景表法の運用の積極化
2017年11月8日
東京弁護士会は,10月11日,弁護士法人アディーレ法律事務所に対し業務停止2月,元代表の弁護士に対し業務停止3月の懲戒処分をしました。これは,同法人が,平成28年2月16日付で消費者庁から,不当景品類及び不当表示防止法(景表法)の有利誤認表示により広告禁止の措置命令を受けたことなどを理由とするものです。
ところで,この件も含めて最近景表法の措置命令が話題に上ります(11月7日もイソフラボンを機能性関与成分とする機能性表示食品の販売事業者に対する措置命令が出されました。)。
今年1月には三菱自動車工業株式会車や日産自動車株式会社に対する措置命令が出されましたが,消費者庁のホームページを見る限り,今年だけで20件以上の措置命令が出され,2件で課徴金の支払い命令がされています。
景表法は,商品や役務の内容について,実際より優良であると誤認させるような表示(優良誤認)や取引条件が実際より著しく有利であると誤認される表示(有利誤認)をすることを禁止しています(景表法第5条)。
先の弁護士法人は,そのホームページ上で,キャンペーン期間内に契約する場合に限り,過払金返還請求の着手金が無料又は値引きとなる等の特典があるかのように表示しているのに,実際には,キャンペーン期間経過後も同じ内容の特典に関する表示を長期間継続していたということで措置命令を受けました(有利誤認)。
消費者は,商品や役務の内容や取引条件に関して業者の表示を信頼するほかありません。ですから,商品や役務の内容や取引条件に関して偽りの表示をすることは消費者の「自主的かつ合理的な選択を阻害する」ことになります。
近時は,このような企業の不正に対する消費者の目がますます厳しくなっています。ですから,怪しい表示をすると消費者がすぐに消費者庁等に通報すると考えておくべきでしょう。
したがって商品の表示には景表法の観点から細心の注意を払う必要があります。
景表法を知らなかったでは済まされません。
座間市アパートの惨劇
2017年11月1日
10月30日,神奈川県座間市のアパートの一室から,切断された頭部2個が発見され,その後さらに7名分の遺体が発見されました。これまでの報道では,この部屋を借りていた男が部屋の中で9名を殺害し,浴室で遺体を損壊したと供述しているようです。
極めて猟奇的でショッキングな事件ですが,やはり気になるのはこのアパートの今後です。
アパートの一室で9名もの殺害が実行され,その遺体が出たことは「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥」(横浜地裁平成元年9月7日判決)と評価されると思われます。そのため,今後,現場の部屋を貸そうとする場合(当然,きれいにリフォームをしてからですが),相手方に対してこの事実を説明する義務があります。そうすると,通常の賃料で借りる人はまずいないでしょうから,賃料を下げる必要があります(賃料を下げても借りる人がいない可能性もあります。)。したがって,事件がなければ得られたであろう賃料が得られないことになります。そのため,アパートの賃貸人の方は,賃借人の男に対し,善管注意義務違反を理由として損害賠償請求をすることが可能です。
裁判例では,1~3年分の賃料減収分を損害としたものがありますが,これは自殺案件です。したがって,本件のような異常な場合はこれより長期間の賃料減収分が認められるかもしれません。
また,現場の部屋に隣接する部屋の賃借人さんが本件を契機に退去することも考えられます。隣接する部屋について新たに借主を募集する際,本件事故を説明する義務があるかどうかが問題となります。この点,契約の半年前に,階下の部屋で自然死があったという事案に関し,賃貸人や仲介業者の説明義務違反を否定した裁判例がありますが(東京地裁平成18年12月6日判決 渡辺晋「瑕疵担保責任と説明義務」),本件のような異常性が強い場合,説明義務が認められる可能性が高いように思われます。また,賃料を下げることになれば賃料減収分が損害になると考えられます。
いずれにせよ,アパートの賃貸人の方にとっては降ってわいた災難としかいいようがありませんが,これも賃貸事業の一つのリスクといえます。
ベネッセ個人情報流出事件
2017年10月31日
株式会社ベネッセコーポレーショから個人情報が流出した件について,10月23日,最高裁判所の判決がありました。
ベネッセ社が管理する個人情報の流出は,ベネッセ社のシステム開発・運用を行っているグループ会社の業務委託先の従業員(SE)が,業務上貸与されたパソコンに個人情報をダウンロードして保存し,これを私物のスマホに移したというもので,SEがコピーを名簿業者に売却したことから発覚しました。このSEは,最終的に不正競争防止法違反により懲役2年6月,罰金300万円の判決を受けました。
他方,個人情報を漏洩された子どもの親が,ベネッセ社に対して損害賠償の支払いを求める訴訟を提起しましたが,第一審,第二審とも原告の請求を棄却しました。これに対し,最高裁は,第二審が個人情報漏洩で生じたプライバシー侵害による精神的損害の有無及び程度について十分審理を尽くさなかったとして,第二審判決を破棄し,高等裁判所に差し戻しました。
今後,ベネッセ社の責任の有無や責任が認められるとしてその賠償額等の判断が示されることになります。
とはいえ,個人情報の漏洩防止のため講じるべき措置は悩ましい問題だと思います。特に,今回のように,悪意を有する者から個人情報の流出を防ぐことは相当の困難を伴うであろうと思われます。
しかし,個人情報が流出した場合の重大なリスクを考えると,容易にコピーできないシステムにするとか常時監視する体制を整備するなど,相応の対応をしなければならないことは間違いありません。
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