神戸製鋼所に対する捜査
2018年5月8日
東京地方検察庁と警視庁は,神戸製鋼所が製品の検査証明書のデータの書き換えるなどして,顧客と取り決めた仕様に適合しない製品を出荷していた件に関し,不正競争防止法違反の容疑で捜査を開始したとのことです(読売 平成30年4月26日)。
不正競争防止法は,商品等の品質等について,「誤認」させるような表示をしたり,又は表示をした商品を譲渡するなどの行為を「不正競争」とし(同法2条1項14号),不正の目的をもってそのような不正競争をした者に対して,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し,又はこれを併科すると定めています(同法21条2項1号)。
ところで,同様の事案に,東洋ゴム工業株式会社の子会社が免震ゴムの性能を偽装し,国が定めた性能を下回る製品を出荷した事案がありますが,この事案では,東洋ゴム工業社,その子会社,会社の取締役らが書類送検されるとともに,起訴された子会社が罰金刑に処せられました。
東洋ゴム社は,性能不足の製品を出荷する約1か月前に,社内で開いた会議で経営陣に対し,「製品が国の定めた基準に適合していない」ことが報告されたとのことです(日経 平成29年3月31日付)。したがって,経営陣は,品質偽装を十分に認識しつつ,性能不足の製品の出荷を指示していたわけで,組織的な犯行といわざるを得ないものでした。また,この件では,製品の出荷先の関係者が大阪地方検察庁に対して刑事告訴をしたとのことです(産経平成28年2月3日)。東洋ゴム社の事案では,上記のような事情を総合勘案して,捜査当局が必要な捜査を行い,法人である子会社を起訴したものと考えられます。
他方,神戸製鋼社の場合はどうなのでしょうか。
確かに,品質偽装により日本の製造業の信頼が大きく損なわれたことは間違いないでしょう。しかし,これまでの報道を見る限り,神戸製鋼社では東洋ゴム社のような偽装についての組織的な共通認識があったとまでは認められません(もちろん,そのことがガバナンス上の問題であることは当然ですが。)。さらに,神戸製鋼所の場合,不正に関与していたとされる製造現場の社員が実際と異なる検査データの記載を「虚偽」と認識していたかどうかも必ずしも明確ではありません。しかも,これまでに,取引先が刑事告訴をしたとも伝えられていません。さらに,「不正の目的」があったといえるかどうかも明確とはいえません。
このように,神戸製鋼所の件は,同じ性能偽装ではありますが,東洋ゴム社の事案とは微妙に異なるように思われますし,立件には現時点でそれなりのハードルがあるように思われます。今後の捜査当局の動きに注目したいと思います。
共有物分割請求
2018年4月3日
相続などで共有関係が生じることがしばしばあります。こうした共有を解消するために共有者は「いつでも」共有物分割請求をすることができ(民法256条),共有物の分割について共有者間に協議が整わない場合は裁判所は競売を命ずることができます(民法258条)。共有者間にトラブルがなければそもそも共有物分割請求がされることは多くないでしょうが,トラブルが生じると共有物分割請求が問題となってきます。ところが,権利関係が複雑だと簡単に共有物の分割ができません。
判例時報の最新号(2359号)にもそのような事例が紹介されています。
事案は概略次のとおりです。すなわち,土地を相続等で取得した兄弟(A,B,C 但し,ABの持分は各4分の1,Cは2分の1)が,土地の上に,各階ごとに区分所有になっている3階建ての区分建物を建築し,Aが3階部分,Bが2階部分,Cの夫が1階部分を区分所有して居住することになりました(その後,夫は区分所有権をCに譲渡しました。)。そして,Cの夫が本件土地について土地使用権を有する旨及び本件各区分建物と本件土地とを分離して処分することができる旨の規約を締結しました。そうしたところ,ABとCらとの間で建物の管理や修繕の件で紛争が繰り返されるようになり,ついにCがABに対して共有物分割請求をしたというものです。
