所有者不明の空家の略式代執行
2018年1月28日
台東区は,今月24日,空家等対策の推進に関する特別措置法(以下,「空家法」)に基づいて,区内の所有者不明の空家を取り壊すための略式代執行を始めました。
http://www.city.taito.lg.jp/index/release/201801/press0119.html
空家法は,全国的に空家が多数発生しており,適切な管理がされていない空家等が防災,衛生,景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることから,地域住民の生命・身体・財産の保護,生活環境の保全のために制定されました(平成27年2月26日施行)。この空家法は,今にも倒壊しそうで著しく危険な空家等を「特定空家等」と規定し,行政は,特定空家等の所有者に対して,除却,修繕,立木竹の伐採等の措置の助言又は指導,勧告,命令をすることができ(法14条1項,2項,3項),さらに,行政代執行の方法による強制執行も可能とされました(法14条9条)。これにより,所有者が任意に特定空家等の取壊し等をしない場合は,行政が強制的に建物の取壊し等をすることができるようになりました。行政が行政代執行により建物の取壊し等をした場合,所有者に対し,そのための費用を請求し,任意に支払わない場合は国税滞納処分の例により徴収されることになります(行政代執行法6条)。
しかし,行政代執行法では,その手続上,所有者が不明の建物を取り壊すことは困難でした。他方,特定空家等の場合,所有者を特定できないケースもあります。そこで,空家法では,特定空家等の所有者が不明の場合であっても,公告等法令の定める手続をした上で行政代執行ができるようにしました。これが略式代執行です(法14条10項)。この略式代執行は,空家法施行以降平成29年10月1日までに,全国で合計47件行われています(国土交通省・総務省調査)。
今回の台東区の物件は未登記で,敷地の所有者(お寺)との間で借地契約が結ばれておらず,その他空家法で認められた所有者等調査を実施したものの所有者の特定には至りませんでした。そこで,今回,台東区が略式代執行による建物の収去をすることになったわけです。台東区によると,建物解体に係る略式代執行は都内初だそうです。
所有者が不明である場合,家庭裁判所が選任した不在者財産管理人(民法25条)が建物の収去をすることもできます。ただ,建物を収去した後,更地となった敷地を売却することができないと,建物の収去費用等を工面することができません。そのため,今回の台東区のように土地所有者が別に存在する場合には,不在者財産管理人の方法を採ることができず,略式代執行をすることになります。しかし,収去のための費用は税金ですので,この費用を少しでも回収できるような仕組みを作りたいところです。都市部でも特定空家等が目立っていることから,これをいたずらに放置することなく,適切に処理する必要があります。このような物件の処理に不動産業者等を上手に絡ませることで,特定空家等の処理を進めていきたいところです。
自動運転車
2018年1月23日
最近,自動運転車に関する記事が目立ちます。
自動運転車とは,加速・操舵・制動の操作の全部又は一部をシステムが行うことができる自動車で,自動運転レベルとその内容は次の5段階に分類されます(「戦略的イノベーション創造プログラム自動走行システム研究開発計画」)。
レベル1 システムが前後・左右のいずれかの車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施
レベル2 システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施
レベル3 システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)
作動継続が困難な場合の運転者は,システムの介入要求等に対して適切に応答することが期待される。
レベル4 システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)
作動継続が困難な場合,利用者が応答することは期待されていない。
レベル5 システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内ではない)
作動継続が困難な場合,利用者が応答することは期待されていない。
我が国でもレベル2の車両が販売されていますし,杉並区内の公道でレベル3の実証実験が行われました(日経 平成30年1月12日)。これまでSFの世界だった自動運転車がいよいよ現実のものになりつつあります。
自動運転車の「安全運転に係る監視,対応主体」は,レベル1,2が運転者,レベル3以上がシステムとなっています。レベル3では,「作動継続が困難な場合は運転者」とされますが,基本的にはシステムが車をコントロールすることになります。このように,レベル2までは,運転者が責任を負い,その責任の内容は現行と同様と考えられますが,レベル3以上の自動運転車では,運転者によるコントロールがありません。ですから,このような自動運転車による事故については,現行法を前提とした場合,主に,システムを搭載した車両のメーカーが不法行為責任や製造物責任を負うと考えるのが一番しっくりくると思います。
