東京・銀座の弁護士

弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

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コロナ禍と賃料の減免等

2020年4月28日

新型コロナウィルス感染症により,政府が緊急事態宣言を公示してから既に3週間になります。
この間,外出の自粛,特に,三密を避けるとして夜の飲食の自粛が強く求められ,その結果,多くの飲食店が営業休止となりました。事務所に近い銀座でも大部分の飲食店が営業を休止しており,通りを歩く人はほとんどいません。リーマンショックや東日本大震災の時でもこれほどではありませんでしたので,新型コロナウィルス感染症の破壊力の強烈さが分かります。
このように多くの飲食店が休業を余儀なくされていますが,日々の売上がなくなった飲食店は賃料の支払いに窮することになります。
私も,緊急事態宣言が出る前,飲食店経営者の方から,賃料を保証金から天引きしてもらえるかとのご質問を受けたことがありましたが,「基本的にオーナーは保証金(敷金)に手を付けないので,むしろ賃料の減額を求める方が現実的ではないでしょうか。」とお答えしました。

このように,テナントからの賃料の減免や支払猶予等の要請があったとき,オーナーとしてどのような対応が必要でしょうか。
賃貸借契約はいうまでもなく,賃貸人が賃借人に目的物の使用収益をさせ,賃借人が賃料を支払う契約ですので,賃借人が物件を占有する限り,約定のとおりに賃料を支払ってもらうのが原則です。
しかし,オーナーが賃料の減免等に応じない場合,優良なテナントさんであっても営業を終了して店を明け渡す可能性があります。
テナントさんに退去されると,その瞬間から空き室となり賃料が入らなくなりますし(保証金も一部返還する必要があります。),次のテナントを探す手間,次のテナントの賃料滞納リスク等を考慮すると,むしろ,賃料の減免や支払猶予等に応じてでも現在の優良なテナントとの契約を継続させ,この危機的状況を乗り切る方が得策という考え方があり得ます。
もちろん,金融機関からの借入金等の返済等のため,賃料の減免等に簡単に応じられないというオーナーさんもおられるでしょう。
しかし,賃料の減免等に応じない場合,テナントさんが退去する可能性や賃料の支払がストップしてしまう可能性があり,いずれにせよ賃料収入が途絶えることになります。
そうすると,優良なテナントさんから賃料の減免等の要請があれば,これを前向きに検討するのが得策と思われます。
実際,多数の賃貸物件を保有しておられる日本生命保険は,保有するビルに入居するテナントさんに対し賃料の引き下げに応じる方針だそうですし,大手の不動産会社も同様といわれていますが(日経新聞),優良なテナントさんの引き止め策ともいえます。

また,中には賃料を支払わないテナントさんも出てくると考えられます。
通常であれば,賃借人が賃料を2か月滞納すれば賃貸借契約を解除し,明渡を求めることになりますし,裁判所も,賃料の滞納が2か月になれば解除の効果を認めて明渡しを命じます。
ですので,これ以前に賃料の滞納等のあるテナントさんであれば,この際に退去していただくという選択はあり得ます。
しかし,そうでない優良なテナントさんの場合は,賃料の滞納はコロナウィルスのまん延による自粛要請によるもので,テナントさんの責任とはいえません。
このような事情がありますと,裁判所は,賃料滞納は賃借人の責めに帰すべきものとはいえないとか,信頼関係の破壊があるとまで認められないなどとして,いわば「コロナの抗弁」により解除を認めない可能性もあり得ます。

現在,国は,飲食店等の賃料に関し,テナント,オーナー双方の支援策を検討しています。
テナント側の支援策としては,与党は事業継続を見据えて補助金の支給を検討しているそうですし,野党は賃料の支払を1年程度猶予する案を示しているそうです。
また,オーナー側の支援策としては,テナントの賃料を減免した場合は損金として計上することが可能となっています。
また,固都税の減免措置として,

