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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

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偽計業務妨害による強制捜査

2017年12月11日

株式会社大林組は,12月8日ころ,リニア中央新幹線工事を巡って東京地方検察庁による捜索を受けました。被疑事実は,偽計業務妨害だそうです。
建設業者による犯罪としては,公契約関係競売等妨害の罪(刑法第96条6),つまり,公共工事で予定価格を聞き出すなどして上限一杯近くで落札する入札妨害や,業者が話し合いでチャンピオンを決める談合が多いと思います。ただ,これらは「公の・・・入札で契約」が構成要件になっていますので,発注者が民間企業である場合は上記の公契約関係競売等妨害罪は成立しません。
もっとも,公の入札でなくても,偽計を用いるなどして公正な入札を害すべき行為をした場合は,偽計業務妨害罪が成立する場合があります。
かつて,国後島ディーゼル発電施設設置工事の施工業者選定のための一般競争入札において,三井物産の社員が,支援委員会事務局から予定価格を聞き出し,競争意思のある業者の入札参加を断念させる一方,競争意思ない業者を入札に参加させるとともに,予定価格を上回る金額で応札させ,三井物産が予定価格ぎりぎりの価格で落札したという件が偽計業務妨害とされました(東京地方裁判所平成15年3月6日判決 裁判所HP)。
裁判所は,「競争意思のある者による自由公正な入札に基づいて施工業者を選定し,施工契約を締結するという支援委員会の業務が実際に大きく妨害され」たと評価しています。
今回の件では,大林組のどのような行為が「偽計業務妨害」と評価されたかが必ずしも明確ではありませんが,おそらく,大林組が,発注者であるJR東海から予定価格に関する情報を入手し,ライバル会社に働きかけるなどして,大林組がとりたい工事を確実に,しかも予定価格ぎりぎりの価格で落札できるように働きかけたものと考えられます。
次に問題となるのは,東京地検がどのようにして今回の件を認知したかということです。
やはり,ライバル業者からの通報が一番可能性として高いように思われますが,内部告発の可能性も否定できませんね。このあたりは野次馬的な関心があります。
いずれ真相が明らかになってくるであろうと思われます。

検査データ偽装のこれから

2017年12月11日

神戸製鋼所,三菱マテリアルの子会社,東レの子会社で,相次いで検査データの改ざんが明らかになりました。検査データの改ざんにより,販売先において製品の強度の検査等が行われ,場合によっては交換等の費用が発生することになります。検査データを偽装した会社は,これらの費用を賠償することになると思われます。

さて,現実にそのような負担が発生した場合,株主代表訴訟が気になるところです。

報道によると,それぞれの会社は多数の事業部門を擁しており,各事業部門がたこつぼ化し,その高い独立性が不正の発生と長期化の原因であるといわれています。そうすると,取締役等に対し,このような不正の発生等を防ぐための内部統制システムを構築する義務に違反したとの主張がされると考えられます。

この点,やや古い事件ですが,ダスキン社が運営していたミスタードーナツで,食品衛生法上使用が許可されていなかった食品添加物が使用された肉まんを販売したため,加盟店に対する損失補償や不適切な口止め料の支払いにより会社に損害をもたらしたとして取締役らが訴えられた株主代表訴訟がありました。

この事件で,大阪高裁は,「(カンパニー制であっても)現場からの情報が複数のルートを通って伝達されるような体制作りをする必要」がある旨の主張に対し,ダスキン社が

経営上の重要な情報を取締役会への報告事項と定めていたから,各取締役が定められた義務を果たせば,各事業部門に生じる問題を全社的に議論することが可能になっていたものである。

などとして,ダスキン社の内部統制システムに一応の評価をし,内部統制システム構築義務違反を否定しました(大阪高裁平成18年6月9日判決)。

しかし,今日の多くの会社では,多数の事業をカンパニー制などで運営されていますが,今回の検査データ偽装の問題が縦割りの組織を原因としていることからして,上記の高裁のような論法で内部統制システム構築義務違反を否定することが適当なのか,つまり,もう少し踏み込んだ体制作りが必要なのではないかが問われると思われます。そうすると,仮に今回の検査データ偽装の件が株主代表訴訟になった場合,ダスキン判決とは異なる判断がされる可能性もゼロではないと思われます。

またまた検査データ改ざん

2017年11月28日

今年の9月以降,神戸製鋼所,日産自動車,スバルでデータ偽装,無資格検査員による完成検査などの不適正事案が次々と明らかとなり,日本の製造業の危機などと騒がれています。そうしたところ,三菱電線工業株式会社,三菱伸銅株式会社で検査データを改ざんしていたことが,さらに今日(11月28日),東レ株式会社の子会社(東レハイブリッドコード株式会社)でも,顧客と取り決めた規格値のデータを不正に書き換えていたことが明らかになりました。

今回の問題は,一社のみでおさまらない可能性があると思っていたところ,やはり出てきてしまったというところです。ひょっとすると今後も追随する会社が出てくるかもしれませんね。特に,東レ社の子会社の件では,今日公表することになったのが「ネットの掲示板で書き込み」があったからとしています。つまり,掲示板の書き込みがなければ公表しなかったとしているわけです。東レ社の危機管理体制が心配になってしまいますが,明日は我が身と内心ひやひやしている会社があるかもしれません。危機管理的には,身に覚えがあるのであれば,この際自ら公表した方が結果的に実害が小さくてすむ可能性があります。

法律的には,顧客と定めた性能,品質が欠けていれば瑕疵あるいは不完全履行であり,一定の法的責任が生じることになります。メーカーにもいろいろ言い分があるのかもしれませんが,やはり「約束は守らなければならない」のです。

ただ,今日の読売新聞で日本工学会の会長さんがおっしゃっているように,「強度などの基準やルールは常に見直すことが必要」ということかもしれません。納入基準に満たないものだったとしても,それで完成品の強度が落ちたり,安全性に支障を生じたりする可能性はどの程度あるのでしょうか。基準に満たないため,経年劣化が早く進む可能性もありますが,少なくともこれまでのところ,基準に満たない素材を使用したため予期せぬ事故が発生したという話も聞きません。

そうすると,完成品メーカーの要求水準が相当高いことは間違いないようですが,完成品メーカーとしては,万が一の事故も防ぐべしという社会的使命がありますので,どうしても素材メーカーに対する要求水準が高くなってしまうのも分かります。

その当たりを上手に折り合いを付けつつ,日本のモノ作りを進化,強化させていく必要があると思います。

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