フジテレビ その2
2025年2月10日
株式会社フジテレビジョン(以下,「フジテレビ」)とその持株会社である株式会社フジ・メディア・ホールディングス(以下,「ホールディングス」)は,2025年1月27日,タレントのN氏と女性との間で生じた事案に関する共同記者会見を開きましたが,事態の収束にはほど遠い状態であり,フジテレビの収益が急速に悪化しているとのことです。
現在,事実関係及びフジテレビの事後対応やグループガバナンスの有効性についての調査,検証が第三者委員会により行われていますが,内外からフジテレビ及びホールディングス(以下,「フジテレビ等」)のガバナンスの不全を招いた責任が,フジテレビ等で40年以上にわたり取締役の地位にいるH氏にあるとして,その辞任を要求する声も聞かれます。
ただ,H氏は,ホールディングスの取締役であり,H氏が自発的に辞任しない場合は,株主総会において,解任決議(会社法339条,341条)か選任の議案の否決がない限り取締役をやめさせることはできません(ホールディングスは監査等委員会設置会社であり,取締役(監査等委員である取締役を除く。)の任期は1年ですので(会社法332条3項),2025年6月の定時株主総会においても,取締役の選任がされることになります。)。
このように取締役の地位は,株主総会における株主の決議によって決まりますが,逆にいえば,ホールディングスの株主でない外部の第三者がどのように声高に辞任を要求してもあまりH氏の地位に影響しないと考えられます。
それでは,現在の株主の構成で,H氏の取締役解任の決議あるいは選任議案の否決が可能でしょうか(以下,ホールディングスに関するデータは,同社の第83期有価証券報告書によります。)。
ホールディングスの「大株主」は,日本マスタートラスト信託銀行株式会社(自己株式を除いた発行済み株式総数に対する割合11.26%)などの信託銀行等(同合計約22%)のほか,
東宝株式会社(同8.48%)
株式会社文化放送(同3.56%)
株式会社NTTドコモ(同3.52%)
関西テレビ放送株式会社(同2.81%)
株式会社ヤクルト本社(同1.81%)
であり,大株主が保有する株式の割合は合計で約42%となります。
信託銀行等がどのように議決権を行使するかは実質株主の判断になりますが,その一定数は解任決議に反対し,あるいは会社提案の議案に賛成することが予想されます。
また,ホールディングスは,特定投資株式等(いわゆる政策保有株式です。)を保有しており、その一部は持合であり,その持合の相手方がどれくらいホールディングスの株式を保有しているかについて,各社の有価証券報告書を確認したところ,
東映アニメーション 約79万株(同0.36%)
ヤクルト本社 約397万株(同1.81%)
東宝 約1857万株(同8.48%)
鹿島建設 約254万株(同1.16%)
キッコーマン 約13万株(同0.06%)
大日本印刷 約13万株(同0.13%)
ANAホールディングス 約16万株(同0.20%)
大和証券グループ本社 約10万株(同1.27%)
等となっています。
持合をしている会社が保有するホールディングスの株式の合計は約3488万株であり,その発行済み株式数に対する割合(自己株式を除く)は約15.9%になります(なお,ホールディングスの有価証券報告書には持合の記載があるのに対し,他方の会社の有価証券報告書にはホールディングスの株式の保有状況の記載がされていないものもありますので,実際には上記の数字より若干増加すると考えられます。)。
持合株を保有している会社は,一般的に,会社提案の議案に賛成し,株主提案の議案には反対する可能性が高いといえるのではないでしょうか。大株主である信託銀行等の議決権行使の方法にもよりますが,大株主の多数が与党株主であるとすれば,持合株の株主と合わせて50%を超えると考えられます。そうすると,株主総会において,H氏のホールディングスの取締役の地位が剥奪される可能性はそれほど高くないと考えられます。
このような株主構成を前提にしていると思われますが,ホールディングスの株式を保有していると主張するアメリカの投資ファンドのダルトン・インベストメンツ・インク(以下,「ダルトン」)が,ホールディングスに対し,同社の社外取締役がH氏に対し辞任を要求するよう求める書簡を送付しました(但し,書簡を送付したのは,直接にはダルトンの関連会社のライジング・サン・マネジメントです。)
それでは,ホールディングスの取締役会の構成はどのようになっているのでしょうか。
ホールディングスの取締役会は,社内取締役10名,社外取締役7名で構成されていますが,社外取締役の出身母体はそれぞれ
東宝
文化放送
産業経済新聞
総務省
キッコーマン
大和証券
ANAホールディングス
とのことです。
ですので,総務省と産経新聞の方を除けば,出身母体の会社がホールディングスの株主であり,文化放送以外は全て持合株を保有しています。また,産経新聞は,フジサンケイグループを構成するグループ企業ですが,フジサンケイグループの代表はH氏です。
現在,社外取締役7名で構成される経営刷新小委員会が設置され,フジテレビ等のガバナンスの立て直し及び信頼回復に向けた方策の検討等が議論されているとのことですが,社外取締役の方々の出身母体をみると,フジテレビ等、特にH氏に対して厳しい意見を示すのはなかなか大変ではないかと想像されます。
もちろん,社外取締役の方は善管注意義務(会社法330条,民法644条),忠実義務(会社法355条)を負っており,出身母体とフジテレビ等との利害関係を抜きにして,フジテレビ等のステークホルダー全体の利益を考慮した判断をする必要があります。
経営刷新のために具体的にどのような方針を示すのか,また,示した方針を実行に移すことができるのか,社外取締役の方々の胆力が試されることになります。
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