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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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カルロス・ゴーン被告の海外逃亡

2020年1月9日

もう少しで年が明けるというところで,カルロス・ゴーン被告が,日本を不法に出国し,レバノンにいることがわかり,世界的に大騒ぎになっています。

ゴーン被告は,1月8日,レバノンで特定のメディアを集めて会見を行い,自分の無実を主張する一方で,我が国から不法に出国した経緯の説明を拒否しました。無実というのであれば,日本の裁判所で無罪判決を勝ち取ればいいだけのことですから,裁判を免れるため,音響機器用のケースに隠れて国外逃亡をした以上,あまり説得的でないことは明らかでしょう。

ただ,我が国が犯罪人引渡条約を結んでいるのは米国と韓国の2か国のみであり,日本との間で犯罪人引渡条約を結んでいないレバノン政府は,日本政府からゴーン被告の身柄の引渡を求められても,これに応じる義務はありませんし,引渡に応じることはなさそうです。ですので,ゴーン被告が再び我が国の土を踏むことはなさそうです。

そうなると問題となるのは,ゴーン被告に対する刑事裁判がどうなるかです。

刑事訴訟法は,軽微事件(原則として50万円以下の罰金又は科料に当たる事件)等一定の場合を除いて,「被告人が公判期日に出頭しないときは,開廷することができない。」と定めています(286条)。

ゴーン被告に対する公訴事実は,有価証券報告書の虚偽記載と会社法の特別背任であり,法定刑は,それぞれ10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金(又はこの併科)であり(金商法197条1項1号,会社法960条),軽微事件ではありませんので,ゴーン被告が出頭しない限り期日を開廷することはできません。

なお,刑訴法は,「被告人が出頭しないでも,その期日の公判手続を行うことができる。」場合があることを定めていますが,これは,「勾留されている被告人が,公判期日に召喚を受け,正当な理由がなく出頭を拒否し,監獄官吏による引致を著しく困難にした」という要件が必要ですので(286条の2),ゴーン被告には当てはまらないことになります。

したがって,ゴーン被告が裁判所に出頭しない限り開廷することができず,裁判所が有罪,無罪の判断をすることもできないことになります。

また,今回の件では,ゴーン被告の逃亡を受けて,東京地検が,裁判所の捜索差押許可状を得て,ゴーン被告が使用していたパソコンを押収しようとしましたが,弁護人がこれを拒否しました。この根拠となるのは刑訴法105条であり,同条は,「医師,歯科医師,助産師,看護師,弁護士(外国法事務弁護士を含む。)弁理士,公証人,宗教の職に在る者又はこれらの職に在った者は,業務上委託を受けたため,保管し,又は所持する物で他人の秘密に関する物については,押収を拒むことができる。」とされており,弁護人はこの条文を根拠としてパソコンの提出を拒否したのでした。

いずれにせよ,ゴーン被告が裁判所に出頭し,開廷することは(おそらく永遠に)できなくなったと考えられます。そうすると,ゴーン被告に対する判決がされることも永遠になくなったといえます(裁判所は,ゴーン被告が死亡すれば,控訴棄却の決定をすることになるのでしょうが,ずいぶん先のことになると思われます。)。

刑事訴訟の大原則は,有罪判決が確定するまでは,被告は無罪の推定を受けるということです(国際人権規約等)。つまり,ゴーン被告に対して有罪判決がされる可能性が永遠になくなったということは,実質無罪と同じです。

ゴーン被告は,内外の専門家から,海外に逃れれば日本の裁判所の裁判を受ける必要がなくなる,つまり有罪判決を受ける可能性もなくなる旨のアドバイスを受けていたでしょうし,それを踏まえて,このような違法な手段による国外逃亡をしたと考えられます。

ゴーン被告は,不法出国という違法な手段により,実質無罪を勝ち取ったのでした。

 

 

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