東京・銀座の弁護士

弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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新たな外国人材の受入れ制度

2019年3月4日

先の国会で,出入国管理及び難民認定法が改正され,新たな外国人材受け入れのための在留資格である特定技能の在留資格が創設され,今年の4月1日から登録の受け付けが開始されることになっています。

 

今回新たに創設された在留資格である「特定技能」は,「特定技能1号」で在留する外国人(1号特定技能外国人)と「特定技能2号」で在留する外国人(2号特定技能外国人)に分けられます。

1号特定技能外国人とは,

 人材を確保することが困難な状況にある特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人

とまとめることができ,その要件として,

① 在留期間を1年間とし,6か月又は4か月ごとに更新できることとし,通算で上限を5年とする。

② 技能水準,日本語能力水準は試験により確認する。

③ 家族の帯同は基本的に認められない。

④ 受け入れ機関又は登録支援機関による支援を得られるようにする。

となります。

他方,2号特定技能外国人は,

 特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人

とまとめることができますが,この2号特定技能外国人については,政府の基本方針で「分野別運用方針に記載する無効5年間の受け入れ見込み数については,大きな経済情勢の変化が生じない限り,『特定技能1号』の在留資格をもって在留する外国人受け入れの上限として運用する。」とされていますので,少なくとも今後5年間は受け入れはないようです。

したがって,これから受け入れが始まるのは1号特定技能外国人ということになります。

なお,上記の特定産業分野は,

 ①介護,②ビルクリーニング,③素形材産業,④産業機械製造業,⑤電気・電子情報関連産業,⑥建設,⑦造船・船舶工業,⑧自動車整備,⑨航空,⑩宿泊,⑪農業,⑫漁業,⑬飲食料品製造業,⑭外食業

の14分野に限定されます。

特定技能の在留資格で入国,在留を希望する外国人は,日本語能力試験,技能水準判定試験を受験し,それに合格する必要があります。

ただし,既に「技能実習2号」の資格を有する外国人は,日本語試験,技能試験は免除されます。

 

次に受入機関についてですが,受入機関が外国人を受け入れるための基準として,

① 報酬が日本人と同等以上と定めるなど,外国人と結ぶ雇用契約(特定技能雇用契約)が適切であること

② 5年以内に出入国及び難民認定法違反や労働法令違反がないなど,受入機関自体が適切であること

③ 外国人が理解できる言語で支援できるなど,外国人を支援する体制があること

④ 生活オリエンテーション等を含む外国人を支援する計画(一号特定技能外国人支援計画)が適切であること

などとされています。

さらに,受入機関の義務として

① 報酬を適切に支払うなど外国人と結んだ雇用契約を確実に履行する義務

② 外国人の支援を適切に実施する義務

③ 出入国在留管理庁への各種届出をする義務(19条の18)

が定められており,これに違反すると,新たに外国人を受け入れることができなくなるほか,出入国在留管理庁から指導,改善命令等を受けることがあります(法19条の21)。

また,1号特定外国人を援助するための計画(1号特定技能外国人支援計画)に基づく支援の全部の実施を行う機関として「登録支援機関」が設けられます。

 

このように,新たに特定技能という在留資格が認められましたが,受入機関は,適切な特定技能雇用契約を結ぶとともに,適切な1号特定技能外国人支援計画を策定する必要があります(支援計画の策定は,登録支援機関も全部の実施を委託することも可能です。)ので,これに違反する一定の制裁を受けることになります。

とはいえ,初めての制度ですので,「適切」とはどのような内容なのか手探りの状態にあるといえますので,出入国在留管理庁等の関係機関と連絡を取り合いながら,慎重に対応するしかないというのが実態であると思います。

労働力確保は喫緊の課題となっていますが,受入機関として受け入れる体制を整備するとともに,遵守するべき義務を守ることが大前提となります。

地面師詐欺

2019年2月7日

私は,土地の所有者と称する女(成りすまし)について,手続代理人として本人確認をすることになった弁護士が,女が持参した顔写真入りの住民基本台帳カードにより本人確認をしたところ,売買契約の後に成りすましであることが判明し,売買契約の買主から損害賠償請求をされたという事件の弁護士の代理人となりました。

この事件は,第一審では弁護士が一部敗訴(過失相殺4割)したのですが(判例時報2343号),控訴審(東京高等裁判所平成29年6月28日判決)では弁護士の責任が否定されました。その控訴審判決がこのたび判例時報(2389号)に掲載されました。

なお,控訴審判決後,最高裁に上告受理申立がされましたが,最高裁は,平成29年12月12日付で,「本件を上告審として受理しない。」との決定をして,高裁判決が確定しました。

 

この事件では,女が持参した住民基本台帳カードは実に精巧に偽造されており,到底見破ることができないものでした。そのため,法務局での審査でも特に問題なく受け付けてもらえました(これに対し,積水ハウス社が被害にあった品川区内の土地売買を巡る地面師詐欺事件では,法務局が本人確認書類の矛盾に気づき,登記を受理しなかったものと考えられます。)。

ただ,女が事情説明のために持ち込んだ遺産分割協議書にいくつかの誤記等があり,また,売買契約そのものも,2億4000万円を現金で決済するという通常の取引ではあり得ない異常なものでした。

