ロシアのウクライナ侵略
2022年3月23日
ロシアは,2022年2月24日,ウクライナへの侵略を開始し,現在も無差別の激しい攻撃を続けています。
軍隊は,相手国に圧力をかけて外交を有利に展開するために使うことがありますが,他国を実際に攻撃するのは,圧倒的な軍事力の差がある場合に限定すべきであり(米軍のグレナダ侵攻やパナマ侵攻などがいい例と思います。),そうでない場合は,ベトナム戦争のような泥沼に陥ることが多いのではないでしょうか。今回のウクライナ侵略では,ロシア(というよりプーチン大統領)が「圧倒的な軍事力の差」について判断ミスをしたことは明らかですが,単にウクライナ国民に多大な犠牲を強いているだけでなく,世界の多くの国に影響を及ぼしています。
ビジネスの点では,早々にロシア事業をクローズした企業もありますし,チューリッヒ・インシュアリング・グループは,ロシア軍の戦闘車両等が「Z」の表記をしていることを受けて,ロゴマークの「Z」の使用の見直しを日本法人等に求めたとのことです(読売新聞・3月16日朝刊)。
このように,各国の企業は,事業の継続のためそれぞれ矢継ぎ早な対応をしているところであり,わが国の企業も他人事ではなく自分事として,リスクの有無や程度を精査し,必要な対応を取らなければなりません。
また,日経によると,本年2月から3月にかけてのサイバー攻撃の件数は過去最高になったとのことであり(3月16日朝刊),トヨタ系の部品会社がマルウェア(悪意のあるプログラム)に感染してしまい,そのためトヨタも生産を中止せざるを得なくなりました。当事務所にも,クライアント様のPCがウィルスに感染したことを契機としてなりすましメールが多数送られてきております。これらの事象とウクライナ侵略との関係は必ずしも明らかではありませんが,タイミングからしてロシア側が組織的にサイバー攻撃を仕掛けていると考えれば,説明はつくといえます。
サイバー空間では,既に第三次世界大戦が始まっていると考えた方が適当です。
このサイバー攻撃に対しては,セキュリティソフトを最新のものにすることのほか,とにかく怪しいメールは絶対に開かないことが重要であり,個人任せではなく組織的な対応が必要と思われます。 今は非常時ですので,警戒のレベルを上げなければなりません。
現在,ウクライナとロシアとの間で交渉が行われていますが,一日も早く停戦を実現させ,ロシア軍はウクライナから撤退すべきです。しかし,交渉による和平の実現は必ずしも楽観できません。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」には,日露戦争の開戦前の外交交渉の場面が描かれていますが,当時外務大臣だった小村寿太郎が
「伊藤さんもあまい。ロシアと手をにぎれば小娘が手も足もしばられて手ごめにされるようなものであり,しかも約束の結婚となると蹴倒されてにげられてしまう。」
と言ったとされていますし,
「ロシア国家の本質は,略奪である。」とヨーロッパでいわれていたように,その略奪本能を,武力の弱い日本が,外交のテーブルの上で懇願してかれ自身の自制心によって抑制してもらうというのは,不可能であった。
と,ロシアに対して辛辣な言い方をしています。
さらに,当時のイギリスの外相が,
「忠告しておきますが,ロシア人というのはいつでもその盟約を反故にするという信義上の犯罪の常習者です。伊藤侯に,ロシアの冬の快適さにあまり浸られないほうがよろしいとお伝えください。」
と言ったともあります。
ロシアの本質が当時とあまり変化していないとすれば,交渉によりロシアが改心して軍隊を引き上げると想像することは困難ですし,仮に交渉がまとまったとしても,それを遵守するという保証もありません。
そうすると,わが国としては,ウクライナ侵略が長期化するとの予測の上で,他の民主主義国家と連携しつつ断固たる対応を継続するべきでしょうし,企業もそのことを前提とした対応をとることになります。
接触計測アプリ
2020年5月3日
5月1日の日経新聞に,「接触計測アプリ 今月から活用」との記事が掲載されていました。
記事によると,ブルートゥース(数メートルの近距離を通信する無線規格)を使い,アプリを導入した人同士が1メートルの距離に15分以上いるとスマホに記録が残り,そのような人との接触回数が多い場合はアプリを通じて警告が出るとのことです(どの程度の回数になると警告が出るのかは明確ではありません。)。各端末に残す接触記録は個人が特定できないように匿名化し,この情報を提供された政府は,ビッグデータ解析を行い,接触機会の削減が地域ごとにどの程度進んでいるか確認し,接触が多いと判明した場所は外出や面会の自粛要請を強化するそうです。
将来的には,陽性反応が出た感染者がアプリに感染情報を登録すると,個人情報は伏せたまま個々に至近距離にいた端末に通知が出る仕組みを考えるともありました。
このアプリは,利用目的が明示されるとともに,本人が利用目的に同意することになっています。また,端末に残す情報は匿名化されたいわゆる匿名加工情報になるそうですので,これを第三者に提供するについては特に本人の同意は必要ありません。このように,このアプリは,当然のことながら,個人情報保護法に適合するよう設計されているようです。
韓国では,コロナウィルス感染拡大防止のため,政府が感染者のスマートフォンの位置情報,クレジットカード利用履歴,監視カメラ画像等を収集,統合して感染者の移動経路や感染までの経緯を明らかにして公開しているそうですし,さらに感染者と接触した可能性のある人に連絡し,発熱などの症状の有無を確認しているそうです。
我が国の個人情報保護法では,位置情報,特にGPSによる位置情報は,個人を識別できるものとして個人情報に当たると考えられます。そのため,GPS位置情報を取得するためには,電気通信事業者は予め利用目的を特定し(法15条1項),利用目的を本人に通知しなければなりませんし(法18条1項),通信サービスを提供するために必要な場合に限り個人情報を取得するという建前です。
