芸人さんと反社会的勢力
2019年7月20日
吉本興業等に所属していた芸人さんが,事務所を通さずに「反社会的勢力」(振り込め詐欺グループ)が関与するパーティーに出演したり,暴力団関係者が同席していたパーティーに参加していたことが発覚した問題で,芸人さんが事務所から厳重注意や無期限謹慎処分を受けていましたが,事務所が芸人さんとの契約を解消する事態にまで発展しております。
ここでいう「反社会的勢力」とは,「暴力団,暴力団関係企業,総会屋若しくはこれらに準ずる者またはその構成員」であり,具体的には,
(1) 暴力団
(2) 暴力団関係企業
(3) 総会屋等
(4) これらに準ずる者
① 暴力団準構成員
② 会社ゴロ
③ 社会運動等標ぼうゴロ
④ 特殊知能暴力集団等
⑤ その他(密接交際者等)
となります。
また,近時,「準暴力団」も反社会的勢力に付け加えられました。
振り込め詐欺グループは,上記の「特殊知能暴力集団」((4)④)に該当することになります。
全ての都道府県で制定されている暴力団排除条例では,反社会的勢力の活動を助長する活動をした場合,当局から,指導,勧告,公表の処分がされる可能性があります。企業や個人が反社会的勢力と関係があると公表された場合,銀行取引が停止されたり,建設業であれば許可が取り消されるなどしますし,何より社会的評価が大きく毀損されますので,社会的,経済的活動にとって致命傷となってしまいます。ですので,暴排条例が全都道府県で制定され,反社会的勢力排除の機運が高まっている現状では,反社会的勢力との関係遮断は極めて重要であり,関係遮断を実効化するため,予め契約書に自分が暴力団等の反社会的勢力ではない旨を表明すること,その表明に違反したことが判明した場合,無催告に契約を解除できることなどを定めた反社条項を盛り込むことが一般的になっています。
ところで,今回の振り込め詐欺グループのパーティーに等参加した芸人さんですが,相手が反社会的勢力あるいはその関係者であることを知った上で出演したかどうかが問題になると思います。
この点,同じ吉本興業に所属していた大物芸人さんは,人気絶頂だった平成23年,暴力団関係者との交際を理由に,一発で引退に追い込まれ,現在も表舞台に立つことが許されていません。彼の場合,報道によれば,有力な暴力団の幹部と昵懇で,いわゆるケツ持ちであることを公言していたといわれています。かつて,芸能界と暴力団は強い結びつきがあったと言われていますが,今はそれが許される時代ではないのです。彼は,引退会見の際,「この程度で引退せざるを得ない」と悔しさをにじませていましたが,反社会的勢力との交際は,「この程度」といって済まされるものではないのです。
これに対し,今回の芸人さんは,参加したパーティーに反社会的勢力が関係していたとは知らなかったと言っているそうですが,相手方が反社会的勢力かどうかを確認するための一番手っ取り早い方法は,インターネット上の情報です。警察は,暴力団関係者を摘発した場合,その氏名,年齢,住所をマスコミに情報提供することになっていますので,マスコミ報道を通じてネットに情報が載る可能性はあります。しかし,ネット情報で反社会的勢力であることを確認できることは,実際はそれほど多くはないと思います。
銀行,保険,宅建業者等であれば,各業界で独自のデータベースが構築されていますので,それに照会することもできますし,最終的には,警察に対し,一定の要件の下で反社チェックを依頼することも可能です。
そうはいっても,反社チェックが簡単ではなく,また確実でないことも事実です。
そこで大事になるのは,反社チェックで引っかからずに契約等をしたものの,後から反社会的勢力であることが判明した場合,速やかに契約を解除し,関係を遮断できるようにしておくことです。そのため契約書に反社条項を盛り込んでおくことが重要であり,そうしておけば,契約後に反社会的勢力であることが分かったとしても,当該条項を使って契約を解除することができますし,解除すべきといえます。ですので,契約後に反社会的勢力であることが分かった場合は,可及的かつ速やかに関係を遮断すべきであり,もし不安であれば,遠慮なく警察や弁護士に相談すべきです。このような対応をせず,ずるずると関係を継続してしまうと,反社会的勢力と関係を有する企業,業者とのレッテルが貼られてしまい,企業存続に致命的な悪影響を生じさせます。
今回の芸人さんの場合,パーティーの主催者が反社会的勢力だったことや,参加者に暴力団関係者がいたことまでは本当に知らなかったのだろうと想像します。その点で気の毒なところはありますが,事務所を通さず闇営業で出演したことがこのような事態を招いたといえ,その点では脇が甘いと指摘されるのはむしろ当然と思います。
