神戸製鋼所の外部調査委員会
2017年12月23日
株式会社神戸製鋼所は,製品の検査データを偽装していたことで,現在,外部調査委員会による調査が行われています。この調査の過程で,現役のアルミ・銅事業部門を担当する執行役員の中に,問題発覚前から検査データ偽装等の不適切行為の一部を認識していたことがわかりました。
神鋼社の検査データ偽装は,相当長期間行われていたわけで,工場の責任あるお立場にあった方が取締役や執行役員として経営陣に加わっているであろうこと,したがって,現に不適切行為が行われていることを認識していながら,これを黙認していたと評価されるであろうことは予想できました。
もちろん,神鋼社の執行役員は,業務を執行する取締役を補佐するという役割であり,指名委員会等設置会社において選任される執行役(会社法402条1項,2項)ではありませんし,会社法429条の「役員等」には含まれません。しかし,執行役員は,上記のとおり業務を執行する取締役を補佐するわけであり,取締役と同様,企業価値の向上を目指し,適法かつ適切な経営をする責務を負うわけです。したがって,不適切行為が行われていることを知りながら,それを黙認することは執行役として許されず,ガバナンス上の問題があったといわざるを得ません。
外部調査委員会の委員長は,東京地検の刑事部長等を経て福岡高検検事長をされた方ですし,そのほか,札幌高裁長官,東京地検検事を経験された方で構成されており,その補助者として多数の弁護士が関与しているものと考えられます。このような陣容でヒアリングをすれば,隠し立てはまずできないはずであり,結果として取締役や執行役員の方のお立場にも影響が生じることになるでしょう。しかし,今回の問題は神鋼社の企業風土というべきですので,これを改めるためには身を切ることは覚悟しなければなりません。過去のしがらみをこの際断ち切らない限り,新たな神鋼社としての再出発ができないと思います。
新幹線の台車の亀裂 その2
2017年12月21日
12月13日のコラムに書きましたが,今月11日,東海道山陽新幹線「のぞみ34号」が営業運転中,鋼製の台車に亀裂が入っていることがわかり,名古屋駅で運転を打ち切りました。
ただ,その後の調査で,台車枠にコの字型の大きな亀裂が生じており,亀裂があと3cm伸びれば台車が破断するおそれがあったことがわかりました。写真を見てもぱっくりと割れていますので,相当危険な状態だったことがわかります。ぎりぎりのところで最悪の事態を回避できました。
JR西日本は,亀裂の発生を事前に発見することができなかったのでしょうか。
問題の台車は平成19年製であり,この車両は,本年2月に全般検査(車両の機器及び装置の全般について,取り外し及び解体の上行う検査)と台車(要部)検査(車両の動力発生装置,走行装置,ブレーキ装置,その他の重要な装置の主要部分について,取り外し及び解体の上行う検査)を受け,11月末にも交番検査を受けています(読売新聞 12月20日付)。ですので,少なくとも今年の2月の時点では,本件車両の台車に異常は認められなかったわけで,今回の亀裂は2月以降に発生し,一気に拡大したということでしょう。
「のぞみ34号」の車両の運用がよく分かりませんが,この車両が「のぞみ34号」として博多駅を出発するまでに異臭や異音などの異常が認められなかったのでしょうか。ひょっとしたら,「のぞみ34号」になる前の運用でも異常が発生していたかもしれません。ですので,この車両が,「のぞみ34号」になるまでに異常がなかったどうかの調査結果が気になります。
今回の亀裂発生の原因や経緯は必ずしもはっきりしませんが,車両メーカーとしては,今回の事故を受けて,台車の強度をさらに高めるとして,台車の部品メーカーに対して,仕様の強化を要求するかもしれません。
ご存じのとおり,部品のメーカーは,販売先メーカーから高い仕様の製品を求められ,契約上求められる仕様に達していない製品について,検査データを偽装して販売していました。そうすると,製造メーカーからさらに高い仕様を求められ,営業上の観点から受けてしまうと,またまた検査データの偽装をせざるを得ないとも限りません。もちろん,同じ誤りをするとはすぐには考えにくいところですが,部品メーカー側は,できないものはできないということが重要です。実際には簡単ではないでしょうが,経営陣が営業と製造現場を適切に調整するべきはいうまでもありません。
