エレベーターの大臣認定不適合
2018年1月12日
昨年の年末は,リニア新幹線工事の談合問題や新幹線台車の亀裂の問題などがあったためにあまり目立ちませんでしたが,株式会社日立製作所や株式会社日立ビルシステム等(以下,「日立社」)が設置したエレベーター約1万2000台の戸開走行保護装置(以下,「本件装置」)について,国土交通大臣認定仕様に適合していなかったことが判明しました。
本件装置は,扉が開いたままエレベーターのかごが昇降等した場合に,自動的にかごを制止する装置で,①2個の独立したブレーキ,②かごの移動を感知する装置,③通常の制御回路とは独立した制御回路の3要件全てを満たし,かつ国土交通大臣の認定を受けるなどしなければなりません(建築基準法施行令129条の10 3項,4項)。
日立社によると,本件装置に関して大臣認定を受けた合計133件のうち,9件で速度監視装置に搭載したプログラム等に不適合があったとのことですが,いずれにせよ大臣認定を受けた仕様を勝手に変更してしまったわけです。どうしてこのようなことをしたのか,不適合となることを分かった上でしたのか否かは必ずしも明確ではありませんが,大臣認定の仕様と異なる製品を製造,販売したことは,たとえ安全性には影響しないとしても(実際,指定性能評価機関である一般財団法人日本建築設備・昇降機センターが大臣認定不適合となっている全てのエレベーターを調査した結果,安全性を確認したとのことです。),ルール違反であることは明らかです。
エレベーターに本件装置を設置することが義務付けられたのは,シンドラー社製エレベーターの事故(平成18年6月,高校生がエレベーターから降りようとしていたところ,扉が開いたまま突然エレベーターが上昇を始めたため,エレベーターの床と入り口の天井に挟まれて死亡した事故)を契機としています。このような悲しい事故を絶対に繰り返さないための定めである以上厳格に運用されるべきであり,安全性に影響しないと考えていても勝手に仕様を変更してはいけないのは当然です。
本件装置は,利用者の生命,身体の安全に直結するものである以上,小さな不適合であっても容認すべきではなく,仮に不適合を生じさせた場合は速やかに公表し,的確な改善策を講じることが重要です。このような対応をとらないと,後で大きな打撃を被る危険があると考えるべきです。
新幹線の台車の亀裂 その4 リニアを救った車掌らの判断
2018年1月6日
JR西日本は,今月5日,昨年12月11日に発生した「のぞみ34号」の台車亀裂の件で,社長らが報酬返上をするとともに,鉄道本部車両部長に対する戒告の処分をしたなどと発表しました。ただ,車両に乗り込んだ車両保守担当社員や司令員などの現場の担当者に対する処分はされませんでした。JR西日本は,本件を振り返っての課題として,「車両保守担当社員と司令員は運行停止に関する判断を相互に依存する状況であった」ことなどを指摘していますが,異音やにおいの原因がはっきりしない中で,車両の点検をする判断はだれであっても難しいところであり,それを理由に処分をするのは結果責任を問うに等しいといえると思います。
さて,そうなると注目したくなるのが,「のぞみ34号」を止めて名古屋駅での点検を実施したJR東海の判断と決断です。
JR東海の車掌は,新大阪駅で,JR西日本の車掌から,13号車でにおい等が発生し,車両保守担当社員が点検したものの,走行に支障がなく運転継続である旨の引き継ぎを受けていましたが,京都駅発車後,13号車付近でにおいがするということで,司令員にその旨を連絡し,司令員が名古屋駅での点検を指示したということのようです。
名古屋駅で発見された台車の亀裂は台車枠に大きなコの字型の亀裂が入っており,亀裂があと3cm伸びれば台車が破断するおそれがありました。名古屋~東京間は営業キロで366km(実キロは,これより若干短くなります。)ですので,「のぞみ34号」がそのまま運行を続けていたとしたら,途中で13号車の台車が破断し,後続の12号車以降の車両の台車を破壊するなどして脱線転覆させるといった大惨事を引き起こしたかもしれません。さらには転覆した車両が下りの線路もふさぎ,下りの新幹線も巻き込んで,脱線転覆させればさらに被害が拡大するところでした。そうなれば,JR東海は,福知山線事故の際JR西日本が受けたダメージよりはるかに大きなダメージを受けたであろうことは容易に想像されます。しかも,折からリニア新幹線の工事に絡んで捜査がされている状況でしたので,このような大惨事が発生した場合は,リニア新幹線の工事にも何らかの影響が生じることも考えられます。
こうしてみると,「のぞみ34号」の車掌や司令員の判断と決断は,目前に迫っていた重大な危機を見事に回避したことになります。JR東海は,「のぞみ34号」の運転を打ち切るまでの経緯についての詳細は明らかにしていませんが,おそらく,わずかな異変でも見逃すことなく,ダイヤ乱れを生じさせても安全ファーストに徹するとの意識が社員に浸透していたのではないかと想像します。たとえ,結果的にダイヤの乱れを生じさせたとしても,必要な点検や確認をして安全ファーストの判断が優先されるとの制度や運用が企業風土にまで昇華されるようになることが重要であると思われます。
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