ですので,GPS位置情報を目的外に利用することや本人の同意なしに第三者に提供することは原則として許されません。
ただ,個人情報保護法第23条は,個人情報取扱事業者があらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供できる場合として,
公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
を掲げています(法23条1項3号)。
そうすると,今回のようなコロナウィルス感染症が全国にまん延している状況では,まさに「公衆衛生の向上」のために「特に必要がある場合」に該当するようにもみえます。
しかし,「本人の同意を得ることが困難」と考えられる場合以外は,本人同意がないまま第三者に提供することは相当困難といえ,そうすると,コロナウィルス感染拡大防止の目的であっても,この条項が現実に適用されることはなさそうです。したがって,我が国では,たとえコロナウィルス感染拡大を防止するという目的であったとしても,韓国で行われているのと同様の方法でGPS位置情報等を第三者に提供することは現実には困難であると考えられます。
コロナ禍と賃料の減免等
2020年4月28日
新型コロナウィルス感染症により,政府が緊急事態宣言を公示してから既に3週間になります。
この間,外出の自粛,特に,三密を避けるとして夜の飲食の自粛が強く求められ,その結果,多くの飲食店が営業休止となりました。事務所に近い銀座でも大部分の飲食店が営業を休止しており,通りを歩く人はほとんどいません。リーマンショックや東日本大震災の時でもこれほどではありませんでしたので,新型コロナウィルス感染症の破壊力の強烈さが分かります。
このように多くの飲食店が休業を余儀なくされていますが,日々の売上がなくなった飲食店は賃料の支払いに窮することになります。
私も,緊急事態宣言が出る前,飲食店経営者の方から,賃料を保証金から天引きしてもらえるかとのご質問を受けたことがありましたが,「基本的にオーナーは保証金(敷金)に手を付けないので,むしろ賃料の減額を求める方が現実的ではないでしょうか。」とお答えしました。
このように,テナントからの賃料の減免や支払猶予等の要請があったとき,オーナーとしてどのような対応が必要でしょうか。
賃貸借契約はいうまでもなく,賃貸人が賃借人に目的物の使用収益をさせ,賃借人が賃料を支払う契約ですので,賃借人が物件を占有する限り,約定のとおりに賃料を支払ってもらうのが原則です。
しかし,オーナーが賃料の減免等に応じない場合,優良なテナントさんであっても営業を終了して店を明け渡す可能性があります。
テナントさんに退去されると,その瞬間から空き室となり賃料が入らなくなりますし(保証金も一部返還する必要があります。),次のテナントを探す手間,次のテナントの賃料滞納リスク等を考慮すると,むしろ,賃料の減免や支払猶予等に応じてでも現在の優良なテナントとの契約を継続させ,この危機的状況を乗り切る方が得策という考え方があり得ます。
もちろん,金融機関からの借入金等の返済等のため,賃料の減免等に簡単に応じられないというオーナーさんもおられるでしょう。
しかし,賃料の減免等に応じない場合,テナントさんが退去する可能性や賃料の支払がストップしてしまう可能性があり,いずれにせよ賃料収入が途絶えることになります。
そうすると,優良なテナントさんから賃料の減免等の要請があれば,これを前向きに検討するのが得策と思われます。
実際,多数の賃貸物件を保有しておられる日本生命保険は,保有するビルに入居するテナントさんに対し賃料の引き下げに応じる方針だそうですし,大手の不動産会社も同様といわれていますが(日経新聞),優良なテナントさんの引き止め策ともいえます。
また,中には賃料を支払わないテナントさんも出てくると考えられます。
通常であれば,賃借人が賃料を2か月滞納すれば賃貸借契約を解除し,明渡を求めることになりますし,裁判所も,賃料の滞納が2か月になれば解除の効果を認めて明渡しを命じます。
ですので,これ以前に賃料の滞納等のあるテナントさんであれば,この際に退去していただくという選択はあり得ます。
しかし,そうでない優良なテナントさんの場合は,賃料の滞納はコロナウィルスのまん延による自粛要請によるもので,テナントさんの責任とはいえません。
このような事情がありますと,裁判所は,賃料滞納は賃借人の責めに帰すべきものとはいえないとか,信頼関係の破壊があるとまで認められないなどとして,いわば「コロナの抗弁」により解除を認めない可能性もあり得ます。
現在,国は,飲食店等の賃料に関し,テナント,オーナー双方の支援策を検討しています。
テナント側の支援策としては,与党は事業継続を見据えて補助金の支給を検討しているそうですし,野党は賃料の支払を1年程度猶予する案を示しているそうです。
また,オーナー側の支援策としては,テナントの賃料を減免した場合は損金として計上することが可能となっています。
また,固都税の減免措置として,
新型コロナウィルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった場合,中小事業者,中小企業者が所有し,事業のように供する家屋(建物)及び償却資産(設備等)の令和3年度の固定資産税及び都市計画税が,事業にかかる収入の減少幅に応じ,ゼロ又は2分の1となる。
との案が審議されています。
このような支援策を活用しつつ,優良なテナントさんとともに痛みを共有するのが得策であるように思われます。
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