東京・銀座の弁護士

弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

HOME > コラム

内部通報者の保護

2018年2月13日

今日の日経新聞に,内部通報者の保護を強化するため,公益通報者保護法に行政措置や刑事罰を設けることが検討されているとの記事がありました。

現行の公益通報者保護法では,内部通報者に対する不利益処分を禁じる定めはあるものの,内部通報者が実際に不利益処分を受けた場合は,その処分の撤回を求める民事裁判を起こす必要があり,これが内部通報者にとっては大変な負担になるわけです。そこで,例えば報復人事がされた場合,企業に勧告を出したり企業名を公表するなどの行政措置を設け,さらに悪質な企業に対しては刑事罰を科すことが検討されているとのことです。アメリカでは,企業が通報者を解雇等した場合,罰金や懲役刑が科せられるそうですので,それに倣った規定を設けようということなのでしょう。

ただ,ここで考えなければならないのは,行政措置や刑事罰を設けることが本当に内部通報者の保護につながるのかということです。

行政措置でも刑事罰も,企業が内部通報者にした不利益処分が報復目的であることが証拠に基づいて立証する必要があります。しかし,企業が報復目的であることを簡単に認めるわけはなく,業務の必要のためとか,内部通報者の個人的資質を理由とした措置であるなどの反論をすることは明白ですし,そもそも不利益処分性についても争う可能性があります。そのため,報復目的等の立証にはかなり高いハードルがあると思われ,司法機関による刑事罰の場合はもちろん,行政機関の行政措置の場合も適用にはかなり慎重になると思います。そうなると,行政措置,刑事罰を定めても抜かずの宝刀になるおそれがあります。報復目的等でないことを企業側に立証させる方法もあり得るかと思いますが,そのような立証責任の転換には慎重であるべきです。

もちろん,内部通報の重要性はいうまでもなく,企業が自ら不正をただすきっかけとなりますので,内部通報者に対する報復が許されないことはいうまでもありません。ただ,内部通報者保護のため方法として行政措置や刑事罰のみでなく,それとは異なるアプローチがあってもいいのではないかと思います。

建設現場の安全

2018年2月6日

先日,顧問先の建設会社がビルの建設工事をしていたところ,内容虚偽の中傷ビラをまかれるという被害を受けました。ビラには,「作業員に安全帯をさせないまま高所での作業をさせていた」ことが法令違反であるなどと記載されていました。

確かに,鉄骨の組み上げ作業をする際,作業員は安全帯を装着していませんでしたが,代わりに安全ブロック(万が一足を踏み外した場合,転落時の落下距離を短くする装置)を装着していました。

労働安全衛生規則は,高さ2メートル以上の箇所の作業床の端,開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には,囲い,手すり,覆い等を設けなければならないとし(規則519条1項),囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは,防網を張り,労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならないとしています(同条2項)。このように,転落防止措置は安全ブロックでもかまいませんので,会社に法令違反の事実はありませんでした。

したがって,今回のビラの記載は全くでたらめであり(これ以外にも内容虚偽の事実が多々記載されていました。),嫌がらせ目的であることが明白でしたので,厳重に抗議したことはいうまでもありません。

このような一件があったからというわけではありませんが,昨日の日経電子版の「建設現場で死亡事故多発 背景に活況下での人手不足」との記事が目にとまりました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26083110U8A120C1000000/

記事によると,建設現場での死亡事故はここ数年減り続けていたものの,2017年には増加に転じそうであり,今後も事故が増える可能性があるそうです。また,事故原因としては墜落・転落が最も多く,昨年は東京の「(仮称)丸の内3-2計画」ビル建設工事,新名神高速道路の橋梁工事等で転落による死亡事故が発生しており,安全帯等を装着しなかったため,足場の解体作業中に転落してしまった事故もありました。安全帯や安全ブロック等何らかの転落防止措置を講じていれば事故を防ぐことができたはずです。

なお,記事によると,死亡事故の増加要因として人手不足があるとのことです。確かに,近時の人手不足により,熟練していない作業員を多数使用することから,労働災害が起きるリスクが高くなっていると考えられます。労働災害は,関係者全てにとって負の結果をもたらしますので,労働災害をゼロにするよう努力すべきはいうまでもありません。しかし,今後,人手不足を背景に事故が増えると予想されますから,作業員に対する安全配慮義務を負う事業者としては,これまで以上の安全配慮が必要となります。その分増大するであろうコストは,労災が発生した場合のダメージを回避するための必要経費と考えるべきです。

公益通報者保護制度

2018年2月2日

朝日新聞の記事(1月29日付)によると,オリンパス株式会社の社員弁護士が,公益通報に対する不利益扱いをしたなどとして,同社を訴えたとのことです。

記事によると経緯は次のとおりです。

オリンパスの子会社である中国の製造会社が,中国の税関当局とのトラブルを解決するためとして地元企業に4億円を支払ったらしいのですが,当該製造会社の法務本部長が,これを贈賄の疑いがあるとして,本社に対し,内部統制上の問題がある旨報告したものの,本社は贈賄と認定しませんでした。法務本部長は,なおも第三者委員会を設置して調査するよう主張しましたが,東京の新設部署の室長付への異動を内示されました。この事実を知った本社法務部勤務の弁護士は,「報復人事の可能性が高く,公益通報者保護法違反などのおそれがある」として,社外取締役宛のメールで是正を求めるとともに,法務部やコンプライアンス部などの多数の同僚に同様のメールを数回転送しましたが,これに対し,会社は,この弁護士に対し,会社のメールの使用を禁止しました。すると,この弁護士は,「使用禁止は公益通報に対する不利益扱いで,公益通報者保護法に違反する」として,会社に対し500万円の損害賠償を請求しました。

訴訟の結果が分かるのはしばらく先になりますが,問題となっている公益通報者保護法は,①労働者が,②労務提供先の不正行為を,③不正の目的でなく,④一定の通報先に通報した場合,公益通報者の保護を図ることなどを内容とする法律です(平成18年4月1日施行)。

通報の対象となるのは,「労務提供先」において,「国民の生命,身体,財産その他の利益の保護にかかわる法律」に違反する犯罪行為の事実又は最終的に刑罰につながる行為が生じ,又はまさに生じようとしている事実で,平成30年1月1日現在,464本の法律が通報対象となります(但し,公益通報者保護法自体は含まれていません。)。

通報先は,事業者内部,権限のある行政機関,その他の事業者外部のいずれかですが,この順に公益通報者の保護要件が加重されています。

公益通報を行った労働者(公益通報者)は,公益通報を理由とした事業者による不利益な取扱い(解雇,降格,減給,訓告,自宅待機命令,給与上の差別,退職の強要,専ら雑務に従事させること,退職金の減額・募集等)から保護されます(法3条等)。

公益通報者保護法については,平成28年12月,「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が改正され,また公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会の最終報告書がとりまとめられており,制度の実効性を高める方向での改正が予定されています。今回のオリンパス社内の動きと合わせて注目していく必要があります。

1 2

▲ページの上へ戻る