に向けた方策の検討等が議論されているとのことですが,社外取締役の方々の出身母体をみると,フジテレビ等、特にH氏に対して厳しい意見を示すのはなかなか大変ではないかと想像されます。
もちろん,社外取締役の方は善管注意義務(会社法330条,民法644条),忠実義務(会社法355条)を負っており,出身母体とフジテレビ等との利害関係を抜きにして,フジテレビ等のステークホルダー全体の利益を考慮した判断をする必要があります。
経営刷新のために具体的にどのような方針を示すのか,また,示した方針を実行に移すことができるのか,社外取締役の方々の胆力が試されることになります。

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