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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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またまた検査データ改ざん

2017年11月28日

今年の9月以降,神戸製鋼所,日産自動車,スバルでデータ偽装,無資格検査員による完成検査などの不適正事案が次々と明らかとなり,日本の製造業の危機などと騒がれています。そうしたところ,三菱電線工業株式会社,三菱伸銅株式会社で検査データを改ざんしていたことが,さらに今日(11月28日),東レ株式会社の子会社(東レハイブリッドコード株式会社)でも,顧客と取り決めた規格値のデータを不正に書き換えていたことが明らかになりました。

今回の問題は,一社のみでおさまらない可能性があると思っていたところ,やはり出てきてしまったというところです。ひょっとすると今後も追随する会社が出てくるかもしれませんね。特に,東レ社の子会社の件では,今日公表することになったのが「ネットの掲示板で書き込み」があったからとしています。つまり,掲示板の書き込みがなければ公表しなかったとしているわけです。東レ社の危機管理体制が心配になってしまいますが,明日は我が身と内心ひやひやしている会社があるかもしれません。危機管理的には,身に覚えがあるのであれば,この際自ら公表した方が結果的に実害が小さくてすむ可能性があります。

法律的には,顧客と定めた性能,品質が欠けていれば瑕疵あるいは不完全履行であり,一定の法的責任が生じることになります。メーカーにもいろいろ言い分があるのかもしれませんが,やはり「約束は守らなければならない」のです。

ただ,今日の読売新聞で日本工学会の会長さんがおっしゃっているように,「強度などの基準やルールは常に見直すことが必要」ということかもしれません。納入基準に満たないものだったとしても,それで完成品の強度が落ちたり,安全性に支障を生じたりする可能性はどの程度あるのでしょうか。基準に満たないため,経年劣化が早く進む可能性もありますが,少なくともこれまでのところ,基準に満たない素材を使用したため予期せぬ事故が発生したという話も聞きません。

そうすると,完成品メーカーの要求水準が相当高いことは間違いないようですが,完成品メーカーとしては,万が一の事故も防ぐべしという社会的使命がありますので,どうしても素材メーカーに対する要求水準が高くなってしまうのも分かります。

その当たりを上手に折り合いを付けつつ,日本のモノ作りを進化,強化させていく必要があると思います。

神戸製鋼所のガバナンス

2017年11月27日

本年10月に公表された株式会社神戸製鋼所のデータ改ざん問題は,当初,アルミ・銅事業部のみとされていましたが,その後次から次へと事実が明らかにされていき,気づけば相当長期間にわたり,全社的で行われていたことが判明し,問題発覚後も不正な製品の出荷を続けていたというおまけも付いてしまいました。この点,神鋼社は,管理を各部門に任せきりにして,本社がチェック機能を果たしていなかったことを認めています。

神鋼社は過去にも不適切事案が明らかとなりそのたびに法令遵守を約束していたわけですが,そのさなかにもデータ改ざんを続けていたことになります。このあたりの背景については,10月26日に設置された外部調査委員会の手で明らかにされるのではないかと思います。

このように神鋼社の問題は「統治効かぬ風土」(平成29年11月5日付日経)と評されるものです。そうなると気になるのは神鋼社のガバナンスの体制ですが,神鋼社は,平成28年6月22日付で監査等委員会設置会社に移行しています。監査等委員会設置会社は,平成26年の会社法改正で設けられた制度であり,監査等委員会を構成する監査等委員は3人以上で,その過半数は社外取締役でなければならないなどの要件が定められています(会社法331条6項)。それまで監査役会設置会社の監査役をそのまま取締役会に横滑りさせることも可能で,神鋼社でも,それまで監査役だった方が監査等委員になっています。

神鋼社は,監査等委員会設置会社に移行する理由について,「これまで,当社の幅広い事業に対する充実が監査を行うために,監査役がそれぞれ調査権限を持つ監査役設置会社を選択して」きたが,「監督機能のさらなる強化,経営に関する意思決定の迅速化を図るため」としています(第163期有価証券報告書)。ただ,今回の問題を見る限り「監督機能のさらなる強化」が実現されたとはいえません。監査役設置会社が監査等委員会設置会社に移行しても,それだけで何かが変わるわけではなく,監査の実質をどれだけ確保するかが重要であることを示しているように思います。

検察庁への告発

2017年11月20日

私は,現在,検察庁が告発を受理した事件で,被告発者の方の弁護を担当しています。

告発は,犯罪があると思料するときだれでも行うことができます(刑訴法第239条)。

とはいえ,検察庁に事件を告発してもすぐに受理されることはありません。一般的には,事件を持ち込んでも,検察庁から補充の証拠の提出が求められ,追加の証拠を提出しても公判に耐えられるものでない場合には告発をあきらめさせて門前払いをされます。

脱税事件や独占禁止法違反事件等告発が公的機関によってなされる場合は,告発前に国税庁や公正取引委員会は検察庁と調整を重ね,有罪判決を得るに足る証拠が整ったと判断されたところで告発を受理するというやり方をとります。ですので,告発前の調査の過程で実質的な捜査は開始されているわけですが,検察庁が立件困難と判断すれば,国税庁等は告発をしないのが実際の運用です。仮に検察庁の意向に反して告発しようとしても受理される保証もありませんし,仮に受理はされても不起訴にでもなれば国税庁等の面目がつぶれるという判断が背景にあると考えられます。

ところが,東芝の一件では,証券取引等監視委員会が検察庁の意向に真っ向から反対するという事態が生じました。

ご存じのとおり,東芝社は,有価証券告書等の虚偽記載により課徴金約73億円の納付を命じられました。東芝社の件では,パソコン事業におけるいわゆるバイセル取引での利益計上などが虚偽記載とされました。このバイセル取引は,東芝社がパソコン部品を海外の製造委託先に販売し,組立後の完成品を購入するという仕組みです。東芝社は,部品の販売価格に上乗せする価格を相当高額にし,上乗せ額を利益として計上したのですが,このことが「重要な事項につき虚偽の記載」(金商法第172条の4)をしたと評価されたわけです。

証券取引等監視委員会は,東芝社のバイセル取引での利益計上に関し,当時の社長らに虚偽の認識があったとして検察庁に告発する意向でした。ところが,検察庁は,立件は困難であるとしたことから,証券取引等監視委員会も,しぶしぶ告発を見送りました。証券取引等関係委員会が告発をしようとした事情ももっともなのですが,他方検察庁の言い分としては,故意犯である金商法第197条で歴代社長さんの虚偽記載の故意の立証には状況証拠による間接事実の立証が必要であり,ハードルが高いことに加え,バイセル取引自体は一般的に行われている取引方法であり,バイセル取引による利益計上を明確に禁止する会計基準もないとの理屈のようです。

起訴独占主義(刑事訴訟法247条)の強さを思い知らされるエピソードです。

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