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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

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重要土地等調査法

2023年9月19日

読売新聞(令和5年9月12日付)によると,「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(重要土地等調査法)による規制対象区域が新たに180か所が指定されることになったとのことです。
この法律は,自衛隊基地の周辺の土地や離島が外国人や外国法人に取得されたことなどを契機として,防衛関係施設等や国境離島等の機能が阻害されないようにすることを目的として制定され,令和3年6月23日に公布されました。
これまでに「注視区域」として219か所が指定され,そのうちの71か所が「特別注視区域」です。

「注視区域」は,
① 「重要施設」の敷地の周囲の概ね1000メートルの区域内
② 「国境離島等」の区域内
で,その区域内にある土地建物が重要施設の施設機能又は国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供されることを特に防止する必要があると認められる場合に指定されます(法5条1項)。
ここで,「重要施設」とは,自衛隊や在日米軍の施設,海上保安庁の施設,自衛隊も使用する空港や原子力関係施設(生活関連施設)であり(法2条2項,施行令1条),各施設の基盤としての機能を「施設機能」といいます(法2条4項)。
また,「国境離島等」とは,国境離島や有人国境離島地域を構成する離島の区域とされ(法2条3項,施行令1条),海域の限界を画する基礎としての機能等を「離島機能」といいます(法2条5項)。

内閣総理大臣は,注視区域内の土地・建物の利用状況を調査する(法6条)とともに,自治体の長などに対し,土地・建物の利用者その他の関係者の氏名又は名称,住所,本籍(国籍),生年月日,連絡先,性別の情報の提供を求めることができます(法7条1項,施行令2条)。また,土地・建物の利用者その他の関係者に対し,当該土地・建物の利用に関し報告や資料の提出を求めることもでき(法8条),報告等を求められた利用者等が報告等を拒んだり,虚偽の報告をしたなどの場合は30万円以下の罰金に処せられます(27条)。
さらに,内閣総理大臣は,利用者が土地・建物を施設機能または離島機能を阻害する行為の用に供するなどした場合,必要な措置をとるべき旨を勧告し,さらに命令をすることができます(法9条1項,2項)。この命令に違反した者は,2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処せられ,または併科されます(法25条)。

どのような行為が「機能阻害行為」とされるかですが,例えば
・ 自衛隊等の航空機の離着陸の妨げとなる工作物の設置
・ 自衛隊等のレーダーの運用の妨げとなる工作物の設置
・ 施設機能に支障を来すレーザー光等の光の照射
・ 施設に物理的被害をもたらす物の投射装置を用いた物の投射
・ 施設に対する妨害電波の発射
・ 流出することにより係留施設の利用阻害につながる土砂の集積
・ 領海基線の近傍の土地で行う低潮線の保全に支障を及ぼすおそれのある形質変更
等とされます。これに対し,
・ 施設の敷地内を見ることが可能な住宅への居住
・ 施設周辺の住宅の庭地における住宅と同程度の高さの倉庫等の設置
・ 施設周辺の私有地における集会の開催
・ 施設周辺の商業ビル壁面に収まる範囲の看板の設置
・ 国境離島等の海浜で行う漁ろう
等は,機能阻害行為に該当しないとされます(令和4年9月16日付閣議決定)。

次に注視区域に係る重要施設,国境離島等が「特定重要施設」,「特定国境離島等」である場合は,当該注視区域を「特別注視区域」に指定できるとされます(法12条)。
ここで「特定重要施設」・「特定国境離島等」とは,重要施設や国境離島等のうち機能が特に重要なもの又はその機能を阻害することが容易であり,機能の代替が困難であるものとされます(法12条1項)。
特別注視区域に指定されると,その区域内の土地・建物について,面積や床面積が200平方メートル以上のものを目的とする売買等の契約をするには,事前に内閣総理大臣への届出をしなければなりません(法13条1項)。
この事前届出をせずに売買等の契約を締結した場合や虚偽の届出をした場合は,6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(法26条1号,3号)。

このように,特別注視区域にある土地・建物を目的として売買等の契約をしようとする場合(面積・床面積が200平方メートル以上),事前の届出が義務づけられています。
国土利用計画法でも,土地の売買契約について事前届出をすべき場合の定めがありますが,事前届出が必要となる面積は,注視区域の場合,2000平方メートル以上(市街化区域),5000平方メートル以上(都市計画区域),1万平方メートル以上(都市計画区域外)ですので(国土利用計画法27条の4),それに比べて重要土地等調査法による事前届出の対象は,相当狭い物件にも及ぶことになります。
しかし,「機能阻害行為」が上記のようなものである以上,わずかのスペースでも「機能阻害行為」に及ぶことが可能であると考えられますので,安全保障に遺漏のないようにするためにはこの程度の面積にするのはやむを得ないものと考えられます。
注視区域や特別注視区域内に土地・建物を所有しあるいは利用している場合,注意が必要となります。

 

ストライキ

2023年9月11日

株式会社セブン&アイホールディングスの子会社である株式会社そごう・西武では,8月31日,そごう・西武労働組合が西武池袋本店でストライキを実施し,その結果同店の当日の営業が終日休業となりました。大手百貨店でのストライキは約60年ぶりとのことですが, そもそも最近ではストライキの実施がされているとは聞き及びません。

ところで,ストライキは同盟罷業ともいい,労務の集団的な不提供を行うという態様の争議行為であり(有斐閣 法律学小辞典第4版),憲法が保証する勤労者の団体行動権の一つです。また,争議行為とは,労働組合等が「その主張を貫徹することを目的として行う行為等で,業務の正常な運営を阻害するもの」とされます(労働関係調整法7条)。正当なストライキであれば,刑事上,民事上の責任は問われません(労働組合法1条2項,8条)。「正当」と評価されるためには,①目的の正当性,②手段の相当性,③手続の履行が必要とされます。

