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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

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新幹線の台車の亀裂 その2

2017年12月21日

12月13日のコラムに書きましたが,今月11日,東海道山陽新幹線「のぞみ34号」が営業運転中,鋼製の台車に亀裂が入っていることがわかり,名古屋駅で運転を打ち切りました。

ただ,その後の調査で,台車枠にコの字型の大きな亀裂が生じており,亀裂があと3cm伸びれば台車が破断するおそれがあったことがわかりました。写真を見てもぱっくりと割れていますので,相当危険な状態だったことがわかります。ぎりぎりのところで最悪の事態を回避できました。

JR西日本は,亀裂の発生を事前に発見することができなかったのでしょうか。

問題の台車は平成19年製であり,この車両は,本年2月に全般検査(車両の機器及び装置の全般について,取り外し及び解体の上行う検査)と台車(要部)検査(車両の動力発生装置,走行装置,ブレーキ装置,その他の重要な装置の主要部分について,取り外し及び解体の上行う検査)を受け,11月末にも交番検査を受けています(読売新聞 12月20日付)。ですので,少なくとも今年の2月の時点では,本件車両の台車に異常は認められなかったわけで,今回の亀裂は2月以降に発生し,一気に拡大したということでしょう。

「のぞみ34号」の車両の運用がよく分かりませんが,この車両が「のぞみ34号」として博多駅を出発するまでに異臭や異音などの異常が認められなかったのでしょうか。ひょっとしたら,「のぞみ34号」になる前の運用でも異常が発生していたかもしれません。ですので,この車両が,「のぞみ34号」になるまでに異常がなかったどうかの調査結果が気になります。

今回の亀裂発生の原因や経緯は必ずしもはっきりしませんが,車両メーカーとしては,今回の事故を受けて,台車の強度をさらに高めるとして,台車の部品メーカーに対して,仕様の強化を要求するかもしれません。

ご存じのとおり,部品のメーカーは,販売先メーカーから高い仕様の製品を求められ,契約上求められる仕様に達していない製品について,検査データを偽装して販売していました。そうすると,製造メーカーからさらに高い仕様を求められ,営業上の観点から受けてしまうと,またまた検査データの偽装をせざるを得ないとも限りません。もちろん,同じ誤りをするとはすぐには考えにくいところですが,部品メーカー側は,できないものはできないということが重要です。実際には簡単ではないでしょうが,経営陣が営業と製造現場を適切に調整するべきはいうまでもありません。

リニア工事と独占禁止法

2017年12月19日

12月11日のコラムで,リニア新幹線工事を巡る偽計業務妨害について触れました。その中で,発覚の端緒について関心があるとしましたが,「関係者によると,リニア建設工事を巡っては,公取委が今年3月頃,談合に関する情報をつかみ,特捜部に相談していた。だが,特捜部から「証拠が少ない」などと指摘され,強制調査などが見送られた経緯がある」とのことです(読売 12月19日付)。公正取引委員会がネタ元だったようですね。

ところで,東京地検(特捜部)は,18日,公正取引委員会とともにリニア新幹線工事を巡る事前調整の疑いで,鹿島建設株式会社,清水建設株式会社に対する捜索を行いました。

入札談合は「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)に当たり,このような「不当な取引制限」をすることは禁止されています(法3条)。この「不当な取引制限」の禁止は,法文上,発注者が国の機関,地方公共団体であろうと民間企業であろうと関係なく適用されることになります。ただ,これまで,民間企業が発注者である場合に独禁法違反で刑事責任が問われた例はないそうです。

ここで考えなければならないのは,民間企業であるJR東海が発注した工事を巡る入札談合が独禁法違反になるかということです。発注者が国や地方公共団体であれば,工事代金が税金でまかなわれる以上,自由な競争原理の元で定まる適正な価格で工事が行われるべきことに異論はありません。ですから,公共工事の談合は厳しく指弾されるべきです。

しかし,民間企業が発注者である場合は公共工事とは別に考えるべきなのではないでしょうか。つまり,民間企業は,経済的にペイすることを前提に計画を立て,予定価格を定めて入札を行います。ですから,予定価格ぎりぎりで落札されても,計画どおりというだけで特に問題ありませんし,仮に予定価格を大きく下回って落札された場合,発注者の資金繰りに余裕が出るだけでしょう。予定価格ぎりぎりで落札されたために運賃が計画より高くなることは考えにくいところです。仮に運賃が高いのであればリニアを利用しなければいいだけですし,代替手段として東海道新幹線もあるわけです。さらに運賃が高いために利用者が少ないというのであれば,JR東海としては,運賃を下げるなどの対応をとることになるはずです。さらに,落札価格が予定価格より低くなったからといって,その分運賃を当初の計画より低くするということも考えにくいところです。

今回の件については,「不正な入札によって競争がゆがめられ,工事費が高く設定されれば,そのツケは鉄道の利用者が払うことになる。」(日経 12月19日付社説)との論調が目立ちますが,そう単純ではないと思います。

