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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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感染USB

2026年7月13日

日経の報道によると,陸上自衛隊が,中国系ウイルスに感染したUSBメモリーを機密システム端末で使い続けていたことが判明したとのことです(6月26日等)。
発覚の経緯としては,陸自の隊員がUSBを挿入した状態でパソコンを操作していたところ,動作が遅いと感じたため念のためセキュリティソフトでUSB内の全ファイルをチェックしたところ,ウイルスが検知され,その後の調査で当該USBは中国製の偽装品であり,容量を偽装していたのみならず,記憶媒体にウイルスが仕込まれていたことが判明したとのことです。
自衛隊では,私物のUSBの使用は一切認められておらず,部署ごとに予め登録したUSBしか使えない「ホワイト方式」で厳重に管理しているそうですし,陸自は,通常,調達時やパソコン使用時のウイルスチェック,組織内の使用許可登録で何重にも安全を確認しているそうなのですが,今回は,これらのチェックをすり抜けていました(6月26日,7月1日)。
日経は,今回の件の謎として,納品時の検品でUSB内にウイルスが潜んでいることを確認できなかったこと,部隊のパソコンに導入されたセキュリティソフトの設定で,USBだけ検査対象から外れていたこと,調達経路が判然としないこと(陸自は,当該USBメモリーを石川県から調達したとしていますが,石川県はそのような事実は確認できなかったとしているそうです。)を指摘しています(7月1日)。
今回は,操作中に感じた違和感を隊員が放置せず,速やかにセキュリティソフトでチェックをしたためにウイルス感染が判明し,サイバー攻撃等による被害を受けずにすみました(7月1日)。
この感染USBによる被害は民間でも発生しているとされ(6月26日),自治体も同様の感染リスクがあるとされます(6月27日)。この点三重県が調査したところ,使用していたUSBメモリー47本でウイルスを検知し,このうち4本は無許可の私物でした(7月8日)。
さらに,通販サイトで販売されているUSBのうち2割の商品で偽装報告がされているとのことですし,日経が10種類のUSBを通販サイトで購入し分析したところ,半分が偽装品で全て中国製でした。ただし,ウイルス感染の痕跡は見当たらなかったそうです(7月10日)。

現在,サイバー空間では,国家が主導しているといわれるサイバー攻撃部隊やハッカー集団が他国への侵略を組織的かつ大規模に展開しており,既に世界大戦ともいうべき状況になっています。今回判明した偽装USBはその一面であるともいえると思われます。
民間企業も当然のことながらサイバー攻撃の標的にされるわけであり,実際に我が国でも多数の民間企業が攻撃を受けており,甚大な被害が発生したケースもあります。
このような状況ですので,民間企業も十分な防衛体制を整える必要があります。
こうした中,今回はUSBメモリーを使った手口が明らかになったことになったわけです。
現在,USBメモリーは広く普及しており,業務をする上で不可欠なツールですが,その不可欠なツールに感染リスクが潜んでいるのであればそれに対する備えもしっかりする必要があります(また,偽装USBは,ウイルス感染していないとしても,容量不足によるデータ消去のリスクがあります。)。
特に機密情報を取り扱う企業であれば,使用するUSBメモリーの調達,管理は自衛隊並みに厳格にする必要があり,例えば,機密情報にアクセスできるPCに使用できるUSBメモリーは会社から支給するものに限り,私物の使用を全面的に禁止することは当然として,許可されたUSBメモリーのみアクセスできるようにPCを設定する,全ての製造工程が我が国内で完結していることをトレーサビリティで確認できる日本製のUSBメモリーに限定する,調達先は信頼の置ける業者に限定する,納品時にウイルスチェックを必ず実施するなどの方策をとる必要があると思われます。
また,調達先の業者との間で,正規品のみを取り扱う旨の表明保証をさせることもあり得ると思われます。

