暴対法施行30年
2022年4月15日
暴対法(正式名称は,「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」です。)は,令和4年(1992年)に施行されましたので,今年でちょうど30年になります。
暴対法は,暴力団の活動を封じ込めることを目的としており,一定の要件を満たした暴力団を「指定暴力団」とし,暴力団が資金源(しのぎ)としていた,みかじめ料を要求する行為や不当な方法で債権を取り立てる行為など合計27の行為を網羅的に禁止しました。
暴対法は,その後の改正で,指定暴力団等の対立抗争が生じた場合等に「特定抗争指定暴力団」等に指定することや(法15条の2),指定暴力団員等が暴力的要求行為を繰り返すような場合に「特定危険指定暴力団」と指定すること(法30条の8)など,取り締まりの手段が強化されています。また,指定暴力団員が金員を得るため他人の生命,身体,財産を侵害した場合(威力利用資金獲得行為),その指定暴力団の代表者等は特段の事情がない限り賠償責任を負うとされ(法31条の2),実際に,振り込め詐欺の被害者が指定暴力団の代表者等を訴えて賠償金を得た事案も出ております。
暴力団取締りのための法令としては,暴対法とは別に各都道府県において暴力団排除条例が制定されています。
このいわゆる暴排条例は,各都道府県の条例ごとに内容が異なる点はありますが,概ね,事業者に対し,暴力団等に対する利益の供与をしてはならない旨の定めがされており,これに反すると公安委員会の勧告を受け,さらに公表されると定められていますし,福岡県の暴排条例では,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられるとしています。
暴排条例のため,暴力団員は,預貯金の口座を開設することも、アパートを借りることもできず,資金の獲得も困難になり,困窮化しているといわれています。
犯罪白書によりますと,平成16年には総数8万7000人だった暴力団構成員(構成員と準構成員の合計)が,令和3年には約2万6000人と3分の1にまで減少したとされておりますが,これは,暴対法や暴排条例の効果が出ているといえます。 ただ,実際には,偽装離脱,偽装破門などでマフィア化しているともいわれていますので,統計上の数字を鵜呑みにすることはできないかもしれません。
また,取り締まりの強化とともに,これまで暴力団の世界では御法度だった窃盗,強盗,詐欺の事案が増加しており,いわゆる振り込め詐欺にも暴力団員が関与していますし,偽造されたクレジットカードを利用した14億円の窃盗事件にも暴力団員が関与していました。こうしてみると暴力団を根絶することはなかなか難しいといえますが,しかし,法治国家において,アウトローである彼らと共生することは不可能です。したがって,暴力団や半グレ等の反社会的勢力に対する取り締まりはこれからも重要な課題といえます。
このような状況の下で,暴力団員と交際したり,利益を供与したりすると,密接交際者と認定され,名称が公表されたり,銀行取引の停止等の事実上の制裁が加えられることになり,事業活動が事実上不可能となります。「密接交際者」は,例えば,
① 相手方が暴力団員とわかっていながら,その主催するゴルフコンペに参加している場合
② 相手方が暴力団員であることをわかっていながら,頻繁に飲食をともにしている場合
③ 誕生会,結婚式,還暦祝いなどの名目で多数の暴力団員が集まる行事に出席している場合
④ 暴力団員が主催する賭博等に参加している場合
などとされます(警視庁HP)。
また,積極的に利益供与をするつもりはなくても,暴力団等の反社会的勢力を相手方とする契約を結んでしまったことにより,反社会的勢力に協力したとの指摘を受けるおそれもあります
そのようなことにならないために,契約書に反社会的勢力排除条項を定めることはもとより,契約時の本人確認等を徹底したりする必要があります。後から気づいたのでは遅いのです。
ロシアのウクライナ侵略
2022年3月23日
ロシアは,2022年2月24日,ウクライナへの侵略を開始し,現在も無差別の激しい攻撃を続けています。
軍隊は,相手国に圧力をかけて外交を有利に展開するために使うことがありますが,他国を実際に攻撃するのは,圧倒的な軍事力の差がある場合に限定すべきであり(米軍のグレナダ侵攻やパナマ侵攻などがいい例と思います。),そうでない場合は,ベトナム戦争のような泥沼に陥ることが多いのではないでしょうか。今回のウクライナ侵略では,ロシア(というよりプーチン大統領)が「圧倒的な軍事力の差」について判断ミスをしたことは明らかですが,単にウクライナ国民に多大な犠牲を強いているだけでなく,世界の多くの国に影響を及ぼしています。
ビジネスの点では,早々にロシア事業をクローズした企業もありますし,チューリッヒ・インシュアリング・グループは,ロシア軍の戦闘車両等が「Z」の表記をしていることを受けて,ロゴマークの「Z」の使用の見直しを日本法人等に求めたとのことです(読売新聞・3月16日朝刊)。
このように,各国の企業は,事業の継続のためそれぞれ矢継ぎ早な対応をしているところであり,わが国の企業も他人事ではなく自分事として,リスクの有無や程度を精査し,必要な対応を取らなければなりません。
また,日経によると,本年2月から3月にかけてのサイバー攻撃の件数は過去最高になったとのことであり(3月16日朝刊),トヨタ系の部品会社がマルウェア(悪意のあるプログラム)に感染してしまい,そのためトヨタも生産を中止せざるを得なくなりました。当事務所にも,クライアント様のPCがウィルスに感染したことを契機としてなりすましメールが多数送られてきております。これらの事象とウクライナ侵略との関係は必ずしも明らかではありませんが,タイミングからしてロシア側が組織的にサイバー攻撃を仕掛けていると考えれば,説明はつくといえます。
