東京・銀座の弁護士

弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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時間外労働の上限規制

2019年4月27日

第196回国会でいわゆる働き方改革関連法案が可決成立しました。

この法律には,長時間労働の是正,多様で柔軟な働き方の実現,雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(いわゆる同一労働同一賃金)といった大きな柱があります。

このうちの長時間労働の是正の部分は,平成31年4月1日から施行されています(但し,中小企業に対しては1年間猶予され,令和2年4月1日からとなります。また,同一労働同一賃金の部分も令和2年4月1日から施行されることになります。)。

 

労働時間については,労働基準法により,1日8時間,1週間40時間の労働時間制限が定められていますが(法32条),労使協定により1週間45時間,さらに特別協定によれば労働時間が無制限とすることが可能となります(法36条1項)。

現実問題としては,このような特別条項を締結するかどうかに関わりなく,長時間の残業を強いられ,心身の健康を害し,場合によっては自殺を選択するという悲惨な結果が生じたことがありました。

日本人は概してまじめで自分を犠牲にして尽くすメンタリティがありますが,残業を強いるのはこのような忠誠心の上にあぐらをかき,善意の労働力を搾取しているといって過言ではありません。

そこで,このような問題を抜本的に改めて,包括的な残業規制をしたのが今回の改正です。

 

労働基準法の改正法では,時間外労働の上限を1か月45時間,年間360時間を原則としつつ(法36条4項),時間外労働と休日労働の合計を1か月100時間未満,時間外労働を年間720時間以内としなければならず(法36条5項),さらに,時間外労働と休日労働の合計について,「2か月平均」,「3か月平均」,「4か月平均」,「5か月平均」,「6か月平均」の全てについて1か月当たり80時間以内としなければならないことになりました(法36条6項)。

また,時間外労働が1か月間で45時間を超えることができる月数は最大で6か月とすることも定められました(法36条5項)。

ですので,例えば,2か月連続で85時間の時間外労働や休日労働をさせることも,年間を通して50時間の時間外労働をさせることも許されず,そのようなことをさせた場合,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(法119条)。

そのため,使用者は,労働時間の適正な把握が重要となり,厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年)等を踏まえ,適正に労働時間を管理する必要があります。

 

また,改正法により,全ての企業において,年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む。)に対して,年次有給休暇の日数のうち年5日については,,使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました(法39条7項)。

年次有給休暇は,労働者が請求する時季に与えることが原則ですが,事業の正常な運営を妨げる場合等では,他の時季に変更することができます(法39条5項)。

但し,時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について,就業規則に記載しなければなりません(法89条)。

これに違反すると30万円以下の罰金が科せられることになります(法120条)。

使用者は,労働者毎に年次有給休暇管理簿を作成し,3年間保存しなければなりません(労働基準法施行規則24条の7)。

人ごとに入社日が異なると,基準日が人ごとに異なることから,誰がいつまでに年次有給休暇を5日取得しなければならないのか,細かな管理が必要となります。

そこで,基準日を年始や年度始めに統一するとか,月初などに統一するなどの方法により,確実に年次有給休暇を取得できるようにする工夫が求められます。

ゴーン元会長の再逮捕

2019年4月5日

日産自動車株式会社の元会長だったカルロス・ゴーン被告が,平成31年4月4日,会社法違反(特別背任)の容疑で再逮捕されました。

元会長は,既に会社法違反(特別背任)等により公判請求されています(平成30年12月10日付,平成31年1月11日付)が,平成31年3月5日,保釈が許可され,その翌日,保釈保証金10億円を納付して釈放されましたが,4月4日,再逮捕され,再び身柄を拘束されることになりました。

今回の逮捕は,元会長の指示で,日産の子会社である中東日産から,オマーンの販売代理店(SBA)に3500万ドル(約39億円)が送金され,そのうちの500万ドル(約5億6000万円)がレバノンの会社(GFI)に送金されたのですが,このGFIは実態のないペーパーカンパニーで,ゴーン元会長が実質的に支配する会社とされ,このGFIの資金で個人的な用途に使用したとされることについて,会社法の特別背任罪に該当するというもののようです。

今回の逮捕について,マスコミ各紙は一様に保釈された被告人が再逮捕されたことを「異例」であるとし,各方面から批判がされています。

確かに,いったん保釈された被告人が再逮捕されるということは特捜事件として前例のないことかもしれませんが,そもそも「異例」だったのは,全面否認している被告人が第1回期日前に保釈されたことであると思います。

東京地検特捜部が立件した事件では,公判請求されてもすぐには保釈されない場合が多数と思われ,被告人が否認しているなどの場合には,裁判所が第1回公判前に保釈を認めることはないのではないでしょうか。

特に本件では,元会長が全面否認しているだけでなく,今回のいわゆるオマーンルートでの立件が予定されていたわけです。したがって,検察官は,保釈請求の際,元会長を再逮捕する可能性がある旨を裁判所に伝えていたと思われます。

それにもかかわらず裁判所が保釈を許可したのは,弁護人が示した数々の条件により,余罪の分も含め,罪証隠滅や逃亡のおそれが相当程度低減されたと考えたからと推察いたします。

ただ,実際には元会長は,ツイッターを使って外部に発信したように,条件に違反するような行動をとっています。

したがって,3月5日の時点で保釈を許可したことの当否を,保釈条件の実効性も含めて慎重に検討する必要があると思います。

 