本件土地上の建物はA,B,Cがそれぞれ区分所有者である区分建物であり,Cの一存で競売にかけることはできません。他方,民法258条2項により,裁判所が競売を命じて第三者が土地を競落した場合,法定地上権(民事執行法81条)は成立しません(共有物分割のための競売は民事執行法195条の適用を受けますが,同法188条が同法81条の法定地上権の規定を排除しています。)。そのため,本件土地が競売されると,本件の区分建物には敷地利用権がなくなり,土地競落人から建物収去,土地明渡しを求められることになると考えられます。そうしたこともあり,裁判所は,高齢で年金受給者であるABが被る不利益が,分割請求が認められないことによるCの不利益に比して大きいと判断し,Cの共有物分割請求が権利の濫用となるとして,Cの請求を棄却しました(東京地裁平成28年10月13日判決)。
共有物の分割は原則自由なのですが,権利関係が複雑ですと分割は事実上困難です。遺産分割を税理士さん任せにしていると,なぜか分かりませんがやたら土地建物の共有関係を細分化することがあります。税理士さんとしては,相続税の負担を最小化しようとの意図があるのかもしれませんが,権利関係を複雑にしてしまうと,トラブルが発生した場合,その処理が極めて困難になります。そのため,ケースバイケースであるとは思いますが,分割の際には,将来トラブルが生じてもいいように,共有関係にすることはできるだけ避け,シンプルな形で分割した方がいいと思います。
日産自動車に対する過料
2018年3月27日
国土交通省は,26日,日産自動車株式会社に対し,完成検査に係る不適切事案に関し,大臣名で型式指定に関する業務改善指示書を交付するとともに,道路運送車両法違反(完成検査の一部未実施)による過料適用のため横浜地方裁判所に通知を行ったと発表しました。
日産社では,法律で資格を有する検査員による完成検査を行うべきところ,社内規定に基づいて認定された完成検査員ではない検査員が完成検査の一部を行っていました。今回の業務改善指示書の交付はこれを受けたものです。ところが,日産社は,国交省の立入検査を受けた平成29年9月以降も,完成検査の一部である「車室外乗降支援灯(消灯)」の検査をしていませんでした。今回,その事実が判明したことから,国交省は,立入検査があった平成29年9月29日以降に完成検査をした107台分について,道路運送車両法75条4項違反による過料の制裁を科すことにしたのでした。
監督官庁の立入検査を受けたのであれば,通常,それ以降は細心の注意を払ってミスが起きないよう努めるものですが,日産社が今回このようなミスを犯したのは手抜かりとしかいいようがなく,日産社については,ガバナンスに問題があるといわれても文句はいえないと思われます。日産社は,過料の制裁が科せられることになりますが,日本を代表する大手メーカーに対して過料の制裁が科せられるのは極めて深刻な事態であると思います。
ところで,この「過料」とは,金銭罰ではありますが,罰金(刑法15条)や科料(刑法17条)のような刑罰ではありません。刑罰を科す場合は,刑事訴訟法に基づき,検察官が被疑者を起訴することになりますが,過料は,刑罰ではありませんので,刑法総則,刑事訴訟法の適用を受けず,非訟事件手続法等による手続となります。今回の過料は,いわゆる「秩序罰」としての過料で,このカテゴリーには,①民事法上の義務違反(会社法等),②訴訟法上の義務違反(民訴法192条等,刑訴法137条等),③行政上の義務違反,④地方公共団体の条例,規則違反があるとされます。今回の日産社のケースは,③の行政上の義務違反による過料になります。
過料事件の申立ては,裁判所に申立書を提出して手続が開始され(非訟43条),裁判所は,検察官の意見を聴くとともに,当事者の陳述を聴くなどして過料の裁判をすることになりますが,この裁判には理由を付さなければなりません(非訟120条)。ただ,裁判所は,相当と認められるときは,当事者の陳述を聴かないで過料についての裁判をすることが可能です(略式手続 非訟122条)。また,過料の裁判は,検察官の命令で執行され,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従って行われます(非訟121条)。
この過料事件は,地裁,簡裁あわせると毎年10万件程度申し立てられているようです。案外頻繁に利用されているようですね。
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