地面師詐欺
2019年2月7日
私は,土地の所有者と称する女(成りすまし)について,手続代理人として本人確認をすることになった弁護士が,女が持参した顔写真入りの住民基本台帳カードにより本人確認をしたところ,売買契約の後に成りすましであることが判明し,売買契約の買主から損害賠償請求をされたという事件の弁護士の代理人となりました。
この事件は,第一審では弁護士が一部敗訴(過失相殺4割)したのですが(判例時報2343号),控訴審(東京高等裁判所平成29年6月28日判決)では弁護士の責任が否定されました。その控訴審判決がこのたび判例時報(2389号)に掲載されました。
なお,控訴審判決後,最高裁に上告受理申立がされましたが,最高裁は,平成29年12月12日付で,「本件を上告審として受理しない。」との決定をして,高裁判決が確定しました。
この事件では,女が持参した住民基本台帳カードは実に精巧に偽造されており,到底見破ることができないものでした。そのため,法務局での審査でも特に問題なく受け付けてもらえました(これに対し,積水ハウス社が被害にあった品川区内の土地売買を巡る地面師詐欺事件では,法務局が本人確認書類の矛盾に気づき,登記を受理しなかったものと考えられます。)。
ただ,女が事情説明のために持ち込んだ遺産分割協議書にいくつかの誤記等があり,また,売買契約そのものも,2億4000万円を現金で決済するという通常の取引ではあり得ない異常なものでした。
本件訴訟の第一審は,その点をとらえて,本人確認書類の作成を依頼された弁護士としては,単に書類審査のみでなく,売主の自宅を訪問するなどの方法による本人確認をするべきであったのにこれを怠ったとして,弁護士の過失を認めて約1億6000万円の支払いを命じる判決をしましたが,この第一審を不服として控訴したのがこのたび判例時報に掲載された東京高裁判決でした。
東京高裁は,遺産分割協議書の記載の誤りがあったとしても,同時に持ち込まれた印鑑登録証明書(これも偽造されたものです。)の印影と同一の印影が顕出されていることからすると,誤記の存在をもって成りすましを疑うべき事情とはいえないし,弁護士は,売買契約の内容には全く関与しておらず,異常性を知ることができなかったとして,弁護士の責任を全面的に否定したのでした。
本件では以上のような経過で弁護士の責任が否定されましたが,まずは地面師詐欺の被害にあわないようにすることが重要です。
そのためには,一にも二にも成りすましかどうかを見極めることにあります。
地面師詐欺には,
おいしい土地なのに長い間開発されていない。
しかも抵当権が設定されていない。
所有者が高齢者や実態がよく分からない法人である。
所有者本人となかなか会うことができない。
代理人と称する者が仕切っている。
正体不明の人物がうろうろしている。
取引を急がせる。
などといった特徴があると思われます。
このような特徴が一つでもあれば地面師詐欺を疑った方がいいのではないでしょうか。
そこで,このよう特徴があったり,何か怪しいと感じるものがあれば,所有者と称している人物の写真をご近所の方に見ていただき,所有者ご本人かどうかを確認するのが適当です。
ですので,上記のような場合には,交渉の際,「(所有者と称する人物の)写真をご近所の方に見せてもいいでしょうか?」と言ってみると,地面師詐欺でないのであれば「どうぞ,ご自由に。」ということになるでしょうが,地面師詐欺であれば,「この話はなかったことにしてほしい。」と言ってくるのではないでしょうか。
積水ハウスさんは,代金をだまし取られた後に,ご近所の方に所有者と称する女の写真を見せたところ,別人であると指摘され,初めて成りすましであることが分かったとのことですが,後の祭りでした。
また,弁護士や司法書士が売主の売買の代理人とか,手続代理人であったとしても,それを信用することなく,買主が売主本人の本人確認をすべきでしょう。
だまされてからでは遅いのです。
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