ニデック株式会社の会計不正問題
2026年4月15日
ニデック株式会社は,永守重信氏が1973年に創業した株式会社であり(創業時の社名は「日本電産株式会社」),今や我が国を代表するメーカーの一つですが,中国子会社において不適切な会計処理の疑いが生じたため調査をしたところ,それ以外にも不適正な会計処理がされていたことを示す資料等が発見されたとして,2025年9月3日に第三者委員会の設置が決まり,同委員会による調査が行われました。
同委員会は,2026年2月27日に調査報告書をニデック社に提出し,同年3月3日には調査報告書の概要版及び公表版が公表されました。
調査報告書によると,資産性がない原材料等に資産性が認められると偽り棚卸資産の評価損を計上しなかったり,固定資産に関する減損テストに当たり実現確度が低い案件を含める方法で減損を回避するなど,「多岐にわたる拠点で多数の会計不正」が発見されました(調査報告書(公表版)15頁)。
調査報告書提出時点までに発見された不正及び誤謬による2025年度第1四半期末の連結財務諸表における純資産への負の影響額は約1397億円とのことです(16頁)。
永守氏は,2025年12月19日付で代表取締役社長,取締役,グローバルグループ代表(取締役会議長)を辞任して代表権のない名誉会長となり,続いて調査報告書が提出される前日の2026年2月26日付で名誉会長も辞任しました。
調査委員会は,「今般発覚した会計不正について最も責めを負うべきなのは,永守氏であるといわざるを得ない。」と結論づけましたが(222頁),一連の会計不正の原因として,「過度な業績プレッシャー(永守氏の経営理念の破綻)」,「永守氏の絶対性」,「牽制機能の不全」の3点を指摘しています。
「過度な業績プレッシャー(永守氏の経営理念の破綻)」については,
今回発見された会計不正の原因としてまず挙げられるべきなのは、過度な業績プレッシャーの存在である。この業績プレッシャーは,そもそも非現実的な目標設定がなされ,続いてその達成に向けて極めて強いプレッシャーが加えられることにより生まれている。(中略)当委員会が調査の過程で目にしたのは,株価を意識した業績目標がトップダウンで設定され,それが事業本部や国内グループ会社の実力や事業環境と乖離しているにもかかわらず,その達成のために永守氏をはじめとするニデック本社の経営幹部から苛烈ともいえる強いプレッシャーが事業本部や国内グループ会社に対して日々かけられるという実態である。
と指摘しました(224頁)。
また,「永守氏の絶対性」については
ニデックは,「永守氏の会社」であったといってよく,実際に,あらゆる権限が永守氏に集中していた。ニデックグループの経営幹部の人事権や報酬決定権限は,永守氏が掌握しており,その状態は,当委員会が設置される直前の2025年8月まで続いている。(中略)永守氏が持つ権限の中でも,ニデックグループの経営幹部の人事権は,ニデックグループの経営幹部が,業績目標達成のために,時に厳しいプレッシャーを部下にかけ,会計不正を引き起こす原因を作ってきたといえる。
などとし(225頁),「牽制機能の不全」については,ニデック社において牽制機能が期待されていた各部門(経理部門,経営管理監査部,法務コンプライアンス部,監査等委員会(監査役会))において,牽制機能が不全であったとの指摘がされています。
この点,永守氏は,調査委員会のヒアリングの際,
「高い目標を掲げてそれを達成するために必死に取り組んで初めて会社は成長する。たとえ目標を達成できなかったとしても,必死に取り組んだ人間は成長してその後成功する。」などと,敢えて高い目標を掲げてきた
とか
努力した結果として目標を達成できなければ,それは仕方がない。役職員にも『不正をやるくらいなら,未達でも構わない。』と繰りかえし言ってきた。
との趣旨の発言をしたとのことです(102頁)。
確かに,調査報告書を見ると,部下を叱責する際の永守氏の言い方はきついを超えて苛烈というべきものです。
しかし,高い目標を掲げ,目標を実現させるべく部下にプレッシャーをかけることは,程度の差はあると思いますが,経営者であればだれもがすることでしょうし,時には永守氏のように厳しい叱責等をすることもあるのではないでしょうか。
こうした点を見る限り,永守氏の言動が特に他の経営者と著しく異なるとまではいえないように思われます。
この点,調査報告書においても,
当委員会としても,高い目標,時には一見不可能と思われる目標を掲げ,その達成に向けて尽力することが,企業の成長にとって必要であることには同意であり,その意味では,永守氏の経営理念を否定するものではない。
とあります(224頁)。
そうするとニデック社において多数の不正会計事案を惹起させるに至った根本的な原因として考えられるのは,ニデックグループの規模が巨大化していく中で,永守氏が創業当時のように一人で全てを差配することが困難となっていたにもかかわらず,マネジメントの方法をアップデートすることなく,創業時と同様のやり方を続けていたことに帰着するのかもしれません。
調査報告書では
グループが巨大化する中,永守氏が「マイクロマネジメント」で経営するという体制そのものに歪みが生じていた
との指摘がされています(227頁)。
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