リニア工事と独占禁止法
2017年12月19日
12月11日のコラムで,リニア新幹線工事を巡る偽計業務妨害について触れました。その中で,発覚の端緒について関心があるとしましたが,「関係者によると,リニア建設工事を巡っては,公取委が今年3月頃,談合に関する情報をつかみ,特捜部に相談していた。だが,特捜部から「証拠が少ない」などと指摘され,強制調査などが見送られた経緯がある」とのことです(読売 12月19日付)。公正取引委員会がネタ元だったようですね。
ところで,東京地検(特捜部)は,18日,公正取引委員会とともにリニア新幹線工事を巡る事前調整の疑いで,鹿島建設株式会社,清水建設株式会社に対する捜索を行いました。
入札談合は「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)に当たり,このような「不当な取引制限」をすることは禁止されています(法3条)。この「不当な取引制限」の禁止は,法文上,発注者が国の機関,地方公共団体であろうと民間企業であろうと関係なく適用されることになります。ただ,これまで,民間企業が発注者である場合に独禁法違反で刑事責任が問われた例はないそうです。
ここで考えなければならないのは,民間企業であるJR東海が発注した工事を巡る入札談合が独禁法違反になるかということです。発注者が国や地方公共団体であれば,工事代金が税金でまかなわれる以上,自由な競争原理の元で定まる適正な価格で工事が行われるべきことに異論はありません。ですから,公共工事の談合は厳しく指弾されるべきです。
しかし,民間企業が発注者である場合は公共工事とは別に考えるべきなのではないでしょうか。つまり,民間企業は,経済的にペイすることを前提に計画を立て,予定価格を定めて入札を行います。ですから,予定価格ぎりぎりで落札されても,計画どおりというだけで特に問題ありませんし,仮に予定価格を大きく下回って落札された場合,発注者の資金繰りに余裕が出るだけでしょう。予定価格ぎりぎりで落札されたために運賃が計画より高くなることは考えにくいところです。仮に運賃が高いのであればリニアを利用しなければいいだけですし,代替手段として東海道新幹線もあるわけです。さらに運賃が高いために利用者が少ないというのであれば,JR東海としては,運賃を下げるなどの対応をとることになるはずです。さらに,落札価格が予定価格より低くなったからといって,その分運賃を当初の計画より低くするということも考えにくいところです。
今回の件については,「不正な入札によって競争がゆがめられ,工事費が高く設定されれば,そのツケは鉄道の利用者が払うことになる。」(日経 12月19日付社説)との論調が目立ちますが,そう単純ではないと思います。
つまり,発注者が民間企業の場合,国等の公的機関が発注者の場合とは前提が大きく異なりますので,本件のような入札談合において可罰的違法性が認められるかについては慎重な吟味が必要です。なお,公正取引委員会事務総局が作成した「入札談合の防止に向けて」と題する冊子(平成29年10月版)をみても,発注機関として「国の機関,地方公共団体,政府出資法人等」とありますが,「民間企業」は明記されていません。
ところで,今回,東京地検が鹿島建設,清水建設に捜索に入った直接のきっかけは,大林組による独禁法の自主申告(法7条の2 10項)だそうです(読売新聞 12月19日付)。大林組を含めゼネコン4社は,いずれも事前調整を否定していたとのことですが,大林組は,公正取引委員会に対し,一転して事前の受注調整をしたことを認め,独禁法のリーニエンシーの適用を求めて一抜けしたわけです。大林組としては,東京地検により偽計業務妨害による捜索を受けたことから,独禁法によるリーニエンシーを受けるかどうか究極の判断を迫られていたと思います。
もちろん,本件が独禁法違反に問われるか否か微妙ではありますが,万が一独禁法違反とされる場合に備えて自主申告したとすれば,大林組の有事対応は興味深いものがあります。
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