新幹線の台車の亀裂
2017年12月13日
今月11日,東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」(N700系)が走行中に異常が発生し,調べたところ鋼製の台車に亀裂が入っていました。国土交通省の運輸安全委員会は,これを「重大インシデント」に認定して原因調査を始めています。今回のトラブルについて,「走行を続けるうちに台車に金属疲労が生じて小さなひびができたが,JR側の検査で見落とされた可能性がある。」などとする大学教授のコメントが紹介されています(読売新聞 12月13日付)。
このように今回は新幹線車両の台車に発生したトラブルですが,つい関連づけたくなってしまうのは,神戸製鋼所の検査データ偽装です。神鋼社は,顧客との契約で取り決めた仕様に適合しない製品を,検査証明書のデータを書き換えるなどして販売していました。神鋼社の製品は,新幹線車両の台車にも使用されており,JR西日本は,10月12日,神鋼社のアルミ製部材等が台車の車軸周りに使用されていることを発表しましたし,JR東海も,新幹線車両の台車部品の一部(台車枠の荷重を支える軸箱体等)に神鋼社の製品が使用されており,一部にJIS規格不適合のアルミの材料が使用されていたものの,安全上の問題はないと考えている旨発表しています(JR東海HP)。
ですので,これまでのところ,台車の亀裂と神鋼社の検査データ偽装は直接関係していないようです。しかし,今回のトラブルは経年劣化によるものと考えられます。ですから,神鋼社の検査データ偽装が最終完成品にどのような影響を及ぼすのかについては長期間にわたる検査が必要になりそうです。もちろん,何か問題が発生する前に,規格不適合品が含まれている部品を取り替えることになるでしょうが,その取替費用も神鋼社の負担になる可能性があります。神鋼社は,自らの責任とはいえ,大きな負担を強いられることに違いありません。
偽計業務妨害による強制捜査
2017年12月11日
株式会社大林組は,12月8日ころ,リニア中央新幹線工事を巡って東京地方検察庁による捜索を受けました。被疑事実は,偽計業務妨害だそうです。
建設業者による犯罪としては,公契約関係競売等妨害の罪(刑法第96条6),つまり,公共工事で予定価格を聞き出すなどして上限一杯近くで落札する入札妨害や,業者が話し合いでチャンピオンを決める談合が多いと思います。ただ,これらは「公の・・・入札で契約」が構成要件になっていますので,発注者が民間企業である場合は上記の公契約関係競売等妨害罪は成立しません。
もっとも,公の入札でなくても,偽計を用いるなどして公正な入札を害すべき行為をした場合は,偽計業務妨害罪が成立する場合があります。
かつて,国後島ディーゼル発電施設設置工事の施工業者選定のための一般競争入札において,三井物産の社員が,支援委員会事務局から予定価格を聞き出し,競争意思のある業者の入札参加を断念させる一方,競争意思ない業者を入札に参加させるとともに,予定価格を上回る金額で応札させ,三井物産が予定価格ぎりぎりの価格で落札したという件が偽計業務妨害とされました(東京地方裁判所平成15年3月6日判決 裁判所HP)。
裁判所は,「競争意思のある者による自由公正な入札に基づいて施工業者を選定し,施工契約を締結するという支援委員会の業務が実際に大きく妨害され」たと評価しています。
今回の件では,大林組のどのような行為が「偽計業務妨害」と評価されたかが必ずしも明確ではありませんが,おそらく,大林組が,発注者であるJR東海から予定価格に関する情報を入手し,ライバル会社に働きかけるなどして,大林組がとりたい工事を確実に,しかも予定価格ぎりぎりの価格で落札できるように働きかけたものと考えられます。
次に問題となるのは,東京地検がどのようにして今回の件を認知したかということです。
やはり,ライバル業者からの通報が一番可能性として高いように思われますが,内部告発の可能性も否定できませんね。このあたりは野次馬的な関心があります。
いずれ真相が明らかになってくるであろうと思われます。
検査データ偽装のこれから
2017年12月11日
神戸製鋼所,三菱マテリアルの子会社,東レの子会社で,相次いで検査データの改ざんが明らかになりました。検査データの改ざんにより,販売先において製品の強度の検査等が行われ,場合によっては交換等の費用が発生することになります。検査データを偽装した会社は,これらの費用を賠償することになると思われます。
さて,現実にそのような負担が発生した場合,株主代表訴訟が気になるところです。
報道によると,それぞれの会社は多数の事業部門を擁しており,各事業部門がたこつぼ化し,その高い独立性が不正の発生と長期化の原因であるといわれています。そうすると,取締役等に対し,このような不正の発生等を防ぐための内部統制システムを構築する義務に違反したとの主張がされると考えられます。
この点,やや古い事件ですが,ダスキン社が運営していたミスタードーナツで,食品衛生法上使用が許可されていなかった食品添加物が使用された肉まんを販売したため,加盟店に対する損失補償や不適切な口止め料の支払いにより会社に損害をもたらしたとして取締役らが訴えられた株主代表訴訟がありました。
この事件で,大阪高裁は,「(カンパニー制であっても)現場からの情報が複数のルートを通って伝達されるような体制作りをする必要」がある旨の主張に対し,ダスキン社が
経営上の重要な情報を取締役会への報告事項と定めていたから,各取締役が定められた義務を果たせば,各事業部門に生じる問題を全社的に議論することが可能になっていたものである。
などとして,ダスキン社の内部統制システムに一応の評価をし,内部統制システム構築義務違反を否定しました(大阪高裁平成18年6月9日判決)。
しかし,今日の多くの会社では,多数の事業をカンパニー制などで運営されていますが,今回の検査データ偽装の問題が縦割りの組織を原因としていることからして,上記の高裁のような論法で内部統制システム構築義務違反を否定することが適当なのか,つまり,もう少し踏み込んだ体制作りが必要なのではないかが問われると思われます。そうすると,仮に今回の検査データ偽装の件が株主代表訴訟になった場合,ダスキン判決とは異なる判断がされる可能性もゼロではないと思われます。
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