サイバー空間では,既に第三次世界大戦が始まっていると考えた方が適当です。
このサイバー攻撃に対しては,セキュリティソフトを最新のものにすることのほか,とにかく怪しいメールは絶対に開かないことが重要であり,個人任せではなく組織的な対応が必要と思われます。 今は非常時ですので,警戒のレベルを上げなければなりません。
現在,ウクライナとロシアとの間で交渉が行われていますが,一日も早く停戦を実現させ,ロシア軍はウクライナから撤退すべきです。しかし,交渉による和平の実現は必ずしも楽観できません。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」には,日露戦争の開戦前の外交交渉の場面が描かれていますが,当時外務大臣だった小村寿太郎が
「伊藤さんもあまい。ロシアと手をにぎれば小娘が手も足もしばられて手ごめにされるようなものであり,しかも約束の結婚となると蹴倒されてにげられてしまう。」
と言ったとされていますし,
「ロシア国家の本質は,略奪である。」とヨーロッパでいわれていたように,その略奪本能を,武力の弱い日本が,外交のテーブルの上で懇願してかれ自身の自制心によって抑制してもらうというのは,不可能であった。
と,ロシアに対して辛辣な言い方をしています。
さらに,当時のイギリスの外相が,
「忠告しておきますが,ロシア人というのはいつでもその盟約を反故にするという信義上の犯罪の常習者です。伊藤侯に,ロシアの冬の快適さにあまり浸られないほうがよろしいとお伝えください。」
と言ったともあります。
ロシアの本質が当時とあまり変化していないとすれば,交渉によりロシアが改心して軍隊を引き上げると想像することは困難ですし,仮に交渉がまとまったとしても,それを遵守するという保証もありません。
そうすると,わが国としては,ウクライナ侵略が長期化するとの予測の上で,他の民主主義国家と連携しつつ断固たる対応を継続するべきでしょうし,企業もそのことを前提とした対応をとることになります。
接触計測アプリ
2020年5月3日
5月1日の日経新聞に,「接触計測アプリ 今月から活用」との記事が掲載されていました。
記事によると,ブルートゥース(数メートルの近距離を通信する無線規格)を使い,アプリを導入した人同士が1メートルの距離に15分以上いるとスマホに記録が残り,そのような人との接触回数が多い場合はアプリを通じて警告が出るとのことです(どの程度の回数になると警告が出るのかは明確ではありません。)。各端末に残す接触記録は個人が特定できないように匿名化し,この情報を提供された政府は,ビッグデータ解析を行い,接触機会の削減が地域ごとにどの程度進んでいるか確認し,接触が多いと判明した場所は外出や面会の自粛要請を強化するそうです。
将来的には,陽性反応が出た感染者がアプリに感染情報を登録すると,個人情報は伏せたまま個々に至近距離にいた端末に通知が出る仕組みを考えるともありました。
このアプリは,利用目的が明示されるとともに,本人が利用目的に同意することになっています。また,端末に残す情報は匿名化されたいわゆる匿名加工情報になるそうですので,これを第三者に提供するについては特に本人の同意は必要ありません。このように,このアプリは,当然のことながら,個人情報保護法に適合するよう設計されているようです。
韓国では,コロナウィルス感染拡大防止のため,政府が感染者のスマートフォンの位置情報,クレジットカード利用履歴,監視カメラ画像等を収集,統合して感染者の移動経路や感染までの経緯を明らかにして公開しているそうですし,さらに感染者と接触した可能性のある人に連絡し,発熱などの症状の有無を確認しているそうです。
我が国の個人情報保護法では,位置情報,特にGPSによる位置情報は,個人を識別できるものとして個人情報に当たると考えられます。そのため,GPS位置情報を取得するためには,電気通信事業者は予め利用目的を特定し(法15条1項),利用目的を本人に通知しなければなりませんし(法18条1項),通信サービスを提供するために必要な場合に限り個人情報を取得するという建前です。
ですので,GPS位置情報を目的外に利用することや本人の同意なしに第三者に提供することは原則として許されません。
ただ,個人情報保護法第23条は,個人情報取扱事業者があらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供できる場合として,
公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
を掲げています(法23条1項3号)。
そうすると,今回のようなコロナウィルス感染症が全国にまん延している状況では,まさに「公衆衛生の向上」のために「特に必要がある場合」に該当するようにもみえます。
しかし,「本人の同意を得ることが困難」と考えられる場合以外は,本人同意がないまま第三者に提供することは相当困難といえ,そうすると,コロナウィルス感染拡大防止の目的であっても,この条項が現実に適用されることはなさそうです。したがって,我が国では,たとえコロナウィルス感染拡大を防止するという目的であったとしても,韓国で行われているのと同様の方法でGPS位置情報等を第三者に提供することは現実には困難であると考えられます。
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