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地面師たち

2025年10月30日

今月25日に「未解決事件 File.03 『地面師詐欺事件』」(NHK総合)という番組が放送されました。
これは,積水ハウス株式会社が約55億円をだまし取られた詐欺事件のドキュメンタリーです。
番組冒頭で,「主犯格とされた男から届いた手紙に書かれた『黒幕は別にいる』との言葉」から取材を開始したとされ,地面師詐欺師らを撮影した動画や積水ハウス事件で服役している受刑者の逮捕前のインタビュー映像など生々しい映像のほか,事件で逮捕されながら不起訴になった人物へのインタビュー,積水ハウス関係者に対する突撃取材などが敢行された力作でしたが,結局「黒幕」の有無は分からずじまいでした。

地面師詐欺は,Netflixのドラマ「地面師たち」によっても映像化されており,地面師たちが洗練された隙のない立ち居振る舞いをしているように描かれています。
しかし,実際の地面師詐欺では,地主になりすました人間(なりすまし)のほか,なりすましをスカウトする人間,スカウトに話をつなげる人間,本人確認書類を偽造する人間,だまし取った金員を小分けする人間,これらを指示する人間(指示役)など多数が関与する犯罪であり,グループの全体を網羅的,総括的に把握する人物はいないとされます。
積水ハウス事件も同様だったようです。
このように多数の人間が関与する一方で全体を統括する人間が不在あるいはあいまいであることから,完璧な準備をすることは困難であると考えられ,そのため,犯行の途中で様々なミスを犯すことになります。
積水ハウス事件でも地面師たちは結構ミスを犯したといわれており,例えば,本人確認書類として偽造されたパスポートに不備があったり(法務局は,パスポートが偽造されたものであることを見抜いて登記を拒否しました。),積水ハウス社とは別のターゲットの不動産業者には取引の不審に気付かれて取引を拒否されたり,決済の場でなりすまし役の女が生まれ年の干支を間違ったりなどのミスを重ねていました。
その意味で,実際の犯行はドラマで描かれていたようにはスムーズにいかなかったようです(ドラマはあくまでもドラマ上の演出が多分にされていたといえます。)。
とはいえ,地面師が多数のメンバーで構成され,それぞれが全体の一部のみを担当するという構図には変わりなく,そのため全体像の把握が極めて困難であることは間違いありません。
積水ハウス事件では,警視庁が総力を挙げて捜査に当たり,約150名から事情を聴取し,15名を逮捕し,そのうち10名が公判請求されたとのことです。
積水ハウス社は,この10名に対して10億円の賠償を求める損害賠償請求訴訟を提起して判決を得たものの,実際にどれくらい回収できたかは不明です。

これまでのコラムで何度も指摘しましたが,地面師詐欺で被害を受けないためには,何よりも売主である地主の本人確認が大切になります。
近所の人や地主本人を知っているであろう人に売主である地主の写真を見せて,地主本人であることを確認するのが最も確実です。積水ハウス事件でも,代金をだまし取られた後,本人確認書類とされていたパスポートの写真を示したところ,別人であると言われ,ようやくだまされたことに気がついたということのようです。
また,地面師詐欺では,地面師らは必ずミスを犯すはずですので,小さいかもしれませんがミスを見落とすことなくフラッグを立て,深掘りした調査を行うことが肝要と思われます。
積水ハウス事件のように,目の前においしい物件が示されると,取引を早く成立させるために前のめりになり,ネガティブ情報はあえて無視したり必要な調査をおろそかにしがちですが,その気持ちの隙を地面師詐欺師らは狙っているのです(ドラマもそのようなストーリーであると思います。)。
これもこれまでのコラムで指摘したことですが,本人確認を営業担当や司法書士だけに任せるのではなく,本人確認を確実に実施するための専門部隊を組織し,本人確認のプロに担当させる方法もあり得ると思います。
このような専門部隊が過去の地面師詐欺の事例から偽造を見破るポイントを蓄積しておけば,少々の偽造であれば容易に見破ることができると考えられますし,専門部隊による本人確認であれば,前のめりにならずに冷静な判断も期待できると思います。
また,専門性の高い外部の第三者に確認を依頼することも有効と思われます。

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