新型コロナウィルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった場合,中小事業者,中小企業者が所有し,事業のように供する家屋(建物)及び償却資産(設備等)の令和3年度の固定資産税及び都市計画税が,事業にかかる収入の減少幅に応じ,ゼロ又は2分の1となる。

との案が審議されています。
このような支援策を活用しつつ,優良なテナントさんとともに痛みを共有するのが得策であるように思われます。

株主総会の延期

2020年4月25日

新型コロナウィルス感染症の感染拡大が止まりません。
政府が緊急事態宣言を公示し,外出自粛要請等がされてから既に2週間以上が経過しましたが,なかなか感染拡大に歯止めがかかっていないようです。やはり,外国のように強制力を伴う措置でないと目に見える効果は出にくいのかもしれません。

さて,このように新型コロナウィルス感染症が年度末にかけて急拡大し,多くの会社が在宅勤務となったことなどから,3月期決算の会社では決算の取りまとめや監査法人による監査に大きな支障が生じており,6月の株主総会の準備が間に合わないといわれています。また,6月に株主総会を招集した場合,株主総会でクラスターが発生するリスクもあります。
我が国では,多くの大企業が3月期決算としているようですので(国税庁によると,3月期決算の会社の割合は,資本金が5億円以上の大会社の場合約59%,100億円以上の会社の場合約74%だそうです(平成30年度)。),新型コロナウィルス感染症が蔓延している状況で,株主総会の開催について検討している企業も多いのではないでしょうか。

それでは,3月期決算の会社が6月以降に株主総会を延期することは会社法上可能でしょうか。
会社法は,124条1項で

株式会社は,一定の日(基準日)を定めて,基準日において株主名簿に記載され,又は記録されている株主(基準日株主)をその権利を行使することができる者と定めることができる。

とし,同条2項で

基準日を定める場合には,株式会社は,基準日株主が行使することができる権利(基準日から3か月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。

としています。
そして,3月期決算の会社の多くは,定款で,定時株主総会の議決権の基準日を毎年3月31日とする旨の定めをしているのではないでしょうか。
そうすると,定款において定時株主総会の議決権の基準日を毎年3月31日とする旨の定めをしている会社は,どうしても6月に株主総会を招集しなければならないように見えます。
しかし,会社法は,

定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。

と定めていますが(296条),決算期から3か月以内に株主総会を招集しなければならないとはしていません。
したがって,定款の定めはともかく,会社法上は,決算期と株主総会の招集時期はリンクしていないことになります。

そうしたことから,法務省は,

会社法上,基準日株主が行使することができる権利は,当該基準日から3か月以内に行使するものに限られます(会社法第124条第2項)。
したがって,定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において,新型コロナウイルス感染症に関連し,当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは,会社は,新たに議決権行使のための基準日を定め,当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。

として,特に定款変更の手続を経ることなく,新たな基準日を設定等することにより,株主総会の開催時期を7月以降に変更することが可能であるとの見解を示しています。

なお,かつて,証券取引法(現在は金融商品取引法)は,決算期から3か月以内に有価証券報告書を提出しなければならないとし,有報を提出するに当たり,株主総会に報告又はその承認を受けた計算書類等の添付を求めていましたので,定時株主総会は,有報提出前まで(つまり決算期から3か月以内に)に招集しなければなりませんでした。
しかし,現在は,企業内容等の開示に関する内閣府令により,有報を定時株主総会前に提出する場合は,株主総会に報告しようとするもの又はその承認を受けようとするものの添付で足りるとされました(同内閣府令17条)。
なお,令和2年4月17日付内閣府令第37号により,企業内容等の開示に関する内閣府令が改められ,今回の新型コロナウィルスの感染拡大の影響は,有報を3か月以内に提出できなくても「やむを得ない理由により」,「(当該事業年度経過後3月以内に)提出できないと認められる場合に該当する」とされ,令和2年9月30日までに提出すればよいことになりました。

