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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

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日本大学の危機対応

2018年5月25日

日本大学が大変なことになっています。

ことの発端は,5月6日に行われた日大と関西学院大学とのアメリカンフットボールの交流戦での日大選手の反則行為でした。

日大選手のタックルの状況は報道や動画で繰り返し流れていますが,プレー終了後の無防備な状態のプレーヤーに対する,背後からの,しかも下半身へのタックルであることから,極めて危険で悪質な反則であることは明らかで,フットボールの解説者が口をそろて「これまで見たこともないレベル」というほどのものでした。

このプレーを巡り,監督とコーチの指示によるものだったのか否かについて,選手と監督らとの間で意見の食い違いが生じているわけです。

これまでの報道等で,コーチが選手に「(相手のQBを)潰してこい」と言ったことは双方認めていますが,その意味について食い違いが生じています。確かにフットボールでは,コーチが「(QBを)つぶせ」とを言うことはままありますが,その意味は,当然,合法的にQBサックをしろということです。しかし,今回は,QBを負傷させようとタックルしたことが明らかで,本人も,故意であり,監督,コーチの指示(命令)であったと認めました。この選手は,高校時代からフットボールを始め,日本代表にも選出されるほどの力量を有するある意味エリート選手ですから,「つぶせ」という命令が,相手のQBを負傷させることを意味しないことは十分理解しているわけです。それにもかかわらずあのようなプレーに及んだのは,監督から干されていたなど,彼が記者会見で説明したとおりの事情があったからとすれば理解可能ということになります。つまり,当日の「つぶせ」という指示には,相手QBを負傷させろという特別の意味があると認識したからこそ,あのようなプレーに及んだということです。ただ,彼の説明には客観的な裏付けがあるわけではありませんので,事実の解明は,日弁連のガイドラインに依拠した独立の第三者委員会に委ねるほかなく,その結論に基づいて関係者の処分や再発防止策を講じることになります。

このように真相解明は第三者に委ねるとして,やはり問題なのは,日大の危機管理能力です(既に多々指摘されているところではありますが。)。

日大は,この件がネットで騒がれ始めた10日,部の公式ホームページで謝罪文を掲載,15日に日大コーチが関学を訪問し回答書を持参,16日に日大の広報が「監督は,指示をしていない」旨のコメント発表し,19日に監督が関学を訪問し謝罪した後,空港での記者会見に応じ,選手の記者会見(22日)の翌日に,監督とコーチの緊急記者会見を開きましたが,対応が悠長であることは明らかです。

危機対応の初動の基本は,一般的に,早期に,その時点で把握できている事実関係を包み隠さず明らかにすることです。全体像がはっきりしない状態で情報を開示することに対する不安はあるでしょうが,早期に情報開示が,事態の早期の沈静化につながりやすいといえます。逆に,情報を小出しにし,しかも外部からみて弁解じみていると評価されるようなことをすると,ますます事態が悪化していくことになります。

本件では,ゲーム中の一プレーの背景を調べるだけですので,大学がその気になり,監督以下が調査に全面的に協力すれば,調査に要する時間などたかがしれているはずです。大学が明確な説明をしないというのは,単にいいわけを考えるための時間稼ぎをしているのではないかとの疑念が生じてしまいます。

日大のアメリカンフットボール部は大学を代表する名門で,しかも,監督は,昨年の甲子園ボウルで優勝に導いただけでなく,日大の常務理事などの要職にあるそうです。そのため,外部からのコントロールが及ばない聖域と化し,監督とコーチのみでいろいろもっともらしい弁解を考えているうちに時間が経過していき,小出しの説明がどれも弁解と受け取られてしまったということなのかもしれません。

本来であれば,騒ぎが拡大し,マスコミに取り上げられ始めた段階で,大学本部が危機管理の専門家(ちなみに日大には,危機管理学部があります。)のアドバイスを受けながら,監督側の言い分も含め,その時点で判明している事実関係を開示し,謝罪をしておけば,ここまで大きな社会問題にはならずにすんだと思います。少なくとも,選手がが実名,顔出しでの記者会見で,「監督,コーチの指示でやらざるを得なかった」と認めてしまうといった,大学にとって最悪の展開は避けることができたのではないでしょうか。

日大の初動の対応を見る限り,ことの重大性を認識できていなかったといえますが,さらに,監督は,関東学生連盟に対し,当初,8月下旬までの指導自粛を申し入れていたとのことです。この程度で幕引きをはかりたいとの気持ちの表れでしょうが,19日には辞任を表明せざるを得なくなってしまいました。この点においても,事態の重大性を認識できていなかったことが認められます。つまり認知能力の欠如です。

ちなみに本場アメリカのNFLでは,相手選手を負傷させたプレーヤーに報奨金を出していたディフェンシブコーディネーターが,リーグから永久追放されました。このコーディネーターは,チームをスーパーボウルチャンピオンに導いた優秀なコーディネーターだったのですが,問答無用で一発退場となりました。

さらに,23日の大学の記者会見では,司会者が会見を一方的に打ち切ると言い出すなどして,火に油を注いでしまいました。監督,コーチ,さらには大学を守りたいという気持ちから出た行動だったのかもしれませんが,大学が置かれた状況を理解していない対応であったといわざるを得ません。この点でも危機管理ができていないというほかありません。

