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輪軸不正

2024年10月11日

日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)は,2024年9月10日,輪軸組立作業に不正があったとして,全国3か所の車両所所属の貨車等600両以上等の運用を停止し(9月12日リリース),そのため,物流に大きな障害が発生しました。
輪軸は,車輪や大歯車などを車軸(円柱形)に圧入して組み立てたもので,車軸の外径よりわずかに小さい内径の穴が中心にある車輪や歯車を嵌め合わせて両者を締結する圧入作業を行って形成します。
この圧入作業については,日本産業規格(かつての日本工業規格)(JIS E4504)により,圧入力の値が「上限基準値の+10%以内」という基準が定められているところ,JR貨物は,圧入力がこの基準値の上限を超えていたのに,検査結果データを基準値内のデータに差し替えて,検査を終了させていたとのことです。
JR貨物は,本年7月24日に発生した山陽線新山口駅構内で発生した貨物列車脱線事故を受けて,関西支社広島車両所で輪軸組立作業の確認をしたのですが,その際,社員が輪軸の不正を申告したことで今回の不正が発覚しました。なお,新山口駅で脱線した車両にも検査結果データが差し替えられた輪軸が搭載されていましたが,脱線の原因は調査中とのことです。

国土交通省は,JR貨物の輪軸不正を受けて全国の鉄軌道事業者(156事業者)に対し,鉄道車両における輪軸の緊急点検を指示した結果,圧入力値が社内の規定等から逸脱している等の不適切な事案が判明した事業者は,9月30日の時点で計91事業者,そのうち改ざんが確認された事業者は計50事業者でした(9月30日リリース)。
多くの事業者が圧入力値を逸脱させていただけでなく,改ざんも行っていたようにもみえますが,改ざんが確認された事業者(計50事業者)のうち,自ら改ざんを行った事業者は,JR東日本,JR貨物,東京地下鉄の3事業者(但し,東京地下鉄の組立作業をしたのはグループ会社のメトロ車両株式会社)であり,それ以外の事業者は,輪軸の組立作業を委託していた京王重機整備(26事業者),総合車両製作所(27事業者)による改ざんでした。

よもや各社が連絡をとりあって,他もやっているから自分のところでもやろうと考えたとは思われませんので,複数の事業者が他社の動向とは関係なしに同時に同様の不正をしていたことになります。これは,ちょうど我が国の自動車メーカーがこぞって自動車の型式認証の不正をしていたことを想起させるものといえます。
JR貨物の内部調査の結果,作業員から「作業に失敗するとコストが増える。部品が廃棄になってしまうのが気になる」との声が聞かれた(日経新聞9月13日)とのことですが,そのような動機とともに,納期を守るため,再作業等の手間を省きたかったという事情もあったのではないでしょうか。
また,広島電鉄のリリースには,「2018年以前に圧入した輪軸について,規定値超過の場合は,車軸の超音波探傷試験結果で問題なければ”良”と判断し,規定値未満の場合は,圧入状態に異常がなければ”良”と判断していたと考えられます。」(9月24日リリース)とされていることから,圧入力値が基準を超えていたとしても,超音波検査の結果で安全性が確保されており問題ないと勝手に判断していたとも考えられます。
しかし,日本産業規格(JIS規格)は,高度の品質を担保するものであり,規格の定める基準に適合しないこと自体正当化することはできませんし,ましてや検査結果データを基準値内のデータに差し替えるなどあってはならないことです。 我が国のメーカーで相次いでいる不正の数々は,物作りに対する誠実さが失われてしまったことを示すものと思います。
そうなると日本が再び物作りで世界の信頼を得るとともに競争力を高めるためには,現場が不正に手を染めることなく,「正しい」品質の製品を作り出せる体制を整えるべき必要があると思われます。

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