こうしてみると,3月期決算の会社が,定款に決算日を基準日とする旨の定めをしているとしても,(定款変更の手続きを経なくても)基準日を変更することにより7月以降に定時株主総会を招集することは可能であるといえます。
新型コロナウィルスの感染拡大を食い止めるべき社会的要請が高い状況で,株主総会を6月に開催することが適切かどうか慎重に検討する必要があるように思われます。

テレワークの実施について

2020年4月16日

新型コロナウィルスの感染拡大を受けて,政府は,令和2年4月7日,新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を公示するとともに,同月10日付で,事業者に対する要請として,

 在宅勤務(テレワーク)やテレビ会議等を活用した「終日出勤回避」の推進,多くの企業における4割の不在を前提とした業務継続計画(BCP)を上回る取り組み,職場での「三つの密(密閉,密集,密接)」の回避など,人と人との接触を減らすためのあらゆる取り組みを促す。

などとする「緊急事態宣言に伴う事業者への要請等に係る留意事項等について」との事務連絡を発出しました(令和2年4月10日付)。

一部の会社は,緊急事態宣言が出される前から,新型コロナウィルス感染症対策として独自の判断で在宅勤務(テレワーク)を実施していた会社もあるようですが,緊急事態宣言後は7割以上の社員がテレワークをするようになっている会社もあると報道されています。しかし,一方で,業種や職種によってはその性質上テレワークが困難である場合もありますし,中小企業は,大企業のような規模でテレワークを実現することは難しいとのことです。
このように,新型コロナウィルス感染症対策としてのテレワークには現実の課題がありますが,労働法の関係でも一定の要件をクリアしなければなりません。
というのは,テレワークといっても労働の場所が自宅というだけですので,労働時間の管理が必要となります。そして,在宅勤務用の労働時間をもうけるのであればその労働時間に関する規定が就業規則に定められる必要があります(労働基準法89条1項1号)。また,テレワークに必要なパソコン等の機材や通信費の負担をどうするかについてのルール作りも必要であり,その点も就業規則に定める必要があります(労基法89条1項5号)。
こうしたことから,就業規則の作成義務のある会社(常時10人以上の労働者を使用する使用者)がテレワークを実施しようとするには,就業規則にテレワークをするための規定が定められる必要があります(労基法89条)。
就業規則作成義務のない会社等であっても,上記の事項についての労使協定を結んだり,労働条件通知書で労働者に通知するなどの対応が必要です。
このように,労働法上,就業規則にテレワークに関する規定を定めていない場合は,いきなりテレワークを実施することはできません。

就業規則にテレワークに関する規定を定めていない会社がテレワークを実施できるようにするには,規定の作成,労基署への届出,労働者への周知等一連の手続が必要であり,そのために一定の日数を要することになります。
平時であればこれらの一連の手続きをとる時間的余裕があると思います。
しかし,現在は新型コロナウィルスの感染が全国的に拡大し,新型インフルエンザ対策特別措置法による緊急事態宣言が出されている非常時です。
ですので,政府としては,就業規則にテレワークに関する規定が整備されていない会社にも,就業規則の整備を後回しにすることを認めて(労働時間等に関する規定を順守することを大前提として),テレワークを可能にする緊急避難的な対応を可能にする措置が必要なのではないでしょうか。
政府は,テレワーク実施のための体制の整備されていない主に中小企業に対して,テレワーク用通信機器の導入・運用,就業規則・労使協定等の作成・変更,労務管理担当者に対する研修,労働者に対する研修,周知・啓発等を対象とする助成を始めたようです(「新型コロナウィルス感染症対策のためのテレワークコースの助成」)。
しかし,専門家の支援により就業規則を変更し,労働基準監督署に届け出るとともに労働者に周知してからでは,新型コロナウィルス対策がまたしても後手に回る結果になってしまうのではないでしょうか。テレワークだけが新型コロナウィルス感染症対策ではありませんが,全ての方策を総動員すべき状況に至っていることは明らかですので,この際,やれることは全てやるという覚悟が求められていると思います。
非常時にはそれに相応しい柔軟な対応が認められてしかるべきではないでしょうか。

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