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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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日産自動車の不適切行為

2018年7月13日

日産自動車株式会社は,9日,完成検査時の燃費・排出ガスの測定の際,試験環境を逸脱した排出ガス・燃費測定試験を行い,測定値を書き換えて,検査報告書を作成していたことを公表しました。

日産社といえば,昨年,資格がない社員に完成検査を行わせていた問題が発覚し,過料の制裁を受けました。普通の感覚であれば,ある問題が発覚すれば,現在進行中の不適切行為を中止するインセンティブが働くものですが,今回の燃費・排出ガス測定での不適切行為は,完成検査資格の問題で大規模な調査が行われていた最中にも密かに行われていたことになります。当然,燃費・排出ガスデータの書き換えなどをしていた社員の方も,無資格検査の調査が行われていることは分かっていたでしょうが,どうして不適切行為を続けたのか,その原因が気になるところです。

正確なところは調査結果を待つことになりますが,おそらく,測定値の書き換えをしないと業務が滞るとか,他の検査データ偽装の場合と同様,測定値の書き換えをしても法令違反にはならないと安易に考えていた(日産社の場合,法令で定める保安基準より厳しい基準が設けられており,その社内基準をクリアできなかったとき測定値を書き換えていたとのことで,法令の定める保安基準には適合していました。)などが考えられます。また,新聞報道では,排出ガス規制の検査では,試験の際,車を走らせる技量が不足していたため想定を超える数値が出てしまったことから,自らの技量不足を取り繕うためという事情もあったとのことです。これは一種の自己保身といえます。

ところで,今回の問題は,SUBARU社が同様の排出ガスデータの書き換えをしていたことが明るみに出たことから,日産社においても「全ての活動について徹底的に確認する中で発覚した」とのことです(日経 7月10日)。本来であれば,無資格検査問題の調査の過程で,今回の不適切行為も明らかにされるべきであり,その方が会社の受けるダメージは小さかったはずです。しかし,現場から燃費・排出ガスの測定値の書き換えについて申告されることはなく,自浄能力の欠如があらわになってしまいました。さらにいうなら,日産社は,三菱自動車の燃費データ偽装の端緒をつかみ,結果的に三菱自動車を傘下に収めることになりましたので,燃費データ偽装の顛末を目の当たりにすれば,自らの不適切行為を根絶する絶好の機会だったはずですが,自らを正当化し,あるいはバレなければいいだろうと安直に考えてしまったのかもしれません。

今や品質不正問題は,経営上の重大なリスクとなっています。ですから,品質管理はもはや現場任せにすることはできず,経営陣は,常に現場が適法,適正に運営されているかを確認する一方,現場だけにしわ寄せを強いることのない態勢を構築するべき義務があるといえるでしょう。

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