もちろん,このような厳格なルールを定めると,USBメモリーの調達コストが高くなるであろうと考えられます。
しかし,USBメモリーの単価はそれほど高くないはずですし,ある程度の割高になったとしても,安物の感染USBを使用し,サイバー攻撃を受けてシステムダウン等したり,機密情報を抜き取られたりした場合に生じるコストと比較すれば微々たるものになるはずです。
日経の記事には,自治体関係者の「1円でも安いものを探す」との言葉が紹介されていますが(6月27日),そのような安直な考えでいると,取り返しのつかない事態を招くことになると覚悟すべきと考えられます。
とにかく,くれぐれも,外国製の安物のUSBメモリーを通販で調達しようとは思わないことです。
仮に,USBメモリーの調達,管理について何も対策をとらず,漫然と安価なUSBメモリーの使用を継続した結果,感染USBが原因でサイバー攻撃を受けたり,機密情報の漏洩を招いたりするなどした場合,取締役が善管注意義務違反の責任を問われる可能性があります。
企業を守る観点から,USBメモリーの管理を再点検する必要があります。

ニデック株式会社の会計不正問題

2026年4月15日

ニデック株式会社は,永守重信氏が1973年に創業した株式会社であり(創業時の社名は「日本電産株式会社」),今や我が国を代表するメーカーの一つですが,中国子会社において不適切な会計処理の疑いが生じたため調査をしたところ,それ以外にも不適正な会計処理がされていたことを示す資料等が発見されたとして,2025年9月3日に第三者委員会の設置が決まり,同委員会による調査が行われました。
同委員会は,2026年2月27日に調査報告書をニデック社に提出し,同年3月3日には調査報告書の概要版及び公表版が公表されました。

調査報告書によると,資産性がない原材料等に資産性が認められると偽り棚卸資産の評価損を計上しなかったり,固定資産に関する減損テストに当たり実現確度が低い案件を含める方法で減損を回避するなど,「多岐にわたる拠点で多数の会計不正」が発見されました(調査報告書(公表版)15頁)。
調査報告書提出時点までに発見された不正及び誤謬による2025年度第1四半期末の連結財務諸表における純資産への負の影響額は約1397億円とのことです(16頁)。
永守氏は,2025年12月19日付で代表取締役社長,取締役,グローバルグループ代表(取締役会議長)を辞任して代表権のない名誉会長となり,続いて調査報告書が提出される前日の2026年2月26日付で名誉会長も辞任しました。

調査委員会は,「今般発覚した会計不正について最も責めを負うべきなのは,永守氏であるといわざるを得ない。」と結論づけましたが(222頁),一連の会計不正の原因として,「過度な業績プレッシャー(永守氏の経営理念の破綻)」,「永守氏の絶対性」,「牽制機能の不全」の3点を指摘しています。
「過度な業績プレッシャー(永守氏の経営理念の破綻)」については,

 今回発見された会計不正の原因としてまず挙げられるべきなのは、過度な業績プレッシャーの存在である。この業績プレッシャーは,そもそも非現実的な目標設定がなされ,続いてその達成に向けて極めて強いプレッシャーが加えられることにより生まれている。(中略)当委員会が調査の過程で目にしたのは,株価を意識した業績目標がトップダウンで設定され,それが事業本部や国内グループ会社の実力や事業環境と乖離しているにもかかわらず,その達成のために永守氏をはじめとするニデック本社の経営幹部から苛烈ともいえる強いプレッシャーが事業本部や国内グループ会社に対して日々かけられるという実態である。

と指摘しました(224頁)。
また,「永守氏の絶対性」については

 ニデックは,「永守氏の会社」であったといってよく,実際に,あらゆる権限が永守氏に集中していた。ニデックグループの経営幹部の人事権や報酬決定権限は,永守氏が掌握しており,その状態は,当委員会が設置される直前の2025年8月まで続いている。(中略)永守氏が持つ権限の中でも,ニデックグループの経営幹部の人事権は,ニデックグループの経営幹部が,業績目標達成のために,時に厳しいプレッシャーを部下にかけ,会計不正を引き起こす原因を作ってきたといえる。

