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日産自動車に対する過料

2018年3月27日

国土交通省は,26日,日産自動車株式会社に対し,完成検査に係る不適切事案に関し,大臣名で型式指定に関する業務改善指示書を交付するとともに,道路運送車両法違反(完成検査の一部未実施)による過料適用のため横浜地方裁判所に通知を行ったと発表しました。

日産社では,法律で資格を有する検査員による完成検査を行うべきところ,社内規定に基づいて認定された完成検査員ではない検査員が完成検査の一部を行っていました。今回の業務改善指示書の交付はこれを受けたものです。ところが,日産社は,国交省の立入検査を受けた平成29年9月以降も,完成検査の一部である「車室外乗降支援灯(消灯)」の検査をしていませんでした。今回,その事実が判明したことから,国交省は,立入検査があった平成29年9月29日以降に完成検査をした107台分について,道路運送車両法75条4項違反による過料の制裁を科すことにしたのでした。

監督官庁の立入検査を受けたのであれば,通常,それ以降は細心の注意を払ってミスが起きないよう努めるものですが,日産社が今回このようなミスを犯したのは手抜かりとしかいいようがなく,日産社については,ガバナンスに問題があるといわれても文句はいえないと思われます。日産社は,過料の制裁が科せられることになりますが,日本を代表する大手メーカーに対して過料の制裁が科せられるのは極めて深刻な事態であると思います。

ところで,この「過料」とは,金銭罰ではありますが,罰金(刑法15条)や科料(刑法17条)のような刑罰ではありません。刑罰を科す場合は,刑事訴訟法に基づき,検察官が被疑者を起訴することになりますが,過料は,刑罰ではありませんので,刑法総則,刑事訴訟法の適用を受けず,非訟事件手続法等による手続となります。今回の過料は,いわゆる「秩序罰」としての過料で,このカテゴリーには,①民事法上の義務違反(会社法等),②訴訟法上の義務違反(民訴法192条等,刑訴法137条等),③行政上の義務違反,④地方公共団体の条例,規則違反があるとされます。今回の日産社のケースは,③の行政上の義務違反による過料になります。

過料事件の申立ては,裁判所に申立書を提出して手続が開始され(非訟43条),裁判所は,検察官の意見を聴くとともに,当事者の陳述を聴くなどして過料の裁判をすることになりますが,この裁判には理由を付さなければなりません(非訟120条)。ただ,裁判所は,相当と認められるときは,当事者の陳述を聴かないで過料についての裁判をすることが可能です(略式手続 非訟122条)。また,過料の裁判は,検察官の命令で執行され,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従って行われます(非訟121条)。

この過料事件は,地裁,簡裁あわせると毎年10万件程度申し立てられているようです。案外頻繁に利用されているようですね。

 

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