会社法改正試案
2018年2月19日
2月15日の日経新聞によると,法制審議会の会社法制部会が,一人の株主が株主総会で提案できる議案数を最大10までに制限することなどを内容とする会社法改正の試案を正式にまとめたそうです。
株主提案権とは,①議題提案権(法303条),②議案提案権(法304条),③議案要領通知請求権(法305条)のことを指します。
このうち,①の議題提案権は,一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限ります。)を株主総会の目的(議題)とするよう請求することができるというもので,公開会社の場合,総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を6か月前から引き続き有することが要件となります(但し,定款の定めにより要件を緩和することも可能です。)。複数の株主がその有する議決権数を合算することにより要件が充足される場合も提案が可能です。議題提案権は,定款変更議題として提案される場合が多いようです。
②の議案提案権は,株主が,株主総会において,株主総会の目的である事項(議題)について議案を提出することができるというもので,議決権数等の制限はありません。
③の議案要領通知請求権は,株主が株主総会の目的である事項(議題)につき自分が提出しようとする議案の要領を他の株主に通知するよう請求することができるというもので,議決権数について①の議題提案権と同じ要件が定められています。
このような株主提案権ですが,これまで,提案する数についての制限はありませんでした。そのため,一人の株主が多数の提案をすることがあり,その結果,会社は,提案についての対応の検討,提案された議案を盛り込んだ招集通知の印刷,送付等で多大な労力とコストを強いられてきましたし,議事進行が妨げられて意思決定機関としての株主総会の機能不全をもたらすといわれています。実際,業務妨害的な意図でされる提案もあるでしょうし,株主個人の感想を開陳するだけの意味不明のものもありますので,そのような濫用的な「提案」を制限すべきは明らかです。
会社は,議案が株主総会の目的でない場合,法令又は定款に違反する場合などには提案を拒否することができますし,権利の濫用と認められる提案も拒否することができると考えられます(東京高決平成24年5月31日等)。ただ,会社がその判断で提案を拒否することは実際問題として困難でしょうから,数という明確な基準を示したものといえます。
株主提案権は,株主の意見を会社の運営に反映させようとするものであり,株式会社の民主的運営という建前からすると本来制限すべきないといえます。しかし,現実に濫用事例が認められ,それによる弊害が存在する以上,一定の制限がされることはやむを得ないものといえます。
内部通報者の保護
2018年2月13日
今日の日経新聞に,内部通報者の保護を強化するため,公益通報者保護法に行政措置や刑事罰を設けることが検討されているとの記事がありました。
現行の公益通報者保護法では,内部通報者に対する不利益処分を禁じる定めはあるものの,内部通報者が実際に不利益処分を受けた場合は,その処分の撤回を求める民事裁判を起こす必要があり,これが内部通報者にとっては大変な負担になるわけです。そこで,例えば報復人事がされた場合,企業に勧告を出したり企業名を公表するなどの行政措置を設け,さらに悪質な企業に対しては刑事罰を科すことが検討されているとのことです。アメリカでは,企業が通報者を解雇等した場合,罰金や懲役刑が科せられるそうですので,それに倣った規定を設けようということなのでしょう。
ただ,ここで考えなければならないのは,行政措置や刑事罰を設けることが本当に内部通報者の保護につながるのかということです。
行政措置でも刑事罰も,企業が内部通報者にした不利益処分が報復目的であることが証拠に基づいて立証する必要があります。しかし,企業が報復目的であることを簡単に認めるわけはなく,業務の必要のためとか,内部通報者の個人的資質を理由とした措置であるなどの反論をすることは明白ですし,そもそも不利益処分性についても争う可能性があります。そのため,報復目的等の立証にはかなり高いハードルがあると思われ,司法機関による刑事罰の場合はもちろん,行政機関の行政措置の場合も適用にはかなり慎重になると思います。そうなると,行政措置,刑事罰を定めても抜かずの宝刀になるおそれがあります。報復目的等でないことを企業側に立証させる方法もあり得るかと思いますが,そのような立証責任の転換には慎重であるべきです。
もちろん,内部通報の重要性はいうまでもなく,企業が自ら不正をただすきっかけとなりますので,内部通報者に対する報復が許されないことはいうまでもありません。ただ,内部通報者保護のため方法として行政措置や刑事罰のみでなく,それとは異なるアプローチがあってもいいのではないかと思います。
建設現場の安全
2018年2月6日
先日,顧問先の建設会社がビルの建設工事をしていたところ,内容虚偽の中傷ビラをまかれるという被害を受けました。ビラには,「作業員に安全帯をさせないまま高所での作業をさせていた」ことが法令違反であるなどと記載されていました。
確かに,鉄骨の組み上げ作業をする際,作業員は安全帯を装着していませんでしたが,代わりに安全ブロック(万が一足を踏み外した場合,転落時の落下距離を短くする装置)を装着していました。
労働安全衛生規則は,高さ2メートル以上の箇所の作業床の端,開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には,囲い,手すり,覆い等を設けなければならないとし(規則519条1項),囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは,防網を張り,労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならないとしています(同条2項)。このように,転落防止措置は安全ブロックでもかまいませんので,会社に法令違反の事実はありませんでした。
したがって,今回のビラの記載は全くでたらめであり(これ以外にも内容虚偽の事実が多々記載されていました。),嫌がらせ目的であることが明白でしたので,厳重に抗議したことはいうまでもありません。
このような一件があったからというわけではありませんが,昨日の日経電子版の「建設現場で死亡事故多発 背景に活況下での人手不足」との記事が目にとまりました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26083110U8A120C1000000/
記事によると,建設現場での死亡事故はここ数年減り続けていたものの,2017年には増加に転じそうであり,今後も事故が増える可能性があるそうです。また,事故原因としては墜落・転落が最も多く,昨年は東京の「(仮称)丸の内3-2計画」ビル建設工事,新名神高速道路の橋梁工事等で転落による死亡事故が発生しており,安全帯等を装着しなかったため,足場の解体作業中に転落してしまった事故もありました。安全帯や安全ブロック等何らかの転落防止措置を講じていれば事故を防ぐことができたはずです。
なお,記事によると,死亡事故の増加要因として人手不足があるとのことです。確かに,近時の人手不足により,熟練していない作業員を多数使用することから,労働災害が起きるリスクが高くなっていると考えられます。労働災害は,関係者全てにとって負の結果をもたらしますので,労働災害をゼロにするよう努力すべきはいうまでもありません。しかし,今後,人手不足を背景に事故が増えると予想されますから,作業員に対する安全配慮義務を負う事業者としては,これまで以上の安全配慮が必要となります。その分増大するであろうコストは,労災が発生した場合のダメージを回避するための必要経費と考えるべきです。
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