検察庁への告発
2017年11月20日
私は,現在,検察庁が告発を受理した事件で,被告発者の方の弁護を担当しています。
告発は,犯罪があると思料するときだれでも行うことができます(刑訴法第239条)。
とはいえ,検察庁に事件を告発してもすぐに受理されることはありません。一般的には,事件を持ち込んでも,検察庁から補充の証拠の提出が求められ,追加の証拠を提出しても公判に耐えられるものでない場合には告発をあきらめさせて門前払いをされます。
脱税事件や独占禁止法違反事件等告発が公的機関によってなされる場合は,告発前に国税庁や公正取引委員会は検察庁と調整を重ね,有罪判決を得るに足る証拠が整ったと判断されたところで告発を受理するというやり方をとります。ですので,告発前の調査の過程で実質的な捜査は開始されているわけですが,検察庁が立件困難と判断すれば,国税庁等は告発をしないのが実際の運用です。仮に検察庁の意向に反して告発しようとしても受理される保証もありませんし,仮に受理はされても不起訴にでもなれば国税庁等の面目がつぶれるという判断が背景にあると考えられます。
ところが,東芝の一件では,証券取引等監視委員会が検察庁の意向に真っ向から反対するという事態が生じました。
ご存じのとおり,東芝社は,有価証券告書等の虚偽記載により課徴金約73億円の納付を命じられました。東芝社の件では,パソコン事業におけるいわゆるバイセル取引での利益計上などが虚偽記載とされました。このバイセル取引は,東芝社がパソコン部品を海外の製造委託先に販売し,組立後の完成品を購入するという仕組みです。東芝社は,部品の販売価格に上乗せする価格を相当高額にし,上乗せ額を利益として計上したのですが,このことが「重要な事項につき虚偽の記載」(金商法第172条の4)をしたと評価されたわけです。
証券取引等監視委員会は,東芝社のバイセル取引での利益計上に関し,当時の社長らに虚偽の認識があったとして検察庁に告発する意向でした。ところが,検察庁は,立件は困難であるとしたことから,証券取引等監視委員会も,しぶしぶ告発を見送りました。証券取引等関係委員会が告発をしようとした事情ももっともなのですが,他方検察庁の言い分としては,故意犯である金商法第197条で歴代社長さんの虚偽記載の故意の立証には状況証拠による間接事実の立証が必要であり,ハードルが高いことに加え,バイセル取引自体は一般的に行われている取引方法であり,バイセル取引による利益計上を明確に禁止する会計基準もないとの理屈のようです。
起訴独占主義(刑事訴訟法247条)の強さを思い知らされるエピソードです。
神戸製鋼所の検査データ偽装 その3
2017年11月14日
株式会社神戸製鋼所は,今月10日,品質データ偽装等の不適切行為に関する報告書を発表しました。
神鋼社は,今回の原因に関して「収益評価に偏った経営と閉鎖的な組織風土」などを指摘していますが,いずれにせよ内部統制システムが構築されていなかったことは間違いないわけです。
今後,神鋼社は,出荷先からの賠償請求の可能性がありますし,アメリカにおいて懲罰的賠償が認められた場合,巨額の賠償責任が生じる恐れもあります。そうなった場合は,間違いなく株主代表訴訟が提起されることになると思われます。
ところで,神鋼社は,平成12年,総会屋への利益供与や裏金捻出により株主代表訴訟が提起されました。訴訟そのものは和解で終了しましたが,その際,裁判所は,異例の「裁判所所見」を発表しております(神戸地裁・平成14年4月5日 商事法務1626号52頁)。裁判所は「所見」の中で,
神戸製鋼所のような大企業の場合,職務の分担が進んでいるため,他の取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実不可能であるから,取締役は,商法上固く禁じられている利益供与のごとき違法行為はもとより大会社における厳格な企業会計規制をないがしろにする裏金捻出行為等が社内で行われないようにする内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである。・・・
企業のトップとしての地位にありながら,内部統制システムの構築等を行わないで放置してきた代表取締役が,社内においてなされた違法行為について,これを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れることができるとするのは相当でないというべきである。・・・
総会屋に対する利益供与や裏金捻出が長期間にわたって継続され,相当数の取締役及び従業員がこれに関与してきたことからすると,それらシステムは十分に機能していなかったものといわざるを得ず,今後の証拠調べの結果によっては,利益供与及び裏金捻出に直接には関与しなかった取締役であったとしても,違法行為を防止する実効性ある内部統制システムの構築及びそれを通じての社内監視等を十分尽くしていなかったとして,関与取締役や関与従業員に対する監視義務違反が認められる場合もあり得るのである。
などと指摘しています。この指摘は今回の件にもそのままあてはまります。
それにしても,神鋼社は,不祥事を契機に法令遵守を指向したはずですが,それはあくまでも問題となった不適切事案の再発防止を念頭にしたもので(上記報告書15頁),40年以上前から行われていたという品質データ偽装等を改めるまでに至らなかったことになります。今度こそ,このような体質を改める必要があるように思われます。
リコール制度について
2017年11月11日
無資格の検査員に完成検査を行わせていたことで,日産自動車株式会社は10月に約116万台,同月25日に追加の約3万8千台のリコールを届け出ました。また株式会社SUBARUも10月に約25万台,11月に追加の約15万台のリコールを届け出ました。
このリコール制度ですが,「同一の型式で一定範囲の自動車等又はタイヤ,チャイルドシートについて,道路運送車両の保安基準に適合していない又は適合しなくなるおそれがある状態で,その原因が設計又は製作過程にあると認められるときに,自動車メーカー等が,保安基準に適合させるために必要な改善措置を行うこと」(国交省HP)であり,道路運送車両法第63条の2以下が根拠となります。
完成検査の過程で資格のない検査員が検査に関与していたことは,保安基準に「適合しなくなるおそれがある状態」で,その原因が「製作過程にある」ということでリコールを届け出たということですね。
素人的な考えでは,検査員に資格がなくても完成検査の質そのものには致命的な影響はないようにも思います(輸出用の車両では道路運送車両法に基づく完成検査は行われません。)が,ルールはルールとして遵守されなければならないわけです。
日産社は,今回の<想定される主な原因>として,完成検査に関する法令に対する会社としての理解不足と遵守意識レベルの低さなどとしていますが,合理化により検査員が減らされたことが原因とする報道もありました。
検査員の資格は,社内で定めた規定を満たせば資格要件が満たされるそうですので,有資格者を一定数確保しておけばこのような問題は生じることはなかったかもしれません。
製造業では合理化やコストカットは避けて通れませんが,今回の件で業績予想を400億円も下方修正せざるを得なくなったことを考えると,法令遵守あってのコストカットであることを再確認する必要があると思います。
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