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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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債権法改正(法定利率の変更)

2019年5月8日

本日(令和元年5月8日)の官報に,「民法第404条第3項に規定する期及び同条第5項の規定による基準割合の告示に関する省令」が掲載されています。

この省令は,法定利率に関する,改正民法の第404条3項,5項に定める「法務省令」のことであり,

第1条 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行後最初の期(民法第404条第3項に規定する期をいう。以下同じ。)は,令和2年4月1日から令和5年3月31日までとする。

第2条 民法第404条第5項の規定による基準割合の告示は,各期の初日の1年前までに,官報でする。

と定められています。

 

法定利率に関しては,現行法では,「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,年5分とする。」(404条)と定められており,年5%に固定されています。

しかし,改正民法では,これを大きく変更し,

① 改正民法施行時点での法定利率を3%とする(改正民法404条1項,2項)。

② 法務省令で定めるところにより,3年を一期として,一期ごとに法定利率を一定のルールに基づいて変動させる(同条3項)。

③ 変動の指標となる利率は,法務省令で定めるところにより,各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合とする(同条5項)。

④ 各期における法定利率は,法定利率に変動があった期のうち直近のもの(直近変動期)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1%未満の端数があるときはこれを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し,又は減算した割合とする(同条4項)。

と改められました。

つまり,

ア 現行民法の固定的な法定利息から,3年一期の変動制とする。

イ 変動のルールは,短期貸付けの平均利率(銀行の新規,短期(1年未満)の利率の平均)とし,過去5年間60か月の短期貸付けの平均値とする。

ウ 金利差が1%未満の端数は切り捨てられ,1%単位で変動させる。

ということです。

 

改正民法では,上記の②,③のとおり「法務省令で定めるところにより」とされており,それを具体化する省令が本日公布された法務省令ということになります。

このような省令が公布されますと,改正民法の施行がいよいよ間近に迫っていることを実感させられます。

 

ところで,この省令が公布された官報の号数は,「第2号」です。

官報は,改元があると番号がリセットされる取扱いですので,平成31年4月26日に発行された平成時代最後の官報は「第7497号」が最終号となり,本年5月7日発行の令和時代最初の官報が「第1号」となります(官報は日刊ですが,原則として,行政機関の休日は休刊です。)。

また,法令(憲法改正,詔書,法律,政令,条約,内閣官房令,内閣府令,省令等)は,官報で公布されることになっています。

官報及び法令全書に関する内閣府令では,官報は,憲法改正,詔書,法律,政令,条約,内閣官房令,内閣府令,省令等を掲載するものとする旨定められていますが,法令の公布方法についての定めはありません。

明治憲法下では,法令の公布の方法について,「公式令」により,法令の公布は官報をもってする旨定められていたのですが,この公式令は,日本国憲法施行と同時に廃止され,それ以降,公式令に代わるべき法令公布の方法に関する一般規定は定められていません。

そのため,現状では,法令の公布方法に関する成文の規定はないのです。

ただ,裁判所は,

公式令廃止後の実際の取扱としては,法令の公布は従前通り官報によってなされて来ていることは上述したとおりであり,特に国家がこれに代わる他の適当な方法をもって法令の公布を行うものであることが明らかな場合でない限りは,法令の公布は従前通り,官報をもってせられるものと解するのが相当であって,たとえ事実上法令の内容が一般国民の知りうる状態に置かれえたとしても,いまだ法令の公布があったとすることはできない。

としました(最高裁昭和32年12月28日大法廷判決)。

さらに,裁判所は

当時一般の希望者が右官報を閲覧し又は購入しようとすればそれをなし得た最初の場所は,印刷局官報課又は東京都官報販売所であり,その最初の時点は,右二ヶ所とも同日午前8時30分であったことが明らかである。

 してみれば,以上の事実関係の下においては,本件改正法律は,おそくとも,同日午前8時30分までには,前記大法廷判決(注 最高裁昭和32年12月28日大法廷判決)にいわゆる「一般国民の知り得べき状態に置かれ」たもの,すなわち公布されたものと解すべきである。

としました(最高裁昭和33年10月15日大法廷判決)。

これらの判例法により,法令の公布の方法は官報によってされること,公布の時間は官報発行日の午前8時30分とすることが認められており,これに基づいて法令の公布がされています。

時間外労働の上限規制

2019年4月27日

第196回国会でいわゆる働き方改革関連法案が可決成立しました。

この法律には,長時間労働の是正,多様で柔軟な働き方の実現,雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(いわゆる同一労働同一賃金)といった大きな柱があります。

このうちの長時間労働の是正の部分は,平成31年4月1日から施行されています(但し,中小企業に対しては1年間猶予され,令和2年4月1日からとなります。また,同一労働同一賃金の部分も令和2年4月1日から施行されることになります。)。

 

労働時間については,労働基準法により,1日8時間,1週間40時間の労働時間制限が定められていますが(法32条),労使協定により1週間45時間,さらに特別協定によれば労働時間が無制限とすることが可能となります(法36条1項)。

現実問題としては,このような特別条項を締結するかどうかに関わりなく,長時間の残業を強いられ,心身の健康を害し,場合によっては自殺を選択するという悲惨な結果が生じたことがありました。

日本人は概してまじめで自分を犠牲にして尽くすメンタリティがありますが,残業を強いるのはこのような忠誠心の上にあぐらをかき,善意の労働力を搾取しているといって過言ではありません。

そこで,このような問題を抜本的に改めて,包括的な残業規制をしたのが今回の改正です。

 