まず,①の目的の正当性ですが,労働者の地位向上や労働条件の改善をめざす目的を有することが必要です。したがって,個別の労働者の解雇とか工場の閉鎖など経営判断に関わる事項を目的とするストライキ,あるいは政治ストや同情ストは目的の正当性が認められない可能性があります。
次に②の手段の相当性ですが,暴力が認められないことは当然ですし(労働組合法1条2項),違法な権利侵害が許されないことは明らかです。
さらに,③の手続の履行ですが,労働組合法では,労働組合の規約に関し,「同盟罷業は,組合員または組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと」との定めがありますので(第4条2項8号),労働組合の規約に基づく決定を欠く場合,正当なストライキと評価されない可能性があります。
また,団体交渉を行わないままいきなりストライキに打って出ることは特段の事情がない限り正当なストライキとは認められないとされます。さらに,労働協約にストライキを行う場合事前に使用者にその旨通告するとされている場合は,事前の通告が必要となります。

以上の要件を充足する限り,ストライキを実行したとしても,刑事上,民事上の責任は問われません。また,使用者は,ストライキを理由として,労働者を解雇するなどの不当労働行為をすることができません(労働組合法7条1号)。
なお,運輸事業等の「公益事業」(労働関係調整法8条1項)でストライキ等の争議行為をしようとする場合は,その争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに労働委員会等にその旨の通知をしなければならないとされています(労働関係調整法37条)。

他方,ストライキが実行された場合,労務の提供をしていないことになりますので賃金請求権は発生しないのが原則です(ノーワークノーペイ)。ストライキによって削減しうる賃金の範囲は,労働協約等に別段の定めがある場合を除き,拘束された労働時間に対して支払われる賃金としての固定給であるとした判例があります(最高裁昭和40年2月5日判決 明治生命事件)。

ストライキは,労働者の要求実現の重要な手段ですが,やみくもに実行しても使用者の態度を硬化させるだけで逆効果になるおそれもありますし,社会の理解も得られないのではないでしょうか。9月6日付日経新聞によると,そごう・西武を買収した米ファンドは今のところ人員削減は検討していないとのことですし余剰人員が生じた場合はその引受先を用意するとのことです。また,ニュースを見る限り,ストライキについての一般の理解も得られていたように思われます。
したがって,今回のストライキは一定の成果を上げたといえると考えられます。

電子記録債権法

2022年10月20日

 一般社団法人全国銀行協会は,2022年(令和4年)11月4日から電子交換所における約束手形等の交換決済を開始し,一方で11月2日で全国の手形交換所の業務を終了するとしています。  約束手形の決済は,これまで手形交換所による交換決済が必要で,実際の支払いまでに数日を要するとされていましたが,電子交換所システムにすることで最短3営業日で決済されるようになるとのことです(日経新聞)。

 この約束手形は,振出人が手形用紙に一定の金額の支払い約束をして受取人に交付することにより権利が発生し,受取人は,支払期日に額面金額の支払いを受けることも裏書きにより第三者に譲渡することも可能です。しかし,書面による約束手形は紛失,盗難のリスクが避けられませんし,電子化された社会において,書面による手続が必ずしも合理的でないことは明らかです。 

 こうした書面の約束手形の難点を克服するため,平成20年に電子記録債権法が施行されました。

 この法律は,権利内容を電子債権記録機関の記録原簿に記録事項を電子的に記録することによって債権の存在,帰属を管理するとしています。つまり,約束手形の振出人に当たる「電子債権義務者」と受取人に当たる「電子債権権利者」双方が請求者の氏名又は名称及び住所その他の電子記録の請求に必要な情報を電子債権記録機関に提供すると(発生記録の請求),電子債権記録機関が記録原簿に発生記録を行い,電子記録債権が発生することになります。

 債権者はこの権利を第三者に譲渡することも可能であり,その場合は,譲渡人となる者(電子記録義務者)と譲受人となる者(電子債権権利者)双方が電子債権記録機関に電子記録を請求すると記録原簿に譲渡記録がされ,譲受人が債権の支払を受ける権利を取得することになります。

 支払期日に金融機関を利用して債務者口座から債権者口座に払い込みによる支払が行われた場合は,電子記録債権は消滅し,電子債権記録機関は金融機関から通知を受けることにより遅滞なく「支払等記録」をします。

 このように電子記録債権は,基本的に約束手形と同様の仕組みで設計されており,善意取得(法19条)や人的抗弁の切断(法20条)等取引の安全を確保する措置も講じられています。

 金融庁によると,電子債権記録機関として指定を受けた会社は令和3年9月8日時点で合計5社あり,法律とそれぞれの会社が定めるルール(業務規程)により業務が運営されることになっています(法56条)。そのうちの一つである株式会社全銀電子債権ネットワークが運営する「でんさいネット」では,2021年度の「でんさい請求取扱高」(発生記録請求金額)が約28兆8000億円,「でんさい利用者登録数」が約46万7000社とのことであり,利用が拡大していることがうかがわれます。

 このように,電子記録債権は約束手形に代わる決済手段ということになりますが,債権者,債務者,債権譲受人等の全ての関係者がこの仕組みに参加することが必要であり,その点のハードルをクリアしないといつまでも書面による約束手形が存続することになります。

 しかし,業務の効率化に電子化は不可欠であることから,いまさら紙の約束手形にこだわることは,会社の経営にとってマイナスになると考えられます。

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