座間市アパートの惨劇
2017年11月1日
10月30日,神奈川県座間市のアパートの一室から,切断された頭部2個が発見され,その後さらに7名分の遺体が発見されました。これまでの報道では,この部屋を借りていた男が部屋の中で9名を殺害し,浴室で遺体を損壊したと供述しているようです。
極めて猟奇的でショッキングな事件ですが,やはり気になるのはこのアパートの今後です。
アパートの一室で9名もの殺害が実行され,その遺体が出たことは「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥」(横浜地裁平成元年9月7日判決)と評価されると思われます。そのため,今後,現場の部屋を貸そうとする場合(当然,きれいにリフォームをしてからですが),相手方に対してこの事実を説明する義務があります。そうすると,通常の賃料で借りる人はまずいないでしょうから,賃料を下げる必要があります(賃料を下げても借りる人がいない可能性もあります。)。したがって,事件がなければ得られたであろう賃料が得られないことになります。そのため,アパートの賃貸人の方は,賃借人の男に対し,善管注意義務違反を理由として損害賠償請求をすることが可能です。
裁判例では,1~3年分の賃料減収分を損害としたものがありますが,これは自殺案件です。したがって,本件のような異常な場合はこれより長期間の賃料減収分が認められるかもしれません。
また,現場の部屋に隣接する部屋の賃借人さんが本件を契機に退去することも考えられます。隣接する部屋について新たに借主を募集する際,本件事故を説明する義務があるかどうかが問題となります。この点,契約の半年前に,階下の部屋で自然死があったという事案に関し,賃貸人や仲介業者の説明義務違反を否定した裁判例がありますが(東京地裁平成18年12月6日判決 渡辺晋「瑕疵担保責任と説明義務」),本件のような異常性が強い場合,説明義務が認められる可能性が高いように思われます。また,賃料を下げることになれば賃料減収分が損害になると考えられます。
いずれにせよ,アパートの賃貸人の方にとっては降ってわいた災難としかいいようがありませんが,これも賃貸事業の一つのリスクといえます。
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