などとし(225頁),「牽制機能の不全」については,ニデック社において牽制機能が期待されていた各部門(経理部門,経営管理監査部,法務コンプライアンス部,監査等委員会(監査役会))において,牽制機能が不全であったとの指摘がされています。

この点,永守氏は,調査委員会のヒアリングの際,

 「高い目標を掲げてそれを達成するために必死に取り組んで初めて会社は成長する。たとえ目標を達成できなかったとしても,必死に取り組んだ人間は成長してその後成功する。」などと,敢えて高い目標を掲げてきた

とか

 努力した結果として目標を達成できなければ,それは仕方がない。役職員にも『不正をやるくらいなら,未達でも構わない。』と繰りかえし言ってきた。

との趣旨の発言をしたとのことです(102頁)。
確かに,調査報告書を見ると,部下を叱責する際の永守氏の言い方はきついを超えて苛烈というべきものです。

しかし,高い目標を掲げ,目標を実現させるべく部下にプレッシャーをかけることは,程度の差はあると思いますが,経営者であればだれもがすることでしょうし,時には永守氏のように厳しい叱責等をすることもあるのではないでしょうか。
こうした点を見る限り,永守氏の言動が特に他の経営者と著しく異なるとまではいえないように思われます。
この点,調査報告書においても,

 当委員会としても,高い目標,時には一見不可能と思われる目標を掲げ,その達成に向けて尽力することが,企業の成長にとって必要であることには同意であり,その意味では,永守氏の経営理念を否定するものではない。

とあります(224頁)。

そうするとニデック社において多数の不正会計事案を惹起させるに至った根本的な原因として考えられるのは,ニデックグループの規模が巨大化していく中で,永守氏が創業当時のように一人で全てを差配することが困難となっていたにもかかわらず,マネジメントの方法をアップデートすることなく,創業時と同様のやり方を続けていたことに帰着するのかもしれません。
調査報告書では

 グループが巨大化する中,永守氏が「マイクロマネジメント」で経営するという体制そのものに歪みが生じていた

との指摘がされています(227頁)。

いわき信用組合

2025年12月2日

いわき信用組合は,福島県いわき市を中心とする協同組合組織の金融機関ですが,令和6年9月,SNSに組織的に無断借名融資がくりかえされているなどの投稿がされたことを契機として第三者委員会(以下,「第三者委員会」)による調査がされ,令和7年5月30日,調査報告書が提出されました。
第三者委員会の調査により,いわき信組では迂回融資,無断借名融資,水増し融資等の不正融資が繰り返されており,また元職員2名による着服横領がされていたのですが,それらを組織的に隠蔽していたことが明らかになりました。
それとともに同報告書では,第三者委員会に対するいわき信組の協力姿勢に強い疑義を示された上,一連の不祥事件の実態解明に向けて,更なる調査を行う必要がある旨指摘されたことから,改めて特別調査委員会(以下,「特別調査委員会」)が組成され,同委員会による調査が行われました。
特別調査委員会は,令和7年10月31日,調査報告書(以下,「特別調査委員会報告書」)を提出しましたが,特別調査委員会報告書によると,いわき信組は,与信が十分でなく本来融資できない大口融資先(大口業況不芳先)に対してペーパーカンパニーを利用した迂回融資や,無断借名融資により捻出した金員の資金提供を繰り返すなどしていただけでなく,反社会的勢力(以下,「反社」)に多額の資金提供をしていたことを明らかにしました。

