マンションの理事長の解任
2017年12月26日
今月18日,最高裁判所は,マンションの理事長を理事会の決議により解任することができるとの判断を示しました。
マンションの管理に関する事項は,区分所有法のほか「規約」で定めることができるとされ(区分所有法30条),国土交通省から「マンション標準管理規約」(以下,「標準管理規約」)が示されています。全国のマンションの多くは,この標準管理規約に準拠しているといわれています。この標準管理規約ですが,①管理組合にその役員として理事長及び副理事長等を含む理事並びに監事を置く(標準管理規約(単棟型)35条1項)。②理事及び監事は,組合員のうちから総会で選任し(同条2項),理事長及び副理事長等は,理事の互選により選任する(同条3項)。役員の選任及び解任については,総会の決議を経なければならない(同48条13号)などと定められており,本件で問題となったマンションの規約もこれと同様の定めがされていました。
本件のマンションでは,理事長が,理事会決議を経ないまま,他の理事から総会の議案とすることを反対されていた案件を諮るため,理事長として臨時総会の招集通知を発したことから,他の理事が反発し,理事会においてこれまでの理事長を解任し,新たな理事長を選任する旨の決議がされました。ただ,規約には,理事長を解任する明確な定めがなかったため,解任決議の有効性が問題になりました。
この点,一審,二審とも,規約に理事長の解任に関する定めがなく,選任に関する規定(本件マンションの規約の「40条3項」で,標準管理規約(単棟型)35条3項に相当します。)は,解任する根拠にならないとして,解任決議を無効としました。この場合,総会で理事を解任すれば,理事長の地位も喪失することになります。
これに対し,最高裁は,本件マンションの規約の40条3項について,「理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き,別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが,本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。」として,理事長を解任する決議を有効としました。
理事を総会で選任し,選任された理事の互選で理事長を選任するという構造は,会社法における取締役と代表取締役の関係と似ています。しかし,会社法は,代表取締役の「解職」を取締役会の権限と明記しています(会社法362条2項3号)。会社法と同様,標準管理規約に理事長の解任に関する定めがあれば,今回のマンションのような問題は起きませんでした。弁護士的な発想からすると,理事会で理事長を選任するのであれば,解任もできる旨の定めをしておくのがあたりまえのように思います。標準管理規約に理事長の解任についての定めがない理由は実はよくわかりません。
いずれにせよ,マンションの自律的かつ迅速な運営の点からすれば,総会ではなく,理事会で理事長を解任することができるとした方が適当であると思います。その意味で,最高裁は,文理解釈上やや困難であるものの,形式にとらわれない判断をしたといえます。
神戸製鋼所の外部調査委員会
2017年12月23日
株式会社神戸製鋼所は,製品の検査データを偽装していたことで,現在,外部調査委員会による調査が行われています。この調査の過程で,現役のアルミ・銅事業部門を担当する執行役員の中に,問題発覚前から検査データ偽装等の不適切行為の一部を認識していたことがわかりました。
神鋼社の検査データ偽装は,相当長期間行われていたわけで,工場の責任あるお立場にあった方が取締役や執行役員として経営陣に加わっているであろうこと,したがって,現に不適切行為が行われていることを認識していながら,これを黙認していたと評価されるであろうことは予想できました。
もちろん,神鋼社の執行役員は,業務を執行する取締役を補佐するという役割であり,指名委員会等設置会社において選任される執行役(会社法402条1項,2項)ではありませんし,会社法429条の「役員等」には含まれません。しかし,執行役員は,上記のとおり業務を執行する取締役を補佐するわけであり,取締役と同様,企業価値の向上を目指し,適法かつ適切な経営をする責務を負うわけです。したがって,不適切行為が行われていることを知りながら,それを黙認することは執行役として許されず,ガバナンス上の問題があったといわざるを得ません。
外部調査委員会の委員長は,東京地検の刑事部長等を経て福岡高検検事長をされた方ですし,そのほか,札幌高裁長官,東京地検検事を経験された方で構成されており,その補助者として多数の弁護士が関与しているものと考えられます。このような陣容でヒアリングをすれば,隠し立てはまずできないはずであり,結果として取締役や執行役員の方のお立場にも影響が生じることになるでしょう。しかし,今回の問題は神鋼社の企業風土というべきですので,これを改めるためには身を切ることは覚悟しなければなりません。過去のしがらみをこの際断ち切らない限り,新たな神鋼社としての再出発ができないと思います。
新幹線の台車の亀裂 その2
2017年12月21日
12月13日のコラムに書きましたが,今月11日,東海道山陽新幹線「のぞみ34号」が営業運転中,鋼製の台車に亀裂が入っていることがわかり,名古屋駅で運転を打ち切りました。
ただ,その後の調査で,台車枠にコの字型の大きな亀裂が生じており,亀裂があと3cm伸びれば台車が破断するおそれがあったことがわかりました。写真を見てもぱっくりと割れていますので,相当危険な状態だったことがわかります。ぎりぎりのところで最悪の事態を回避できました。
JR西日本は,亀裂の発生を事前に発見することができなかったのでしょうか。
問題の台車は平成19年製であり,この車両は,本年2月に全般検査(車両の機器及び装置の全般について,取り外し及び解体の上行う検査)と台車(要部)検査(車両の動力発生装置,走行装置,ブレーキ装置,その他の重要な装置の主要部分について,取り外し及び解体の上行う検査)を受け,11月末にも交番検査を受けています(読売新聞 12月20日付)。ですので,少なくとも今年の2月の時点では,本件車両の台車に異常は認められなかったわけで,今回の亀裂は2月以降に発生し,一気に拡大したということでしょう。
「のぞみ34号」の車両の運用がよく分かりませんが,この車両が「のぞみ34号」として博多駅を出発するまでに異臭や異音などの異常が認められなかったのでしょうか。ひょっとしたら,「のぞみ34号」になる前の運用でも異常が発生していたかもしれません。ですので,この車両が,「のぞみ34号」になるまでに異常がなかったどうかの調査結果が気になります。
今回の亀裂発生の原因や経緯は必ずしもはっきりしませんが,車両メーカーとしては,今回の事故を受けて,台車の強度をさらに高めるとして,台車の部品メーカーに対して,仕様の強化を要求するかもしれません。
ご存じのとおり,部品のメーカーは,販売先メーカーから高い仕様の製品を求められ,契約上求められる仕様に達していない製品について,検査データを偽装して販売していました。そうすると,製造メーカーからさらに高い仕様を求められ,営業上の観点から受けてしまうと,またまた検査データの偽装をせざるを得ないとも限りません。もちろん,同じ誤りをするとはすぐには考えにくいところですが,部品メーカー側は,できないものはできないということが重要です。実際には簡単ではないでしょうが,経営陣が営業と製造現場を適切に調整するべきはいうまでもありません。
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