つまり,発注者が民間企業の場合,国等の公的機関が発注者の場合とは前提が大きく異なりますので,本件のような入札談合において可罰的違法性が認められるかについては慎重な吟味が必要です。なお,公正取引委員会事務総局が作成した「入札談合の防止に向けて」と題する冊子(平成29年10月版)をみても,発注機関として「国の機関,地方公共団体,政府出資法人等」とありますが,「民間企業」は明記されていません。

ところで,今回,東京地検が鹿島建設,清水建設に捜索に入った直接のきっかけは,大林組による独禁法の自主申告(法7条の2 10項)だそうです(読売新聞 12月19日付)。大林組を含めゼネコン4社は,いずれも事前調整を否定していたとのことですが,大林組は,公正取引委員会に対し,一転して事前の受注調整をしたことを認め,独禁法のリーニエンシーの適用を求めて一抜けしたわけです。大林組としては,東京地検により偽計業務妨害による捜索を受けたことから,独禁法によるリーニエンシーを受けるかどうか究極の判断を迫られていたと思います。

もちろん,本件が独禁法違反に問われるか否か微妙ではありますが,万が一独禁法違反とされる場合に備えて自主申告したとすれば,大林組の有事対応は興味深いものがあります。

 

マンション敷地に戸建て

2017年12月18日

杉並区内の区分所有のマンションの駐車場に新築住宅6棟が建てられたとして,マンションの住民らが業者を訴えた裁判で,12月14日,マンション管理組合が6棟分の土地を買い取り,業者が6棟の建物を取り壊して撤去するという内容の和解が成立したとのことです(読売新聞 12月15日付)。

この事案は,産経新聞の記事(平成29年4月24日)によるとつぎのとおりです。

本件のマンションは,昭和46年に建築されましたが,その敷地面積約3000㎡のうち,建物部分の敷地約1700㎡は土地所有者と賃貸借契約を結び,残りの約1300㎡は,特に土地利用権を設定することなく,マンションの駐車場として利用されていました。

そうしたところ,平成25年,全体の約3000㎡を不動産業者F社が競売で所有権を取得し,F社は,駐車場部分(約1300㎡)を不動産会社G社に売却し,G社がこの土地に戸建て住宅6棟を建築する計画で建築確認申請をしました。ここで杉並区は,平成26年1月,マンション管理組合とF社に対し,「住宅ができるとマンションが違法建築になる」として,駐車場部分を管理組合に売却するか賃貸借契約を結ぶよう文書で行政指導するとともに,指定確認検査機関にも確認済証の交付留保を指示しました。

しかし,マンション管理組合が土地の買取等をしないうちに,F社とG社は土地の売買契約を合意解除し,F社がその関連会社であるA社に駐車場部分の所有権を譲渡し,A社が改めてG社に売却して,G社が再び戸建て6棟を建築するために確認の申請書を提出しました。この確認申請に対しては確認済証が交付されてしまいました。

これに対し,杉並区は,管理組合とF社に対し,行政指導に従わなかったとして,マンションを適法な状態にするよう勧告するとともに,これに従わない場合は「是正命令をする場合もあり得る」としましたが,結局,G社は6棟の戸建てを建ててしまいました。

こうして,マンションの住民らが,「行政指導などをくぐり抜け,住環境を侵害した」などとして,F社,G社などを被告として,住宅の撤去などを求める訴えを起こしたというものです。

なお,マンションの別の住民が業者を訴えた訴訟もあり,こちらは,戸建て住宅の撤去請求は認められませんでしたが,慰謝料33万円の支払いが命じられました(毎日新聞 平成29年4月28日)。

それにしても,どうしてこのような事態になってしまったのでしょうか。

一つの原因は,区分所有者側が駐車場の土地に利用権を設定していなかったことです。その結果,駐車場部分の所有権が第三者の手に渡ってしまったため,区分所有者側は権利を主張することができませんでした(なお,マンションの敷地は,これまでにも競売がされていたようです。)。

他方,G社の依頼を受けた指定建築確認検査機関は,杉並区に確認審査報告書等を提出し(法6条の2),そのため,杉並区がマンションの容積率が建築基準法の定める容積率の上限を超過することになるとして,是正措置命令を示唆したという経過であろうと思われます。ですので,F社あるいはG社は,区の指摘から,駐車場部分に戸建て住宅を建築すれば,マンションの容積率が不足することを十分に分かっていたわけです(区の指摘がなくても分かっていたとは思いますが。)。

確かに,駐車場だった土地に戸建て6棟を建築すること自体は建築基準法上は適法ですが,他方,マンションの容積率がオーバーすることで一種の既存不適格にしてしまうことになります。そうすると,例えばマンションを建て替えようとする場合,同じ大きさの建物が建てられないなどで資産価値が下落し,区分所有者にとって重大な不利益が生ずることは明らかです。

たとえ,建築基準法上適法であっても,裁判所から慰謝料の支払いが命じられたということは違法と評価されたことになりますし,結局戸建てを販売することができず,取り壊すことになってしまいました。また企業の評価にも影響があるかもしれません。G社が戸建て住宅の建築を強行するまでにはいろいろな事情があったのかもしれませんが,コンプライアンス上の問題があったことは間違いありません。

 

 

 

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