この反社に対する資金提供は,右翼団体による街宣活動がきっかけだったようですが,特別調査委員会報告書の記載をまとめると次のとおりになります。
すなわちいわき信組は,理事の中に暴力団関係者との交友関係を有する者がおり,交際しているうちに弱みを握られて金銭の支払いを要求される者がいたところ,1994年ころからいわき信組本部や当時の理事長の自宅周辺で右翼団体による街宣活動が繰りかえされるようになりました。すると,いわき信組の融資先の人物(特別調査委員会報告書の中で「Σ氏」と表記されている人物であり,以下,「Σ氏」)が,理事長(以下,「A氏」)らに対し,右翼団体の仲介役を務める旨申し出るとともに,街宣活動を中止させるための解決料の名目で3億円超の現金の支払いを要求し,A氏らはこれに応じていわき信組の資産からΣ氏に3億円超の現金を支払いました。Σ氏は,暴力団等との関係は不明であったものの,暴力団関係者を親交を有する周辺者と位置づけられていました。
Σ氏は,3億円超の支払を契機にその後も断続的に億単位の不当要求を繰りかえし,役員らはその要求に応じて金員の支払を続けました。
A氏の後任の理事長(四家栄義氏)は反社に対する資金提供をしなかったとのことですが,四家氏が急逝した後,右翼団体による街宣活動が再開されたことから,四家氏の後任の理事長は,Σ氏らに対する資金提供を再開してしまいました。
また,企業等の不祥事追及等を主眼とする情報誌の関係者からも役員らの不正を暴くと脅され,億単位の金員を提供したこともありました(特別調査委員会報告書は,この人物について「反社」と認定しています。)。
いわき信組は,2017年9月ころ以降にも,Σ氏から執拗に資金提供の要求を受けましたが,さすがに新たな資金提供には応じませんでした(但し,Σ氏の子に3億円の融資を実行しました。)。
特別調査委員会報告書では,いわき信組は,約13年間にわたり,不正融資によって捻出した現金のうち10億円前後を反社に提供したと結論づけています。

反社に対する資金提供が許されないことは当然ですし,特にコンプライアンスが強く求められる金融機関は反社に対してより厳格な対応が求められます。
いわき信組も「反社会的勢力対応管理規程」等の反社排除にむけた規程類は一応整備されていたようですが,これらの規程等は全く絵に描いた餅でした。反社に対する資金提供のきっかけは右翼団体による街宣活動だったようですが,街宣活動をやめさせる手段としては,街宣禁止仮処分等の法的手段(名誉毀損等の言動があれば刑事告訴も可能です。)をとるべきだったにもかかわらず,いわき信組の役員らは,暴力団関係者と親交を有する周辺者と位置づけていたΣ氏の口車にのり,Σ氏に多額の金員を渡すなどしました。えてして,このような人物に金員を渡してしまうと,資金提供をしたこと自体を口実にますます強請られることになるものであり,実際,Σ氏からの不当要求が繰り返し行われ,多額の金員を提供する結果になってしまいました。
暴力団関係者と交友関係を有する者が理事をしていたことこと自体驚きですが,暴力団関係者と親交を有する周辺者と位置づけていたΣ氏の右翼団体の街宣活動をやめさせるとの申出に安易に応じて金員を交付するというのもにわかに信じがたいことです。いわき信組の役員らは,不当要求をする反社に対して資金提供によりくさいものに蓋を期待したのかもしれませんが,逆に自分の首を絞めるだけの結果でした。
特別調査委員会報告書は,いわき信組が長期間にわたり反社に対する資金提供を続けた背景として,反社に対する支払の事実を「一部の役員の間だけの秘密事項」としていたことを指摘していますが,同じ人物が理事長や会長等の役員を長期間にわたり歴任する体制が一部の役員の間での「秘密事項」の共有を可能にしたといえます。
日経の記事によると,7月時点で理事長の在任期間が10年以上は信金が38,信組が24。20年以上も信金が10,信組が4とのことです(2025年11月11日付)。
いわき信組と同様の問題をかかえる信組,信金はないでしょうが,この際,内部で点検をし,場合によっては外部の第三者による監査を受けるのもいいかもしれません。

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