神戸製鋼所の検査データ偽装 その2
2017年10月20日
株式会社神戸製鋼所のデータ偽装の問題が広がりを見せ,いよいよ外国当局も出てきました。
神鋼社の発表等によると,当初アルミ・銅事業部にほぼ限定されるとされていたデータ改ざんが,主力の鉄鋼事業や子会社でも行われていたとのことですし,出荷先も広がっているようです。
しかし,これまでのところ,出荷先の調査において強度不足が確認された例はないようですし,自動車の安全性を確認したと発表した自動車メーカーもあります。おそらく,出荷先の要求レベルが相当高く,仕様より若干下回る数値であっても完成品としての強度には大きな影響を及ぼさないということなのだろうと思います。
マスコミは完成品についての不安を指摘していますが,完成品の安全性についてはもう少し冷静に対応すべきであり,少なくとも,出荷先の検査結果を待つのが適当かと思われます。
とはいえ,現時点では安全性に問題ないとしても,経年劣化に伴う強度の低下までは予測することができませんので,出荷先は,今後も強度についての検査を続ける必要があるでしょう。そのため,神鋼社は,その将来の検査費用まで負担する可能性があります。
今回の原因として,神鋼社における各事業部門の垣根が高く縦割りの組織になっていたことが指摘されています。しかし,事業部や工場の垣根に関係なくデータ偽装が行われていたところをみる限り,企業風土に根ざしているといわれてもしかたありません。これを改善するには相当の努力が必要かもしれません。
さらに,危機対応の観点からすると,アルミ・銅事業だけであると発表した後に,別の部門でも不適切行為が発覚したこと,取締役会で把握していながら公表を控えていたことが問題点として指摘できます。
企業不祥事の対応の要諦としては,できるだけ早く全貌を把握し,正確に公表すること,会社の社会的責任を踏まえた対応策を示すこと,再発防止策を示すことなどの一連の対応をスピード感をもって行うことです。もちろん,簡単なことではないでしょうが,対応を間違えるとさらに事態が悪化し,会社の存続に重大な影響を及ぼしかねません。逆に,危機対応が的確であると信頼を得ることができる場合もあります。
神鋼社は,今,どちらになるかの瀬戸際にあるように思われます。
今,大事なのは,過去のしがらみをリセットする勇気かもしれません。
地面師詐欺
2017年10月16日
最近,都心の地価が高騰しているため,地面師による詐欺事件が起きていると報道されています。地面師詐欺は,地主になりすました者が地主本人であると偽って売買契約を成立させ,代金を受け取って行方をくらますという詐欺事件です。「売主」は真実の所有者ではありませんので,買主は,相手を信頼していたとしても所有権を取得することはできません。
つい最近も,大手住宅メーカーが都心の元旅館経営者の地主になりすました女に約60億円をだまし取られたとのことです。
私も,地面師もどきの詐欺事件に関与したことがありました。
「もどき」というのは,地主になりすました人物ではなく,「売主」の代理人と名乗る弁護士と契約したという点で地面師詐欺の応用編でした。
「売主」の代理人弁護士は,委任状等「売主」の代理人として土地を売却する権限を有する書類を保有していたことから,買主の不動産会社は,「売主」の代理人弁護士と売買契約書を交わし,手付金を支払ってしまったのでした。もちろん,委任状等の書類は全て精巧に偽造されたものでしたが,それがわかったのは手付金をだまし取られた後でした。まさに後の祭りです。
その後,「売主」の代理人弁護士が,「売主」と連絡が取れなくなったとしたため,残代金をだまし取られずにすみ,損害は,手付金のみでおさまりました。
不動産会社が刑事告訴をし,本件に関与した数名が逮捕されたのですが,起訴されたのは一人だけで,だまし取られたお金は戻ってきませんでした。
地面師詐欺にあわないためには,とにかく「売主」の本人確認を確実に行うことにつきます。
宅建業者が売買やその媒介等をする場合,本人確認をすることが法律で義務付けられていますが,本人確認書類は極めて精巧に偽造されていますので,本人確認には細心の注意が必要です。
また,地面師詐欺では,「売主」に弁護士や司法書士が付いている場合がありますが,それだけで信用してはいけません。弁護士等が詐欺の片棒を担がされている場合があります。
また,地面師に利用されるのは,真の所有者が高齢,誰も居住していない,抵当権が設定されていないなどの土地が多いといわれていますので,そのような土地を目的とする場合も要注意です。
さらに,正体のよく分からないブローカーが同席していたり,「売主」が契約や代金の支払いを急がせる場合も地面師詐欺を疑うべきでしょう。
神戸製鋼所の検査データ偽装
2017年10月12日
株式会社神戸製鋼所は,10月8日,「当社のアルミ・銅事業部門(同部門傘下のグループ会社を含む。)において,お客様との間で取り交わした製品仕様に適合していない一部の製品につき,検査証明書のデータの書き換え等を行うことにより,当該仕様に適合するものとして,出荷していた事実(以下「本件不適切行為」といいます。)が判明しました」とリリースしました。
要は,顧客から指示された仕様に適合しない製品を,検査証明書のデータを書き換えるなどして販売していたことになります。
このような「不適切行為」に及んだ背景には,納期や生産目標を達成するため,「これくらい問題ない」などと判断していたとか(読売),「民間企業同士の取引で契約順守の意識が低かった」とされています(日経)。
現場サイドとしては,経営の柱に成長しつつあったアルミ・銅事業において成長の足を引っ張りたくないという気持ちが強かったのかもしれませんが,逆に成長の芽をつんでしまった可能性があります。
今回の問題は,法令や日本工業規格(JIS)違反ではありませんが,契約違反であることはもちろん,検査証明書を偽装して納入先を信用させていました。
納入先の会社としては,神鋼社が証明書を出した製品の仕様に疑いを持つことはまずないわけで,神鋼社は,取引先の信頼を大きく損ねてしまったことになります。
納入先の会社は,今後,安全性に問題ないかどうかを確認しなければならなくなりましたし,場合によってはリコールへの対応や神鋼社に対する損害賠償を迫られる可能性もあります。まさに降ってわいた災難というほかありません(納入先の対応については,山口利昭先生のブログ「ビジネス法務の部屋」の記事(10月10日付「神鋼品質データ改ざん事件-被害企業側の説明責任」)をご参照下さい。)。
それにしても,神鋼社は,平成28年にも,そのグループ会社が製品のバネに関する強度のデータを偽装していたことが発覚して大問題になりました。
これは,JIS規格を満たしていない鋼線を企画を満たしているとして出荷していたというものですが,規格外の製品を,データを偽装して出荷していた点で本件と同じ構造です。
このような問題が発覚して大問題になったのに,どうしてアルミ・銅事業部で品質偽装を継続したのかよく分かりません。おそらく今後第三者委員会が立ち上がるでしょうから,企業風土に関連して偽装を継続した事情などについても解明されるのではないかと思われます。
それにしても,我が国のモノ作りは職人気質による高品質が,製品に対する信頼感と高い評価を得ていたと思います。
最近,今回と同様の問題が繰り返し発覚していることから,モノ作りのよき伝統が失われつつあるのではないかといわざるを得ません。効率重視の経営がよき伝統を失わせてしまっているとしたら残念なことです。
お問い合わせはお電話にて