東京・銀座の弁護士

弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

HOME > コラム

電通事件について

2017年10月12日

電通過労死事件の刑事裁判の公判が9月22日にあり,電通のトップが出廷し,公訴事実を認め,謝罪しました。

罰金の額としてはわずか50万円でしょうが,大々的に報道されただけでなく,刑事事件で会社が起訴され,略式命令と思われたものが裁判所の判断で正式裁判となり,一部上場企業のトップが簡易裁判所に出頭して公開の場で謝罪する事態になりました。会社のレピュテーションが大きく毀損されたことは間違いありません。

いまや長時間労働の問題は,会社のトップの座はもちろん会社の命運を左右する重大なリスクといえます。したがって,これまでのような長時間労働を是としたり,やむを得ないとする考え方はきっぱりと捨てなければなりません。

しかし,今トップにおられるのは,概ね自分自身も長時間労働をし,競争を勝ち抜いて現在の地位に上り詰めた方が多いのではないでしょうか。そのような場合,自分の成功体験から,長時間労働はむしろ当たり前とさえお考えになるかもしれません。

そのような場合,長時間労働を是正するといっても,中身が伴わなわず,かけ声倒れに終わってしまうおそれが大きいと思います。過去の社員の過労自殺をきっかけに是正勧告が出ていたのに,今回新入社員の過労自殺を引き起こした電通はその典型例だったといえましょう。

これからは,長時間労働をさせないようにするために,業務量を調整したり人員を増強するなどの実効性のある具体的な方策が求められます。

これは,場合によっては,従来のビジネスのやり方を根本的に変更する必要があったり,会社の売上,収益にも直接影響する事柄であるため,一筋縄ではいかないことでしょう。また,過剰労働をさせないことを目的として自律的に統制するための部門の新設も必要かもしれません。

いずれにせよ,このような困難な問題は,トップの真剣な決断が不可欠です。

他社に取引を奪われるとか,社員のインセンティブが低下するなどの心配もあると思われますが,ブラック企業と後ろ指指される会社と取引したいと思う会社は多くないでしょうから,長い目で見れば,コンプライアンスを重視した会社として認知される方が会社の利益になると考えられます。また,長く働くことが必ずしも美徳ではないとの考え方が広がっていけば,働き方を工夫し,生産性を向上させるきっかけになるかもしれません。

いずれにせよ,今回の問題は,日本の社会全体のあり方を大きく変える転換点になったことだけは間違いないと思います。

1 2 3 4

▲ページの上へ戻る