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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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新幹線の台車の亀裂 その3

2017年12月28日

JR西日本は,27日,東海道山陽新幹線「のぞみ34号」が台車に亀裂が入ったまま運行を続行した件で,調査結果を公表しました。

調査結果によると,「のぞみ34号」で異音やにおいがあったことから,指令員の指示で車両保守担当社員3名が岡山から乗車しましたが,その車両保守担当社員は,司令員に「においはあまりしない」「音が激しい」「床下を点検したいんだけど」と伝えました。車両保守担当社員は,指令員の「走行に支障があるのか」との質問に,「そこまではいかないと思う。見ていないので現象が分からない」と回答し,さらに「安全をとって新大阪で床下(の点検)をやろうか」と言ったのですが,指令員は,別の指令員に状況の報告をしていたため,この提案を聞くことができませんでした。

車両保守担当社員は,「のぞみ34号」が新神戸で停車した際,車外から13号車を確認したものの異臭を感じることはなく,また,車体とホームの間を懐中電灯で照らして目視で確認しましたが異常は感じられず,新神戸発車後,指令員から「走行に支障があるという感じはないか」と質問されたのに対し,「判断できかねるんで,走行に異常がないとは言い切れないかな」「音が変わらず通常とは違う状態であることは間違いないと思います」と回答しました。このようなやりとりがありましたが,新大阪で点検をする判断は見送られてしまったのでした。

会社の聞き取りに対し,指令員は,「車両保守担当社員は車両の専門家であり,本当に危険性があればそのように伝えてくる,点検が必要であればはっきりとその旨を伝えてくると思っていた」とし,車両保守担当社員は,「司令員がどこで点検するのか等調整してくれていると思っていた」と回答したとのことです。

この調査結果から,司令員と車両保守担当社員が最終判断の責任を他方に求めようとしていたことに気づきます。

東海道山陽新幹線は,非常にタイトなダイヤとなっており,少々の停車時間の超過でも,他の列車のダイヤに影響を与え,多くの乗客に迷惑をかけてしまいます。そのため,運行に支障を生じさせる判断は簡単ではないと思います。しかし,車両保守担当社員は,「走行に異常がないとは言い切れない」と考えていたわけですから,もっと明確にその旨いうべきでしたが,断定的に言わず,「・・・走行に異常がないとは言い切れないかな」と語尾を濁してしまいました。また,司令員も普通ではない事態が起きていることを感じていたはずですが,車両保守担当社員が断定しないことを理由に,最終的な判断を回避しました。おそらく,司令員や車両保守担当社員の共通していたのは,新幹線の運行に支障を生じさせてはならないという重圧です。彼らはこの重圧の下,「不都合な事実は起きないはずだ」とのバイアスが生まれ,判断を回避したのではないでしょうか。

そうすると,この重圧を取り除く,あるいは軽減するための制度的保障が大事であると思います。つまり一定の事情により点検等が必要と認められる場合は列車を止めて点検することとし,その結果運行に支障がないことが確認できたとしても,司令員等に不利益が科せられないことを明確化する必要があるのではないでしょうか。既にマニュアル等で明確化されているかもしれませんが,運用面でも保証されなければ,実戦で活かすことが難しいと思います。

マンションの理事長の解任

2017年12月26日

今月18日,最高裁判所は,マンションの理事長を理事会の決議により解任することができるとの判断を示しました。

マンションの管理に関する事項は,区分所有法のほか「規約」で定めることができるとされ(区分所有法30条),国土交通省から「マンション標準管理規約」(以下,「標準管理規約」)が示されています。全国のマンションの多くは,この標準管理規約に準拠しているといわれています。この標準管理規約ですが,①管理組合にその役員として理事長及び副理事長等を含む理事並びに監事を置く(標準管理規約(単棟型)35条1項)。②理事及び監事は,組合員のうちから総会で選任し(同条2項),理事長及び副理事長等は,理事の互選により選任する(同条3項)。役員の選任及び解任については,総会の決議を経なければならない(同48条13号)などと定められており,本件で問題となったマンションの規約もこれと同様の定めがされていました。

本件のマンションでは,理事長が,理事会決議を経ないまま,他の理事から総会の議案とすることを反対されていた案件を諮るため,理事長として臨時総会の招集通知を発したことから,他の理事が反発し,理事会においてこれまでの理事長を解任し,新たな理事長を選任する旨の決議がされました。ただ,規約には,理事長を解任する明確な定めがなかったため,解任決議の有効性が問題になりました。

この点,一審,二審とも,規約に理事長の解任に関する定めがなく,選任に関する規定(本件マンションの規約の「40条3項」で,標準管理規約(単棟型)35条3項に相当します。)は,解任する根拠にならないとして,解任決議を無効としました。この場合,総会で理事を解任すれば,理事長の地位も喪失することになります。

これに対し,最高裁は,本件マンションの規約の40条3項について,「理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。」として,理事長を解任する決議を有効としました。

理事を総会で選任し,選任された理事の互選で理事長を選任するという構造は,会社法における取締役と代表取締役の関係と似ています。しかし,会社法は,代表取締役の「解職」を取締役会の権限と明記しています(会社法362条2項3号)。会社法と同様,標準管理規約に理事長の解任に関する定めがあれば,今回のマンションのような問題は起きませんでした。弁護士的な発想からすると,理事会で理事長を選任するのであれば,解任もできる旨の定めをしておくのがあたりまえのように思います。標準管理規約に理事長の解任についての定めがない理由は実はよくわかりません。

いずれにせよ,マンションの自律的かつ迅速な運営の点からすれば,総会ではなく,理事会で理事長を解任することができるとした方が適当であると思います。その意味で,最高裁は,文理解釈上やや困難であるものの,形式にとらわれない判断をしたといえます。

神戸製鋼所の外部調査委員会

2017年12月23日

株式会社神戸製鋼所は,製品の検査データを偽装していたことで,現在,外部調査委員会による調査が行われています。この調査の過程で,現役のアルミ・銅事業部門を担当する執行役員の中に,問題発覚前から検査データ偽装等の不適切行為の一部を認識していたことがわかりました。

神鋼社の検査データ偽装は,相当長期間行われていたわけで,工場の責任あるお立場にあった方が取締役や執行役員として経営陣に加わっているであろうこと,したがって,現に不適切行為が行われていることを認識していながら,これを黙認していたと評価されるであろうことは予想できました。

もちろん,神鋼社の執行役員は,業務を執行する取締役を補佐するという役割であり,指名委員会等設置会社において選任される執行役(会社法402条1項,2項)ではありませんし,会社法429条の「役員等」には含まれません。しかし,執行役員は,上記のとおり業務を執行する取締役を補佐するわけであり,取締役と同様,企業価値の向上を目指し,適法かつ適切な経営をする責務を負うわけです。したがって,不適切行為が行われていることを知りながら,それを黙認することは執行役として許されず,ガバナンス上の問題があったといわざるを得ません。

外部調査委員会の委員長は,東京地検の刑事部長等を経て福岡高検検事長をされた方ですし,そのほか,札幌高裁長官,東京地検検事を経験された方で構成されており,その補助者として多数の弁護士が関与しているものと考えられます。このような陣容でヒアリングをすれば,隠し立てはまずできないはずであり,結果として取締役や執行役員の方のお立場にも影響が生じることになるでしょう。しかし,今回の問題は神鋼社の企業風土というべきですので,これを改めるためには身を切ることは覚悟しなければなりません。過去のしがらみをこの際断ち切らない限り,新たな神鋼社としての再出発ができないと思います。

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