人気商売の芸人さんですから,お声がかかれば喜んで出演してしまうのでしょうが,芸人さんといえども,いったん立ち止まって大丈夫かどうか確認する慎重さが必要となります。
債権法改正(法定利率の変更)
2019年5月8日
本日(令和元年5月8日)の官報に,「民法第404条第3項に規定する期及び同条第5項の規定による基準割合の告示に関する省令」が掲載されています。
この省令は,法定利率に関する,改正民法の第404条3項,5項に定める「法務省令」のことであり,
第1条 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行後最初の期(民法第404条第3項に規定する期をいう。以下同じ。)は,令和2年4月1日から令和5年3月31日までとする。
第2条 民法第404条第5項の規定による基準割合の告示は,各期の初日の1年前までに,官報でする。
と定められています。
法定利率に関しては,現行法では,「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,年5分とする。」(404条)と定められており,年5%に固定されています。
しかし,改正民法では,これを大きく変更し,
① 改正民法施行時点での法定利率を3%とする(改正民法404条1項,2項)。
② 法務省令で定めるところにより,3年を一期として,一期ごとに法定利率を一定のルールに基づいて変動させる(同条3項)。
③ 変動の指標となる利率は,法務省令で定めるところにより,各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合とする(同条5項)。
④ 各期における法定利率は,法定利率に変動があった期のうち直近のもの(直近変動期)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1%未満の端数があるときはこれを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し,又は減算した割合とする(同条4項)。
と改められました。
つまり,
ア 現行民法の固定的な法定利息から,3年一期の変動制とする。
イ 変動のルールは,短期貸付けの平均利率(銀行の新規,短期(1年未満)の利率の平均)とし,過去5年間60か月の短期貸付けの平均値とする。
ウ 金利差が1%未満の端数は切り捨てられ,1%単位で変動させる。
ということです。
改正民法では,上記の②,③のとおり「法務省令で定めるところにより」とされており,それを具体化する省令が本日公布された法務省令ということになります。
このような省令が公布されますと,改正民法の施行がいよいよ間近に迫っていることを実感させられます。
ところで,この省令が公布された官報の号数は,「第2号」です。
官報は,改元があると番号がリセットされる取扱いですので,平成31年4月26日に発行された平成時代最後の官報は「第7497号」が最終号となり,本年5月7日発行の令和時代最初の官報が「第1号」となります(官報は日刊ですが,原則として,行政機関の休日は休刊です。)。
また,法令(憲法改正,詔書,法律,政令,条約,内閣官房令,内閣府令,省令等)は,官報で公布されることになっています。
官報及び法令全書に関する内閣府令では,官報は,憲法改正,詔書,法律,政令,条約,内閣官房令,内閣府令,省令等を掲載するものとする旨定められていますが,法令の公布方法についての定めはありません。
明治憲法下では,法令の公布の方法について,「公式令」により,法令の公布は官報をもってする旨定められていたのですが,この公式令は,日本国憲法施行と同時に廃止され,それ以降,公式令に代わるべき法令公布の方法に関する一般規定は定められていません。
そのため,現状では,法令の公布方法に関する成文の規定はないのです。
ただ,裁判所は,
公式令廃止後の実際の取扱としては,法令の公布は従前通り官報によってなされて来ていることは上述したとおりであり,特に国家がこれに代わる他の適当な方法をもって法令の公布を行うものであることが明らかな場合でない限りは,法令の公布は従前通り,官報をもってせられるものと解するのが相当であって,たとえ事実上法令の内容が一般国民の知りうる状態に置かれえたとしても,いまだ法令の公布があったとすることはできない。
としました(最高裁昭和32年12月28日大法廷判決)。
さらに,裁判所は
当時一般の希望者が右官報を閲覧し又は購入しようとすればそれをなし得た最初の場所は,印刷局官報課又は東京都官報販売所であり,その最初の時点は,右二ヶ所とも同日午前8時30分であったことが明らかである。
