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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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再び地面師詐欺

2018年2月24日

このコラムでは時々地面師詐欺を取り上げていますが,自分が地面師詐欺に絡んだ事件の代理人をしている関係で,地面師詐欺関連の記事があるとどうしても気になってしまいます(判例時報2343号・78頁に第一審の判決が掲載されています。なお,第一審は,一審被告に約1億6000万円を支払うよう命じましたが,控訴審で一審被告の責任を否定する逆転判決がされ,上告審でもその結論が維持されました。)。

そうしたところ,本日の日経新聞に,積水ハウス株式会社が引っかかった詐欺事件に関係する記事がありました。積水ハウス社は,昨年6月に品川区内の土地を巡り詐欺の被害を受けましたが,その事件に関する調査報告書の内容が明らかになったとのことです。

積水ハウス社では,この詐欺事件を契機として,1月24日,会長さん(以下,「元会長」といいます。)が社長さん(以下,「元社長」といいます。)を解任する動議を出したものの否決され,逆に元会長を解任する旨の緊急動議が出された結果,元会長が代表権のない相談役に,元社長が代表権のある会長になりました(この取締役会で,取締役の方がどのようなお考えのもとで,どのような発言をされたのかも非常に気になるところです。特に社外取締役の方の発言内容は気になります。)。

調査報告書によると,平成29年3月,同社が問題の土地の情報を得て,4月20日に元社長が稟議書に決裁し,6月1日に代金の一部49億円を支払いましたが,法務局から登記申請を拒否されました。この間,5月に本物の土地所有者を名乗る者から「売買契約はしない」という内容証明が送られたり,「別人との取引で偽造されている」との書面が送られたりしたのですが,同社は,これを無視して代金の一部を振り込んだのでした。

調査報告書は,上記のような文書が送られていたのに「何ら疑いを差し挟まず契約獲得を急いだ」とし,元社長について「全体像を把握せず重大なリスクを認識できなかったことは経営上,重い責任がある」と指摘する一方,元会長さんについても「このような事態が発生したことについて責任がある」と指摘しました。

元会長は,調査報告書の内容を踏まえ,元社長に責任をとらせるべく動議を出したのですが,逆に自分が事実上解任される結果になったのでした。

このように積水ハウス社のトップの交代劇を引き起こした詐欺事件ですが,同社くらいの規模であれば,70億の土地の購入について社長が契約の詳細を全て把握することはないのではないでしょうか。おそらく,担当者がお宝の物件を目の前にして舞い上がってしまい,詐欺師の巧妙な言動にも惑わされて十分な本人確認等の手続を怠ったというところが真相だろうと想像します。怪文書も出ているけど,多分大丈夫だろうとのバイアスがかかっていたのかもしれません。その意味で,この詐欺事件は,取引の安全を確保するための組織的な対応の不備をつかれたものといえます。

もちろん社長は会社のトップですので結果責任をとるべき立場にありますが,本件に関して経営者としての責任があるとすれば,土地取得の際取引の安全を確保するための態勢作りに関する内部統制構築義務違反とすることができると思います。しかし,その内部統制構築義務違反ということであれば,実は,かつて社長をしておられた元会長も同等の責任を負うはずです。調査報告書が会長さんの責任に言及しているのはある意味当然ということになります。

会社法改正試案

2018年2月19日

2月15日の日経新聞によると,法制審議会の会社法制部会が,一人の株主が株主総会で提案できる議案数を最大10までに制限することなどを内容とする会社法改正の試案を正式にまとめたそうです。

株主提案権とは,①議題提案権(法303条),②議案提案権(法304条),③議案要領通知請求権(法305条)のことを指します。

このうち,①の議題提案権は,一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限ります。)を株主総会の目的(議題)とするよう請求することができるというもので,公開会社の場合,総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を6か月前から引き続き有することが要件となります(但し,定款の定めにより要件を緩和することも可能です。)。複数の株主がその有する議決権数を合算することにより要件が充足される場合も提案が可能です。議題提案権は,定款変更議題として提案される場合が多いようです。

②の議案提案権は,株主が,株主総会において,株主総会の目的である事項(議題)について議案を提出することができるというもので,議決権数等の制限はありません。

③の議案要領通知請求権は,株主が株主総会の目的である事項(議題)につき自分が提出しようとする議案の要領を他の株主に通知するよう請求することができるというもので,議決権数について①の議題提案権と同じ要件が定められています。

このような株主提案権ですが,これまで,提案する数についての制限はありませんでした。そのため,一人の株主が多数の提案をすることがあり,その結果,会社は,提案についての対応の検討,提案された議案を盛り込んだ招集通知の印刷,送付等で多大な労力とコストを強いられてきましたし,議事進行が妨げられて意思決定機関としての株主総会の機能不全をもたらすといわれています。実際,業務妨害的な意図でされる提案もあるでしょうし,株主個人の感想を開陳するだけの意味不明のものもありますので,そのような濫用的な「提案」を制限すべきは明らかです。

会社は,議案が株主総会の目的でない場合,法令又は定款に違反する場合などには提案を拒否することができますし,権利の濫用と認められる提案も拒否することができると考えられます(東京高決平成24年5月31日等)。ただ,会社がその判断で提案を拒否することは実際問題として困難でしょうから,数という明確な基準を示したものといえます。

株主提案権は,株主の意見を会社の運営に反映させようとするものであり,株式会社の民主的運営という建前からすると本来制限すべきないといえます。しかし,現実に濫用事例が認められ,それによる弊害が存在する以上,一定の制限がされることはやむを得ないものといえます。

内部通報者の保護

2018年2月13日

今日の日経新聞に,内部通報者の保護を強化するため,公益通報者保護法に行政措置や刑事罰を設けることが検討されているとの記事がありました。

現行の公益通報者保護法では,内部通報者に対する不利益処分を禁じる定めはあるものの,内部通報者が実際に不利益処分を受けた場合は,その処分の撤回を求める民事裁判を起こす必要があり,これが内部通報者にとっては大変な負担になるわけです。そこで,例えば報復人事がされた場合,企業に勧告を出したり企業名を公表するなどの行政措置を設け,さらに悪質な企業に対しては刑事罰を科すことが検討されているとのことです。アメリカでは,企業が通報者を解雇等した場合,罰金や懲役刑が科せられるそうですので,それに倣った規定を設けようということなのでしょう。

ただ,ここで考えなければならないのは,行政措置や刑事罰を設けることが本当に内部通報者の保護につながるのかということです。

行政措置でも刑事罰も,企業が内部通報者にした不利益処分が報復目的であることが証拠に基づいて立証する必要があります。しかし,企業が報復目的であることを簡単に認めるわけはなく,業務の必要のためとか,内部通報者の個人的資質を理由とした措置であるなどの反論をすることは明白ですし,そもそも不利益処分性についても争う可能性があります。そのため,報復目的等の立証にはかなり高いハードルがあると思われ,司法機関による刑事罰の場合はもちろん,行政機関の行政措置の場合も適用にはかなり慎重になると思います。そうなると,行政措置,刑事罰を定めても抜かずの宝刀になるおそれがあります。報復目的等でないことを企業側に立証させる方法もあり得るかと思いますが,そのような立証責任の転換には慎重であるべきです。

もちろん,内部通報の重要性はいうまでもなく,企業が自ら不正をただすきっかけとなりますので,内部通報者に対する報復が許されないことはいうまでもありません。ただ,内部通報者保護のため方法として行政措置や刑事罰のみでなく,それとは異なるアプローチがあってもいいのではないかと思います。

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