検査データ偽装のこれから
2017年12月11日
神戸製鋼所,三菱マテリアルの子会社,東レの子会社で,相次いで検査データの改ざんが明らかになりました。検査データの改ざんにより,販売先において製品の強度の検査等が行われ,場合によっては交換等の費用が発生することになります。検査データを偽装した会社は,これらの費用を賠償することになると思われます。
さて,現実にそのような負担が発生した場合,株主代表訴訟が気になるところです。
報道によると,それぞれの会社は多数の事業部門を擁しており,各事業部門がたこつぼ化し,その高い独立性が不正の発生と長期化の原因であるといわれています。そうすると,取締役等に対し,このような不正の発生等を防ぐための内部統制システムを構築する義務に違反したとの主張がされると考えられます。
この点,やや古い事件ですが,ダスキン社が運営していたミスタードーナツで,食品衛生法上使用が許可されていなかった食品添加物が使用された肉まんを販売したため,加盟店に対する損失補償や不適切な口止め料の支払いにより会社に損害をもたらしたとして取締役らが訴えられた株主代表訴訟がありました。
この事件で,大阪高裁は,「(カンパニー制であっても)現場からの情報が複数のルートを通って伝達されるような体制作りをする必要」がある旨の主張に対し,ダスキン社が
経営上の重要な情報を取締役会への報告事項と定めていたから,各取締役が定められた義務を果たせば,各事業部門に生じる問題を全社的に議論することが可能になっていたものである。
などとして,ダスキン社の内部統制システムに一応の評価をし,内部統制システム構築義務違反を否定しました(大阪高裁平成18年6月9日判決)。
しかし,今日の多くの会社では,多数の事業をカンパニー制などで運営されていますが,今回の検査データ偽装の問題が縦割りの組織を原因としていることからして,上記の高裁のような論法で内部統制システム構築義務違反を否定することが適当なのか,つまり,もう少し踏み込んだ体制作りが必要なのではないかが問われると思われます。そうすると,仮に今回の検査データ偽装の件が株主代表訴訟になった場合,ダスキン判決とは異なる判断がされる可能性もゼロではないと思われます。
またまた検査データ改ざん
2017年11月28日
今年の9月以降,神戸製鋼所,日産自動車,スバルでデータ偽装,無資格検査員による完成検査などの不適正事案が次々と明らかとなり,日本の製造業の危機などと騒がれています。そうしたところ,三菱電線工業株式会社,三菱伸銅株式会社で検査データを改ざんしていたことが,さらに今日(11月28日),東レ株式会社の子会社(東レハイブリッドコード株式会社)でも,顧客と取り決めた規格値のデータを不正に書き換えていたことが明らかになりました。
今回の問題は,一社のみでおさまらない可能性があると思っていたところ,やはり出てきてしまったというところです。ひょっとすると今後も追随する会社が出てくるかもしれませんね。特に,東レ社の子会社の件では,今日公表することになったのが「ネットの掲示板で書き込み」があったからとしています。つまり,掲示板の書き込みがなければ公表しなかったとしているわけです。東レ社の危機管理体制が心配になってしまいますが,明日は我が身と内心ひやひやしている会社があるかもしれません。危機管理的には,身に覚えがあるのであれば,この際自ら公表した方が結果的に実害が小さくてすむ可能性があります。
法律的には,顧客と定めた性能,品質が欠けていれば瑕疵あるいは不完全履行であり,一定の法的責任が生じることになります。メーカーにもいろいろ言い分があるのかもしれませんが,やはり「約束は守らなければならない」のです。
ただ,今日の読売新聞で日本工学会の会長さんがおっしゃっているように,「強度などの基準やルールは常に見直すことが必要」ということかもしれません。納入基準に満たないものだったとしても,それで完成品の強度が落ちたり,安全性に支障を生じたりする可能性はどの程度あるのでしょうか。基準に満たないため,経年劣化が早く進む可能性もありますが,少なくともこれまでのところ,基準に満たない素材を使用したため予期せぬ事故が発生したという話も聞きません。
そうすると,完成品メーカーの要求水準が相当高いことは間違いないようですが,完成品メーカーとしては,万が一の事故も防ぐべしという社会的使命がありますので,どうしても素材メーカーに対する要求水準が高くなってしまうのも分かります。
その当たりを上手に折り合いを付けつつ,日本のモノ作りを進化,強化させていく必要があると思います。
神戸製鋼所のガバナンス
2017年11月27日
本年10月に公表された株式会社神戸製鋼所のデータ改ざん問題は,当初,アルミ・銅事業部のみとされていましたが,その後次から次へと事実が明らかにされていき,気づけば相当長期間にわたり,全社的で行われていたことが判明し,問題発覚後も不正な製品の出荷を続けていたというおまけも付いてしまいました。この点,神鋼社は,管理を各部門に任せきりにして,本社がチェック機能を果たしていなかったことを認めています。
神鋼社は過去にも不適切事案が明らかとなりそのたびに法令遵守を約束していたわけですが,そのさなかにもデータ改ざんを続けていたことになります。このあたりの背景については,10月26日に設置された外部調査委員会の手で明らかにされるのではないかと思います。
このように神鋼社の問題は「統治効かぬ風土」(平成29年11月5日付日経)と評されるものです。そうなると気になるのは神鋼社のガバナンスの体制ですが,神鋼社は,平成28年6月22日付で監査等委員会設置会社に移行しています。監査等委員会設置会社は,平成26年の会社法改正で設けられた制度であり,監査等委員会を構成する監査等委員は3人以上で,その過半数は社外取締役でなければならないなどの要件が定められています(会社法331条6項)。それまで監査役会設置会社の監査役をそのまま取締役会に横滑りさせることも可能で,神鋼社でも,それまで監査役だった方が監査等委員になっています。
神鋼社は,監査等委員会設置会社に移行する理由について,「これまで,当社の幅広い事業に対する充実が監査を行うために,監査役がそれぞれ調査権限を持つ監査役設置会社を選択して」きたが,「監督機能のさらなる強化,経営に関する意思決定の迅速化を図るため」としています(第163期有価証券報告書)。ただ,今回の問題を見る限り「監督機能のさらなる強化」が実現されたとはいえません。監査役設置会社が監査等委員会設置会社に移行しても,それだけで何かが変わるわけではなく,監査の実質をどれだけ確保するかが重要であることを示しているように思います。
お問い合わせはお電話にて