本件訴訟の第一審は,その点をとらえて,本人確認書類の作成を依頼された弁護士としては,単に書類審査のみでなく,売主の自宅を訪問するなどの方法による本人確認をするべきであったのにこれを怠ったとして,弁護士の過失を認めて約1億6000万円の支払いを命じる判決をしましたが,この第一審を不服として控訴したのがこのたび判例時報に掲載された東京高裁判決でした。

東京高裁は,遺産分割協議書の記載の誤りがあったとしても,同時に持ち込まれた印鑑登録証明書(これも偽造されたものです。)の印影と同一の印影が顕出されていることからすると,誤記の存在をもって成りすましを疑うべき事情とはいえないし,弁護士は,売買契約の内容には全く関与しておらず,異常性を知ることができなかったとして,弁護士の責任を全面的に否定したのでした。

 

本件では以上のような経過で弁護士の責任が否定されましたが,まずは地面師詐欺の被害にあわないようにすることが重要です。

そのためには,一にも二にも成りすましかどうかを見極めることにあります。

地面師詐欺には,

おいしい土地なのに長い間開発されていない。

しかも抵当権が設定されていない。

所有者が高齢者や実態がよく分からない法人である。

所有者本人となかなか会うことができない。

代理人と称する者が仕切っている。

正体不明の人物がうろうろしている。

取引を急がせる。

などといった特徴があると思われます。

このような特徴が一つでもあれば地面師詐欺を疑った方がいいのではないでしょうか。

そこで,このよう特徴があったり,何か怪しいと感じるものがあれば,所有者と称している人物の写真をご近所の方に見ていただき,所有者ご本人かどうかを確認するのが適当です。

ですので,上記のような場合には,交渉の際,「(所有者と称する人物の)写真をご近所の方に見せてもいいでしょうか?」と言ってみると,地面師詐欺でないのであれば「どうぞ,ご自由に。」ということになるでしょうが,地面師詐欺であれば,「この話はなかったことにしてほしい。」と言ってくるのではないでしょうか。

積水ハウスさんは,代金をだまし取られた後に,ご近所の方に所有者と称する女の写真を見せたところ,別人であると指摘され,初めて成りすましであることが分かったとのことですが,後の祭りでした。

また,弁護士や司法書士が売主の売買の代理人とか,手続代理人であったとしても,それを信用することなく,買主が売主本人の本人確認をすべきでしょう。

だまされてからでは遅いのです。

日産自動車の不適切行為

2018年7月13日

日産自動車株式会社は,9日,完成検査時の燃費・排出ガスの測定の際,試験環境を逸脱した排出ガス・燃費測定試験を行い,測定値を書き換えて,検査報告書を作成していたことを公表しました。

日産社といえば,昨年,資格がない社員に完成検査を行わせていた問題が発覚し,過料の制裁を受けました。普通の感覚であれば,ある問題が発覚すれば,現在進行中の不適切行為を中止するインセンティブが働くものですが,今回の燃費・排出ガス測定での不適切行為は,完成検査資格の問題で大規模な調査が行われていた最中にも密かに行われていたことになります。当然,燃費・排出ガスデータの書き換えなどをしていた社員の方も,無資格検査の調査が行われていることは分かっていたでしょうが,どうして不適切行為を続けたのか,その原因が気になるところです。

正確なところは調査結果を待つことになりますが,おそらく,測定値の書き換えをしないと業務が滞るとか,他の検査データ偽装の場合と同様,測定値の書き換えをしても法令違反にはならないと安易に考えていた(日産社の場合,法令で定める保安基準より厳しい基準が設けられており,その社内基準をクリアできなかったとき測定値を書き換えていたとのことで,法令の定める保安基準には適合していました。)などが考えられます。また,新聞報道では,排出ガス規制の検査では,試験の際,車を走らせる技量が不足していたため想定を超える数値が出てしまったことから,自らの技量不足を取り繕うためという事情もあったとのことです。これは一種の自己保身といえます。

ところで,今回の問題は,SUBARU社が同様の排出ガスデータの書き換えをしていたことが明るみに出たことから,日産社においても「全ての活動について徹底的に確認する中で発覚した」とのことです(日経 7月10日)。本来であれば,無資格検査問題の調査の過程で,今回の不適切行為も明らかにされるべきであり,その方が会社の受けるダメージは小さかったはずです。しかし,現場から燃費・排出ガスの測定値の書き換えについて申告されることはなく,自浄能力の欠如があらわになってしまいました。さらにいうなら,日産社は,三菱自動車の燃費データ偽装の端緒をつかみ,結果的に三菱自動車を傘下に収めることになりましたので,燃費データ偽装の顛末を目の当たりにすれば,自らの不適切行為を根絶する絶好の機会だったはずですが,自らを正当化し,あるいはバレなければいいだろうと安直に考えてしまったのかもしれません。

今や品質不正問題は,経営上の重大なリスクとなっています。ですから,品質管理はもはや現場任せにすることはできず,経営陣は,常に現場が適法,適正に運営されているかを確認する一方,現場だけにしわ寄せを強いることのない態勢を構築するべき義務があるといえるでしょう。

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