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フリーランス保護法

2025年6月26日

公正取引委員会は,令和7年6月17日,株式会社小学館と株式会社光文社に対し,それぞれ,フリーランス保護法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)に違反した事実があるとして勧告を行いました。

このフリーランス保護法は,力関係的に弱い立場におかれているフリーランスとの取引の適正化を目的とする法律です。
法は,フリーランス(フリーランス保護法では「特定受託事業者」と規定されています。)を

1 個人であって,従業員を使用していないもの

2 法人であって,一の代表者以外に他の役員がなく,かつ,従業員を使用しないもの

と定義した上で,フリーランスに業務委託をする事業者(「特定業務委託事業者」)は,報酬の額,支払期日等の取引条件を書面等で明示しなければならないとし(法第3条1項),報酬の支払期日は,委託した事業者がフリーランスから成果物を受領した日から起算して60日以内の期間内において,かつ,できる限り短い期間内において,定めなければならず(法第4条1項),仮に期日の定めがされない場合は,業務を委託した事業者が成果物を受領した日を支払期日と定められたものとみなされるなどとしています(法第4条2項)。
また,業務委託をする事業者は,フリーランスの責に帰すべき事由がないのに給付の受領を拒むこと,報酬の額を減ずること,不当に低額な報酬額を不当に定めることなどが禁止されます(法第5条)。

上記2社は,月刊誌や週刊誌等の書籍を編集する際,原稿,写真データ,イラスト等の作成,ヘアメイクの実施,撮影道具等の手配等の業務をフリーランスに委託していたところ,報酬の額等を明示せず,また,報酬の支払期日を明示していなかったのに,成果物を受領した日までに報酬を支払わなかったとして,法第8条1項等の定めに基づいて勧告を受けたのでした。
出版業界では,これまで,フリーランスに対して取引条件を明示せず,また,報酬の支払いも月刊誌や週刊誌が発売された日を基準に報酬の支払い日が設定されるなどしていたとのことですが,法が施行された令和6年11月1日以降も,これまでと同様のやり方を続けていたことになります。
日経新聞の記事によると,小学館も光文社も,フリーランス保護法の施行に伴い研修や説明会を行ったとのことですが,現場レベルでは徹底されなかったことになります。
フリーランス保護法の定める手続が履行されなかった事情としては,多数のフリーランスにいちいち書面等で条件を明示することが面倒ということもあるでしょうが,フリーランスなんて代わりはいくらでもいるし,いわば使い捨てという意識が働いているのではないでしょうか。
また,報酬額を予め明示せずに少ない報酬で仕事をさせれば,経費を圧縮したとして担当者の手柄にもなり得ます。

確かにフリーランス保護法が施行されるまでは,従前のやり方をしても下請法違反等にならない限り法的問題になることは少なかったと思われますが,フリーランス保護法が施行された以上,法の定める手続を履行する必要があり,それに違反すると今回のような勧告がされ,社名が公表されてしまいます。
特に,公正取引委員会は,独占禁止法,下請法,フリーランス保護法を駆使して,下請業者やフリーランスなどの事業者との契約関係を適正なものとすることに強い意思を有していますので,今後もフリーランス保護法等の違反に対して厳しい対応をしていくものと予想されます(6月25日には,島村楽器株式会社に対してフリーランス保護法に基づく勧告がされました。)。

フリーランスとの対応を現場任せにすると今後も同様の勧告がされるおそれが大きいといえます。
下請法のコラムでも記載しましたが,フリーランスとの契約関係を法に適合した形にするためには,現場任せではなく,トップが強いリーダーシップを発揮して,現場の意識改革を進めるとともに,不断の監視をすることが必要だと思います。

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