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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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地面師詐欺による被害を防ぐには

2018年3月9日

積水ハウス株式会社は,昨年6月,品川区内の土地を巡り,約60億円をだまし取られる被害を受けました。この詐欺事件を契機として,積水ハウス社で混乱が生じたようですが,今回注目するのは,今月6日にリリースされた「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」です。

これは,詐欺被害の調査結果ですが,報告書によると,所有者と称するA氏のパスポートや公正証書等による本人確認をしたものの,それが偽造されたものであることに気づかず,その後,本物の土地所有者を名乗る者から「売買契約はしない」という内容証明が送られたり,「別人との取引で偽造されている」との書面が送られたりしたのに,マンション事業本部も他の部門も取引妨害のたぐいであると判断してしまい,代金の支払いに及んでしまったとのことです。

同報告はこのような経緯を踏まえて,「本件を防げなかった直接の原因は,管轄部署が本件不動産の所有者に関して書面での本人確認に頼ったことにあります。ただ,司法書士も本物と信じたという偽造パスポートや公正証書等の真正な書類が含まれていたという地面師側の巧妙さもあり,初期段階で地面師詐欺を見破ることができませんでした。」と指摘します。

確かに今時の偽造書類は実に精巧ですので,簡単に見破ることはできません。私が担当した地面師詐欺の事件では,偽造されたQRコード付の住民基本台帳カード(顔写真付き)が提示されましたが,表面上矛盾はありませんでしたし,法務局も真正な本人確認書類であると認めて登記を受理しました。私もコピーを見ましたが,外見上は不自然なところは全くありませんでした。

しかし,今回の積水ハウス社の件では,法務局が本人確認書類の偽造に気づいたわけです。別の地面師詐欺では,本人確認書類として提示された運転免許証の生年月日の記載が売主の生年月日と異なっていたり,運転免許証に記載された生年月日と運転免許証の有効期限の記載が矛盾していたものがあります(例えば,1月1日生まれの場合,有効期限は「2月1日」とされますが,「1月1日」と記載されている。)。そのような誤記や矛盾点があれば偽造されたものとわかります。おそらく,今回のA氏のパスポートにもそのような矛盾点があり,法務局はそれを見逃さなかったということでしょう。したがって,本件は,「管轄部署が本件不動産の所有者に関して書面での本人確認に頼ったこと」が問題ではなく(本人確認はむしろ書面に基づいて行います。),法務局が気づくような矛盾等を見逃した積水ハウス社側の本人確認能力ということになるでしょう。

積水ハウス社は,宅地建物取引業の免許をお持ちですので,土地を購入する場合は,売主(と称する者)の本人確認をする義務があります(犯罪による収益の移転防止に関する法律)。ですので,司法書士任せにすることなく,ご担当者による本人確認がされたでしょうが,最前線のご担当者が巧妙に偽造された本人確認書類を見破ることはなかなか困難であろうと思われます。しかし,最前線での本人確認をスルーすれば,他の部門は,「担当者が細心の注意を払って確認したのだから誤りはないはずだ。」と高をくくってしまい,だれも取引を止めることができなくなるのはむしろ当然かと思います。

そうしてみると,地面師詐欺の被害を避けるためには,一にも二にも本人確認の精度を高めることがポイントとなります。ですから,この際,本人確認を担当者や司法書士任せにすることなく,本人確認のプロで構成された本人確認専門チームに担当させるのも一つの手かもしれません。地面師詐欺の被害者は,たいてい一定の資金力のある不動産業者やディベロッパーですので,そのような専門部隊を養成することはそれほど難しいことではないように思います。過去の地面師詐欺の事例から偽造を見破るポイントを蓄積しておけば,少々の偽造であれば容易に見破ることができるのではないでしょうか。さらに,そのような直接の担当者とは別の部隊による本人確認であれば,いくぶん冷静な判断も期待できると思います。

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