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神戸製鋼所の検査データ偽装 その3

2017年11月14日

株式会社神戸製鋼所は,今月10日,品質データ偽装等の不適切行為に関する報告書を発表しました。

神鋼社は,今回の原因に関して「収益評価に偏った経営と閉鎖的な組織風土」などを指摘していますが,いずれにせよ内部統制システムが構築されていなかったことは間違いないわけです。

今後,神鋼社は,出荷先からの賠償請求の可能性がありますし,アメリカにおいて懲罰的賠償が認められた場合,巨額の賠償責任が生じる恐れもあります。そうなった場合は,間違いなく株主代表訴訟が提起されることになると思われます。

ところで,神鋼社は,平成12年,総会屋への利益供与や裏金捻出により株主代表訴訟が提起されました。訴訟そのものは和解で終了しましたが,その際,裁判所は,異例の「裁判所所見」を発表しております(神戸地裁・平成14年4月5日 商事法務1626号52頁)。裁判所は「所見」の中で,

神戸製鋼所のような大企業の場合,職務の分担が進んでいるため,他の取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実不可能であるから,取締役は,商法上固く禁じられている利益供与のごとき違法行為はもとより大会社における厳格な企業会計規制をないがしろにする裏金捻出行為等が社内で行われないようにする内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである。・・・

 企業のトップとしての地位にありながら,内部統制システムの構築等を行わないで放置してきた代表取締役が,社内においてなされた違法行為について,これを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れることができるとするのは相当でないというべきである。・・・

 総会屋に対する利益供与や裏金捻出が長期間にわたって継続され,相当数の取締役及び従業員がこれに関与してきたことからすると,それらシステムは十分に機能していなかったものといわざるを得ず,今後の証拠調べの結果によっては,利益供与及び裏金捻出に直接には関与しなかった取締役であったとしても,違法行為を防止する実効性ある内部統制システムの構築及びそれを通じての社内監視等を十分尽くしていなかったとして,関与取締役や関与従業員に対する監視義務違反が認められる場合もあり得るのである。

などと指摘しています。この指摘は今回の件にもそのままあてはまります。

それにしても,神鋼社は,不祥事を契機に法令遵守を指向したはずですが,それはあくまでも問題となった不適切事案の再発防止を念頭にしたもので(上記報告書15頁),40年以上前から行われていたという品質データ偽装等を改めるまでに至らなかったことになります。今度こそ,このような体質を改める必要があるように思われます。

リコール制度について

2017年11月11日

無資格の検査員に完成検査を行わせていたことで,日産自動車株式会社は10月に約116万台,同月25日に追加の約3万8千台のリコールを届け出ました。また株式会社SUBARUも10月に約25万台,11月に追加の約15万台のリコールを届け出ました。

このリコール制度ですが,「同一の型式で一定範囲の自動車等又はタイヤ,チャイルドシートについて,道路運送車両の保安基準に適合していない又は適合しなくなるおそれがある状態で,その原因が設計又は製作過程にあると認められるときに,自動車メーカー等が,保安基準に適合させるために必要な改善措置を行うこと」(国交省HP)であり,道路運送車両法第63条の2以下が根拠となります。

完成検査の過程で資格のない検査員が検査に関与していたことは,保安基準に「適合しなくなるおそれがある状態」で,その原因が「製作過程にある」ということでリコールを届け出たということですね。

素人的な考えでは,検査員に資格がなくても完成検査の質そのものには致命的な影響はないようにも思います(輸出用の車両では道路運送車両法に基づく完成検査は行われません。)が,ルールはルールとして遵守されなければならないわけです。

日産社は,今回の<想定される主な原因>として,完成検査に関する法令に対する会社としての理解不足と遵守意識レベルの低さなどとしていますが,合理化により検査員が減らされたことが原因とする報道もありました。

検査員の資格は,社内で定めた規定を満たせば資格要件が満たされるそうですので,有資格者を一定数確保しておけばこのような問題は生じることはなかったかもしれません。

製造業では合理化やコストカットは避けて通れませんが,今回の件で業績予想を400億円も下方修正せざるを得なくなったことを考えると,法令遵守あってのコストカットであることを再確認する必要があると思います。

またまた地面師詐欺

2017年11月10日

先日,地面師詐欺のコラムを載せましたが,アパグループのアパ株式会社が港区赤坂の土地を巡り約12億円をだまし取られた事件に関して合計9名の男女が逮捕されたとのことです。

この事件では,法務局が登記手続のために持ち込まれた本人確認書類(住民基本台帳カード)の偽造に気づいたことで発覚したようですが,土地の売買の経験が豊富なはずのアパ社がどうして詐欺を見抜けなかったのでしょうか。

実は,この事件は,死亡した土地所有者の相続人を名乗る男2名がアパ社とは別の会社に土地を売却し,その後,アパ社がその会社と売買契約を結びました。つまり,アパ社の直接の相手方はこの会社ということになります。

そのため,アパ社は,直接成りすまし男らの本人確認をすることができなかったのではないかと思います。仮にアパ社が直接男らの本人確認ができていれば,本人確認書類の偽造を見抜き,被害を防ぐことができたかもしれません。

このように,不動産の取引では,A→B→Cの流れで転売されることはままあることですが,A→B,B→Cの売買契約を同時にすることもあり(積水ハウス社の場合がこれでした。),このような場合は,事実上Cが直接Aの本人確認をすることができるかもしれません。

しかしそうでない場合には,Cは直接Aの本人確認をすることができませんので,AとBがグルであれば詐欺が成功する可能性は高くなると思います。

Cが直接Aの本人確認ができないのであれば,CはBが保管しているAの本人確認書類等の書類を自ら確認することが必要となる場合があると思われます。

地面師詐欺が多発していることから,企業が転売された高額の不動産を取得しようとする場合,元々の売主であるAについても,その本人確認が求められる可能性があります。

とはいえ,地面師詐欺では,得体の知れないブローカーが出没したり,不必要に売買を急がせるなどの兆候があるようにも思われます。そのような成りすましを疑うような兆候があるときこそ,急ぐ気持ちを抑え,慎重に確認作業をするべきです。だまされてからでは遅いのです。

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