さらに,今回の再逮捕に関しては,勾留請求が認められれば(なお,東京地裁は,本日,元会長の勾留を認めました。),再び身柄拘束が続くことも批判の対象になっています。

しかし,勾留期間そのものでいえば,フランスの方が長いとのことです(ただし,本件のような経済犯罪では在宅で捜査をするのだそうです。)が,それぞれ形作られた司法制度に対して,軽々に批判することは適当でないと思います。

我が国の場合,原則として,最長20日の間に,場合によっては10年にも及ぶ長期の裁判に耐える証拠を全て収集する使命が検察官に課せられています。そのためもあり,検察官は,公判において被疑者がするであろう弁解を考えながら捜査を進めます。

ですので,検察官は,被疑者からその言い分を聞き,その弁解の当否を見極めます。そのためには,被疑者を取り調べる必要がありますが,在宅の被疑者の場合,「都合が悪い」といえば,取調べができず,その弁解を聴取することもできません。

これでは,いつまでも捜査が完了しないでしょうし,その間に証拠が散逸あるいは隠滅されてしまうことにもなりかねません。

特に,我が国では,欧米では一般的な盗聴やおとり捜査が極めて制限されていますし,司法取引も最近ようやく始まったところです。

このような日本独自の制約のある中で,検察官がその職責を全うする上で,被疑者の身柄を一定期間拘束することはやむを得ないところです。

 

それにしても,元会長は,検察庁に押送される際,日産の車両に乗せられていましたが,その車中では,どのようなことをお考えだったのでしょうか。

新たな外国人材の受入れ制度

2019年3月4日

先の国会で,出入国管理及び難民認定法が改正され,新たな外国人材受け入れのための在留資格である特定技能の在留資格が創設され,今年の4月1日から登録の受け付けが開始されることになっています。

 

今回新たに創設された在留資格である「特定技能」は,「特定技能1号」で在留する外国人(1号特定技能外国人)と「特定技能2号」で在留する外国人(2号特定技能外国人)に分けられます。

1号特定技能外国人とは,

 人材を確保することが困難な状況にある特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人

とまとめることができ,その要件として,

① 在留期間を1年間とし,6か月又は4か月ごとに更新できることとし,通算で上限を5年とする。

② 技能水準,日本語能力水準は試験により確認する。

③ 家族の帯同は基本的に認められない。

④ 受け入れ機関又は登録支援機関による支援を得られるようにする。

となります。

他方,2号特定技能外国人は,

 特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人

とまとめることができますが,この2号特定技能外国人については,政府の基本方針で「分野別運用方針に記載する無効5年間の受け入れ見込み数については,大きな経済情勢の変化が生じない限り,『特定技能1号』の在留資格をもって在留する外国人受け入れの上限として運用する。」とされていますので,少なくとも今後5年間は受け入れはないようです。

したがって,これから受け入れが始まるのは1号特定技能外国人ということになります。

なお,上記の特定産業分野は,

 ①介護,②ビルクリーニング,③素形材産業,④産業機械製造業,⑤電気・電子情報関連産業,⑥建設,⑦造船・船舶工業,⑧自動車整備,⑨航空,⑩宿泊,⑪農業,⑫漁業,⑬飲食料品製造業,⑭外食業

の14分野に限定されます。

特定技能の在留資格で入国,在留を希望する外国人は,日本語能力試験,技能水準判定試験を受験し,それに合格する必要があります。

ただし,既に「技能実習2号」の資格を有する外国人は,日本語試験,技能試験は免除されます。

 

次に受入機関についてですが,受入機関が外国人を受け入れるための基準として,

① 報酬が日本人と同等以上と定めるなど,外国人と結ぶ雇用契約(特定技能雇用契約)が適切であること

② 5年以内に出入国及び難民認定法違反や労働法令違反がないなど,受入機関自体が適切であること

③ 外国人が理解できる言語で支援できるなど,外国人を支援する体制があること

④ 生活オリエンテーション等を含む外国人を支援する計画(一号特定技能外国人支援計画)が適切であること

などとされています。

さらに,受入機関の義務として

① 報酬を適切に支払うなど外国人と結んだ雇用契約を確実に履行する義務

② 外国人の支援を適切に実施する義務

③ 出入国在留管理庁への各種届出をする義務(19条の18)

が定められており,これに違反すると,新たに外国人を受け入れることができなくなるほか,出入国在留管理庁から指導,改善命令等を受けることがあります(法19条の21)。

また,1号特定外国人を援助するための計画(1号特定技能外国人支援計画)に基づく支援の全部の実施を行う機関として「登録支援機関」が設けられます。

 

このように,新たに特定技能という在留資格が認められましたが,受入機関は,適切な特定技能雇用契約を結ぶとともに,適切な1号特定技能外国人支援計画を策定する必要があります(支援計画の策定は,登録支援機関も全部の実施を委託することも可能です。)ので,これに違反する一定の制裁を受けることになります。

とはいえ,初めての制度ですので,「適切」とはどのような内容なのか手探りの状態にあるといえますので,出入国在留管理庁等の関係機関と連絡を取り合いながら,慎重に対応するしかないというのが実態であると思います。

労働力確保は喫緊の課題となっていますが,受入機関として受け入れる体制を整備するとともに,遵守するべき義務を守ることが大前提となります。

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