ただ,現在の不法行為法では,予見可能性,結果回避可能性を被害者側が立証しなければなりませんが,システムがブラックボックス化していることから,メーカーに不法行為責任を負わせることはまず無理です。また,製造物責任法では,製造業者は,「製造物」の「欠陥」により他人の生命,身体等を侵害した場合に賠償責任を負うとされていますので,自動運転のシステムに欠陥があれば,賠償責任を負うことになります。しかし,実際問題として被害者がシステムの欠陥を立証するのは困難でしょう。しかも,製造物責任法では,「引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった」ことを製造業者が証明したときは,賠償責任を免れるとされていますので(同法4条1号),メーカーはこの抗弁を主張すると思われます。
しかし,そうなると,自動運転車の事故により被害を受けた者は,他に責任原因があるような場合(例えば,道路の設置又は管理に「瑕疵」があったとして道路等の設置管理者である国や公共団体を被告とすることはあり得ます。)はともかく,そうでない場合には全く救済されなくなってしまいますが,それが社会的正義に反することも明らかです。
自動運転車の事故に対する民事的救済は,現行法の枠内で適切妥当に解決することが困難であると思います。そうすると,自動運転車の事故による民事的救済のために新たな法制度が必要でしょうし,過失の要件を緩和した保険商品の開発も必要でしょう。自動運転車には,人為的なミスによる交通事故を減少させるなど大きな社会的メリットがありますので,自動運転車の実用化は不可避です。そのための法的な枠組みの構築や社会的なシステムの整備が合わせて求められます。
社外取締役
2018年1月16日
本日の日経新聞によると,会社法改正試案に,「企業と株主の対話促進」とともに社外取締役に関して,社外取締役の設置を義務づける案と現行のまま義務づけない案を併記するとのことです。
社外取締役は,平成26年改正会社法で資格要件が厳格化されるとともに,一定の要件の会社が社外取締役を設置しない場合,設置することが相当でない理由を説明しなければならないとされたわけです(法327条の2)。日経新聞の記事では,社外取締役設置の義務化により,「企業側が社外取締役との情報共有を増やしたり,社外取締役の意見をより尊重したりする姿勢の変化が期待できる」などとありましたが本当でしょうか。
社外取締役に関しては,会社法改正とともに,東京証券取引所の有価証券上場規程に「上場国内株券の発行者は,取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう務めなければならない。」との定めがされ(445条の4 平成26年2月10日から施行),さらに,コーポレートガバナンスコードに「独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり,上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。」との定めがされました(原則4-8 平成27年6月1日から適用)。
これら一連の動きは,社外取締役による取締役会の監督機能の強化によりコーポレート・ガバナンスを実現し,日本企業の収益力を高めることなどを期待してのものでした。この結果,平成28年7月時点で,東京証券取引所の市場第一部に上場している企業の98.8%で社外取締役を選任しており,社外取締役が2名以上の企業も79.7%に上ります。したがって,一部上場の企業では,大部分が社外取締役を設置済みです。
しかし,東芝社が典型ですが,社外取締役がいればいいというわけではありません。
同社は,早くから,現行法でいうところの指名委員会等設置会社となっており,コーポレート・ガバナンスの優等生との評価を受けていました。しかし,その実態は,取締役会において社外取締役に対する十分な情報提供が行われておらず,社外取締役による議論が活発に行われていなかったなどとして,ガバナンスが形骸化していたことを認めざるを得ませんでした(平成29年10月20日付「内部管理体制の改善報告」)。
東芝社以外にも上場企業で不適切事案が相次いでいます。上場企業ですから当然のことながら社外取締役がおられるわけですが,それでも,不適切事案を防ぐことができませんでした。したがって,社外取締役の設置が即コーポレート・ガバナンスにつながるというものではなく,あくまでもコーポレート・ガバナンスのための必要条件に過ぎず,十分条件ではないということでしょう。
コーポレート・ガバナンスのためには,東芝社の報告にあるとおり,社外取締役に「十分な情報提供」が必要であり,そうしない限り社外取締役の機能を活かすことは難しいと思います。この点の実効性を確保する方策をとらないままでは,真のコーポレート・ガバナンスの実現はできないように思われます。
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