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日野自動車

2022年9月7日

日野自動車株式会社は,2022年3月,日本市場向け車両用エンジンの排出ガス及び燃費に関する認証申請における不正行為を確認したとして,大型エンジン,中型エンジンの3機種とその搭載車両の出荷を停止しましたが,同年8月2日,これら大型エンジン等に関する不正行為の詳細や再発防止策などを明らかにした特別調査委員会の調査報告書を公表しました。ただ,この調査では,小型エンジン(N04C(HC-SCR)/2019年モデル 以下,「2019年モデルエンジン」といいます。)は対象とされませんでした。

 ところが,8月3日以降,国土交通省による立入検査を受けたところ,排出ガス劣化耐久試験に関する新たな不正行為が明らかになり(2022年8月22日付「エンジン認証に関する追加の判明事項について」),その結果,日野自動車は,2019年モデルエンジンが搭載された小型トラック(日野デュトロ)についても出荷を停止する措置をとり,国内向けの全てのトラックの出荷ができなくなってしまいました。

国土交通省の2022年8月22日付リリース(「日野自動車の排出ガス・燃費試験の新たな不適切事案について」)によると,

○ 日野自動車は,現行生産のトラック・バス用エンジン全7機種に係る型式指定申請において,長距 離耐久試験を行い算出した排出ガス劣化補正値を提出していた。

○ 長距離耐久試験においては,一定の走行距離毎(小型エンジンの場合,5,000㎞,4万㎞,8万㎞)を走行した時点(測定ポイント)において,排出ガス測定を2回以上行い,その測定結果を用いて排出ガス劣化補正値を計算する必要がある。

○ 日野自動車は,一部の測定ポイントで1回しか測定しておらず,また,排出ガス劣化補正値の計算の際,各測定ポイントの測定結果を一つしか用いていなかった。

○ 日野自動車は,規定の内容を十分理解していなかったことが原因と説明。

と記載されています。

 つまり,本来,長距離耐久試験においては排出ガス測定を複数回するべきなのに,1回しか測定しなかったポイントがあったり,補正値の計算の際,各測定ポイントの測定結果を一つしか用いていなかったため,排出ガス劣化補正値が適切に計算されていませんでした。この点,日野自動車は,「規定の内容を十分理解していなかったことが原因と説明」しているとのことですが,そもそも自動車メーカーが検査に関する規定の内容を「十分理解していなかった」とは考えにくいところですし,規定に適合する方法で排出ガス劣化補正値を計算していたところもあったのですから,日野自動車の説明をにわかに信ずることはできません。

 さらにつきつめると,今回明らかになった不正行為(国土交通省の表現では「不適切行為」)は,2022年3月以前から行われていたのではないでしょうか。そうすると,本来,大型エンジン等に関する不正行為を発表した段階で,この2019年モデルエンジンに関しても不正行為があった旨発表され,かつ,その件についても調査がされるべきだったのではないでしょうか。

  この点,会社は,「試験の誤りを認識しておらず,特別調査委員会に適切なデータを提供できていなかった」と釈明したとのことですが(日経XTECH ウェブ 2022/8/22),現場が規定を正確に理解できていなかったとすればそれ自体問題です。

 仮に規定を正確に理解できていたものの敢えて規定に違反する測定方法を続けていたのにそれを会社に報告していなかったのであればさらに問題ですし,会社がその旨の報告を受け,不正行為を認識しながら2022年3月の時点で,それを公表しなかったとすればますます問題です。

 いずれにせよ,2019年モデルエンジンの不正行為についても,2022年3月までに把握してその時点で公表するとともに,特別調査委員会の調査に委ねるべきであったのに,それをせず,調査報告書を公表した直後に不正行為が追加で発見されてしまったのは,大失態というべきであり,危機対応として最悪というほかありません。今回発覚した不正行為についても特別調査委員会による新たな調査を実施して,このような大失態に至った経過を検証するのが適当と思われます。

 日野自動車は,8月2日の時点で,「再生に向けて全社を挙げて取り組んでまいります。」(2022年8月2日付「特別調査委員会による調査結果および今後の対応について」)としていましたが,今回発覚した不正行為の原因究明を徹底しない限り真の再生を実現することはできないのではないでしょうか。

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