日経新聞のコラムにありましたが,今回の件での日大の対応は,危機管理の典型的な失敗事例として記憶されることになりそうです。

神戸製鋼所に対する捜査

2018年5月8日

東京地方検察庁と警視庁は,神戸製鋼所が製品の検査証明書のデータの書き換えるなどして,顧客と取り決めた仕様に適合しない製品を出荷していた件に関し,不正競争防止法違反の容疑で捜査を開始したとのことです(読売 平成30年4月26日)。

不正競争防止法は,商品等の品質等について,「誤認」させるような表示をしたり,又は表示をした商品を譲渡するなどの行為を「不正競争」とし(同法2条1項14号),不正の目的をもってそのような不正競争をした者に対して,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し,又はこれを併科すると定めています(同法21条2項1号)。

ところで,同様の事案に,東洋ゴム工業株式会社の子会社が免震ゴムの性能を偽装し,国が定めた性能を下回る製品を出荷した事案がありますが,この事案では,東洋ゴム工業社,その子会社,会社の取締役らが書類送検されるとともに,起訴された子会社が罰金刑に処せられました。

東洋ゴム社は,性能不足の製品を出荷する約1か月前に,社内で開いた会議で経営陣に対し,「製品が国の定めた基準に適合していない」ことが報告されたとのことです(日経 平成29年3月31日付)。したがって,経営陣は,品質偽装を十分に認識しつつ,性能不足の製品の出荷を指示していたわけで,組織的な犯行といわざるを得ないものでした。また,この件では,製品の出荷先の関係者が大阪地方検察庁に対して刑事告訴をしたとのことです(産経平成28年2月3日)。東洋ゴム社の事案では,上記のような事情を総合勘案して,捜査当局が必要な捜査を行い,法人である子会社を起訴したものと考えられます。

他方,神戸製鋼社の場合はどうなのでしょうか。

確かに,品質偽装により日本の製造業の信頼が大きく損なわれたことは間違いないでしょう。しかし,これまでの報道を見る限り,神戸製鋼社では東洋ゴム社のような偽装についての組織的な共通認識があったとまでは認められません(もちろん,そのことがガバナンス上の問題であることは当然ですが。)。さらに,神戸製鋼所の場合,不正に関与していたとされる製造現場の社員が実際と異なる検査データの記載を「虚偽」と認識していたかどうかも必ずしも明確ではありません。しかも,これまでに,取引先が刑事告訴をしたとも伝えられていません。さらに,「不正の目的」があったといえるかどうかも明確とはいえません。

このように,神戸製鋼所の件は,同じ性能偽装ではありますが,東洋ゴム社の事案とは微妙に異なるように思われますし,立件には現時点でそれなりのハードルがあるように思われます。今後の捜査当局の動きに注目したいと思います。

共有物分割請求

2018年4月3日

相続などで共有関係が生じることがしばしばあります。こうした共有を解消するために共有者は「いつでも」共有物分割請求をすることができ(民法256条),共有物の分割について共有者間に協議が整わない場合は裁判所は競売を命ずることができます(民法258条)。共有者間にトラブルがなければそもそも共有物分割請求がされることは多くないでしょうが,トラブルが生じると共有物分割請求が問題となってきます。ところが,権利関係が複雑だと簡単に共有物の分割ができません。

判例時報の最新号(2359号)にもそのような事例が紹介されています。

事案は概略次のとおりです。すなわち,土地を相続等で取得した兄弟(A,B,C 但し,ABの持分は各4分の1,Cは2分の1)が,土地の上に,各階ごとに区分所有になっている3階建ての区分建物を建築し,Aが3階部分,Bが2階部分,Cの夫が1階部分を区分所有して居住することになりました(その後,夫は区分所有権をCに譲渡しました。)。そして,Cの夫が本件土地について土地使用権を有する旨及び本件各区分建物と本件土地とを分離して処分することができる旨の規約を締結しました。そうしたところ,ABとCらとの間で建物の管理や修繕の件で紛争が繰り返されるようになり,ついにCがABに対して共有物分割請求をしたというものです。

本件土地上の建物はA,B,Cがそれぞれ区分所有者である区分建物であり,Cの一存で競売にかけることはできません。他方,民法258条2項により,裁判所が競売を命じて第三者が土地を競落した場合,法定地上権(民事執行法81条)は成立しません(共有物分割のための競売は民事執行法195条の適用を受けますが,同法188条が同法81条の法定地上権の規定を排除しています。)。そのため,本件土地が競売されると,本件の区分建物には敷地利用権がなくなり,土地競落人から建物収去,土地明渡しを求められることになると考えられます。そうしたこともあり,裁判所は,高齢で年金受給者であるABが被る不利益が,分割請求が認められないことによるCの不利益に比して大きいと判断し,Cの共有物分割請求が権利の濫用となるとして,Cの請求を棄却しました(東京地裁平成28年10月13日判決)。

共有物の分割は原則自由なのですが,権利関係が複雑ですと分割は事実上困難です。遺産分割を税理士さん任せにしていると,なぜか分かりませんがやたら土地建物の共有関係を細分化することがあります。税理士さんとしては,相続税の負担を最小化しようとの意図があるのかもしれませんが,権利関係を複雑にしてしまうと,トラブルが発生した場合,その処理が極めて困難になります。そのため,ケースバイケースであるとは思いますが,分割の際には,将来トラブルが生じてもいいように,共有関係にすることはできるだけ避け,シンプルな形で分割した方がいいと思います。

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