労働基準法の改正法では,時間外労働の上限を1か月45時間,年間360時間を原則としつつ(法36条4項),時間外労働と休日労働の合計を1か月100時間未満,時間外労働を年間720時間以内としなければならず(法36条5項),さらに,時間外労働と休日労働の合計について,「2か月平均」,「3か月平均」,「4か月平均」,「5か月平均」,「6か月平均」の全てについて1か月当たり80時間以内としなければならないことになりました(法36条6項)。

また,時間外労働が1か月間で45時間を超えることができる月数は最大で6か月とすることも定められました(法36条5項)。

ですので,例えば,2か月連続で85時間の時間外労働や休日労働をさせることも,年間を通して50時間の時間外労働をさせることも許されず,そのようなことをさせた場合,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(法119条)。

そのため,使用者は,労働時間の適正な把握が重要となり,厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年)等を踏まえ,適正に労働時間を管理する必要があります。

 

また,改正法により,全ての企業において,年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む。)に対して,年次有給休暇の日数のうち年5日については,,使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました(法39条7項)。

年次有給休暇は,労働者が請求する時季に与えることが原則ですが,事業の正常な運営を妨げる場合等では,他の時季に変更することができます(法39条5項)。

但し,時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について,就業規則に記載しなければなりません(法89条)。

これに違反すると30万円以下の罰金が科せられることになります(法120条)。

使用者は,労働者毎に年次有給休暇管理簿を作成し,3年間保存しなければなりません(労働基準法施行規則24条の7)。

人ごとに入社日が異なると,基準日が人ごとに異なることから,誰がいつまでに年次有給休暇を5日取得しなければならないのか,細かな管理が必要となります。

そこで,基準日を年始や年度始めに統一するとか,月初などに統一するなどの方法により,確実に年次有給休暇を取得できるようにする工夫が求められます。

ゴーン元会長の再逮捕

2019年4月5日

日産自動車株式会社の元会長だったカルロス・ゴーン被告が,平成31年4月4日,会社法違反(特別背任)の容疑で再逮捕されました。

元会長は,既に会社法違反(特別背任)等により公判請求されています(平成30年12月10日付,平成31年1月11日付)が,平成31年3月5日,保釈が許可され,その翌日,保釈保証金10億円を納付して釈放されましたが,4月4日,再逮捕され,再び身柄を拘束されることになりました。

今回の逮捕は,元会長の指示で,日産の子会社である中東日産から,オマーンの販売代理店(SBA)に3500万ドル(約39億円)が送金され,そのうちの500万ドル(約5億6000万円)がレバノンの会社(GFI)に送金されたのですが,このGFIは実態のないペーパーカンパニーで,ゴーン元会長が実質的に支配する会社とされ,このGFIの資金で個人的な用途に使用したとされることについて,会社法の特別背任罪に該当するというもののようです。

今回の逮捕について,マスコミ各紙は一様に保釈された被告人が再逮捕されたことを「異例」であるとし,各方面から批判がされています。

確かに,いったん保釈された被告人が再逮捕されるということは特捜事件として前例のないことかもしれませんが,そもそも「異例」だったのは,全面否認している被告人が第1回期日前に保釈されたことであると思います。

東京地検特捜部が立件した事件では,公判請求されてもすぐには保釈されない場合が多数と思われ,被告人が否認しているなどの場合には,裁判所が第1回公判前に保釈を認めることはないのではないでしょうか。

特に本件では,元会長が全面否認しているだけでなく,今回のいわゆるオマーンルートでの立件が予定されていたわけです。したがって,検察官は,保釈請求の際,元会長を再逮捕する可能性がある旨を裁判所に伝えていたと思われます。

それにもかかわらず裁判所が保釈を許可したのは,弁護人が示した数々の条件により,余罪の分も含め,罪証隠滅や逃亡のおそれが相当程度低減されたと考えたからと推察いたします。

ただ,実際には元会長は,ツイッターを使って外部に発信したように,条件に違反するような行動をとっています。

したがって,3月5日の時点で保釈を許可したことの当否を,保釈条件の実効性も含めて慎重に検討する必要があると思います。

 

さらに,今回の再逮捕に関しては,勾留請求が認められれば(なお,東京地裁は,本日,元会長の勾留を認めました。),再び身柄拘束が続くことも批判の対象になっています。

しかし,勾留期間そのものでいえば,フランスの方が長いとのことです(ただし,本件のような経済犯罪では在宅で捜査をするのだそうです。)が,それぞれ形作られた司法制度に対して,軽々に批判することは適当でないと思います。

我が国の場合,原則として,最長20日の間に,場合によっては10年にも及ぶ長期の裁判に耐える証拠を全て収集する使命が検察官に課せられています。そのためもあり,検察官は,公判において被疑者がするであろう弁解を考えながら捜査を進めます。

ですので,検察官は,被疑者からその言い分を聞き,その弁解の当否を見極めます。そのためには,被疑者を取り調べる必要がありますが,在宅の被疑者の場合,「都合が悪い」といえば,取調べができず,その弁解を聴取することもできません。

これでは,いつまでも捜査が完了しないでしょうし,その間に証拠が散逸あるいは隠滅されてしまうことにもなりかねません。

特に,我が国では,欧米では一般的な盗聴やおとり捜査が極めて制限されていますし,司法取引も最近ようやく始まったところです。

このような日本独自の制約のある中で,検察官がその職責を全うする上で,被疑者の身柄を一定期間拘束することはやむを得ないところです。

 

それにしても,元会長は,検察庁に押送される際,日産の車両に乗せられていましたが,その車中では,どのようなことをお考えだったのでしょうか。

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