してみれば,以上の事実関係の下においては,本件改正法律は,おそくとも,同日午前8時30分までには,前記大法廷判決(注 最高裁昭和32年12月28日大法廷判決)にいわゆる「一般国民の知り得べき状態に置かれ」たもの,すなわち公布されたものと解すべきである。
としました(最高裁昭和33年10月15日大法廷判決)。
これらの判例法により,法令の公布の方法は官報によってされること,公布の時間は官報発行日の午前8時30分とすることが認められており,これに基づいて法令の公布がされています。
時間外労働の上限規制
2019年4月27日
第196回国会でいわゆる働き方改革関連法案が可決成立しました。
この法律には,長時間労働の是正,多様で柔軟な働き方の実現,雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(いわゆる同一労働同一賃金)といった大きな柱があります。
このうちの長時間労働の是正の部分は,平成31年4月1日から施行されています(但し,中小企業に対しては1年間猶予され,令和2年4月1日からとなります。また,同一労働同一賃金の部分も令和2年4月1日から施行されることになります。)。
労働時間については,労働基準法により,1日8時間,1週間40時間の労働時間制限が定められていますが(法32条),労使協定により1週間45時間,さらに特別協定によれば労働時間が無制限とすることが可能となります(法36条1項)。
現実問題としては,このような特別条項を締結するかどうかに関わりなく,長時間の残業を強いられ,心身の健康を害し,場合によっては自殺を選択するという悲惨な結果が生じたことがありました。
日本人は概してまじめで自分を犠牲にして尽くすメンタリティがありますが,残業を強いるのはこのような忠誠心の上にあぐらをかき,善意の労働力を搾取しているといって過言ではありません。
そこで,このような問題を抜本的に改めて,包括的な残業規制をしたのが今回の改正です。
労働基準法の改正法では,時間外労働の上限を1か月45時間,年間360時間を原則としつつ(法36条4項),時間外労働と休日労働の合計を1か月100時間未満,時間外労働を年間720時間以内としなければならず(法36条5項),さらに,時間外労働と休日労働の合計について,「2か月平均」,「3か月平均」,「4か月平均」,「5か月平均」,「6か月平均」の全てについて1か月当たり80時間以内としなければならないことになりました(法36条6項)。
また,時間外労働が1か月間で45時間を超えることができる月数は最大で6か月とすることも定められました(法36条5項)。
ですので,例えば,2か月連続で85時間の時間外労働や休日労働をさせることも,年間を通して50時間の時間外労働をさせることも許されず,そのようなことをさせた場合,6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(法119条)。
そのため,使用者は,労働時間の適正な把握が重要となり,厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年)等を踏まえ,適正に労働時間を管理する必要があります。
また,改正法により,全ての企業において,年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む。)に対して,年次有給休暇の日数のうち年5日については,,使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました(法39条7項)。
年次有給休暇は,労働者が請求する時季に与えることが原則ですが,事業の正常な運営を妨げる場合等では,他の時季に変更することができます(法39条5項)。
但し,時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について,就業規則に記載しなければなりません(法89条)。
これに違反すると30万円以下の罰金が科せられることになります(法120条)。
使用者は,労働者毎に年次有給休暇管理簿を作成し,3年間保存しなければなりません(労働基準法施行規則24条の7)。
人ごとに入社日が異なると,基準日が人ごとに異なることから,誰がいつまでに年次有給休暇を5日取得しなければならないのか,細かな管理が必要となります。
そこで,基準日を年始や年度始めに統一するとか,月初などに統一するなどの方法により,確実に年次有給休暇を取得できるようにする工夫が求められます。
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