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弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

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神戸製鋼所と日産自動車

2017年10月28日

株式会社神戸製鋼所と日産自動車株式会社が大変なことになっています。

これまでもこのコラムで取り上げましたが,神鋼社は,検査データ改ざんの問題が発覚して会社が改善を指示したものの,その後も一部工場において指示された仕様からはずれた不適合品の品質検査データを自主点検の際報告せず,発覚を免れていたと発表しました。

他方,日産社も完成検査を行う資格を有していない検査員が検査の一部を行っていたことから会社が改善するよう指示したにもかかわらず,その後も無資格の検査員が検査の一部を行っていたことが発覚しました。

いずれも現場が会社の指示に従わなかったということであり,ガバナンスに問題があると指摘されるのもやむを得ないところでしょう。

また,日本のメーカー品に対する高い評価は,高品質であることはもちろん製品作りへの誠実さという信頼感に裏打ちされていると思います。

このメーカーに対する信用は,目に見えない社会的インフラともいうべきものです。

これまで日本のメーカー品に対してもたれていた安心感,信頼感が毀損されたことはやはり深刻に受け止めるべきと思います。

第三者の調査により,今回の問題の背景等が解明されるでしょうが,有効な再発防止策を早急に決める必要があると思われます。

日産自動車の完成検査問題

2017年10月24日

国土交通省は,今年9月,日産自動車株式会社について,「社内規程に基づき認定された者以外の者が完成検査の一部を実施していたことを確認しました。」との報道発表をしました。

完成検査は,国が型式に照らして一台一台検査するのが原則ですが,国に代わってメーカーが実施することが認められています。この際,各メーカーが認定した有資格者である完成検査員が完成検査をする必要があります。日産社は,社内規定に基づいて認定された完成検査員ではない検査員が完成検査の一部を行っていたことになります。

無資格の検査員が関与するようになった経緯や背景については,第三者による調査結果が明らかにされると思われます。

日産社は,リコールを実施するとともに,国交省に対し業務の改善等を報告し,国交省もこれを受けて完成検査の確実な実施を確保する業務体制の改善等の指示をしました。

本来であれば,これでこの問題は収束するはずでした。ところが,国交省に報告した後も日産社では無資格の検査員による検査が続けられていたことが判明しました。

これはコンプライアンスの観点からして相当まずい事態です。

どうして無資格者による検査を続けたのか判然としませんが,定められたルールどおりに完成検査を実施するよう指示されたものの,他方で遅滞なく車を出荷する必要性もあることから,現場サイドの判断で無資格の検査員に検査の一部を行わせ続けたという可能性があります。

えてして,経営側の皆さんは,部下や現場に指示はするもののそれを実現するための具体策は部下任せ、現場任せにする傾向があるかもしれません。

平時の場合はそれでもいいかもしれませんが,再発防止が求められる有事の際には,できるだけ具体的な方法を示した方が適切であることは間違いありません。

神戸製鋼所の検査データ偽装 その2

2017年10月20日

株式会社神戸製鋼所のデータ偽装の問題が広がりを見せ,いよいよ外国当局も出てきました。

神鋼社の発表等によると,当初アルミ・銅事業部にほぼ限定されるとされていたデータ改ざんが,主力の鉄鋼事業や子会社でも行われていたとのことですし,出荷先も広がっているようです。

しかし,これまでのところ,出荷先の調査において強度不足が確認された例はないようですし,自動車の安全性を確認したと発表した自動車メーカーもあります。おそらく,出荷先の要求レベルが相当高く,仕様より若干下回る数値であっても完成品としての強度には大きな影響を及ぼさないということなのだろうと思います。

マスコミは完成品についての不安を指摘していますが,完成品の安全性についてはもう少し冷静に対応すべきであり,少なくとも,出荷先の検査結果を待つのが適当かと思われます。

とはいえ,現時点では安全性に問題ないとしても,経年劣化に伴う強度の低下までは予測することができませんので,出荷先は,今後も強度についての検査を続ける必要があるでしょう。そのため,神鋼社は,その将来の検査費用まで負担する可能性があります。

今回の原因として,神鋼社における各事業部門の垣根が高く縦割りの組織になっていたことが指摘されています。しかし,事業部や工場の垣根に関係なくデータ偽装が行われていたところをみる限り,企業風土に根ざしているといわれてもしかたありません。これを改善するには相当の努力が必要かもしれません。

さらに,危機対応の観点からすると,アルミ・銅事業だけであると発表した後に,別の部門でも不適切行為が発覚したこと,取締役会で把握していながら公表を控えていたことが問題点として指摘できます。

企業不祥事の対応の要諦としては,できるだけ早く全貌を把握し,正確に公表すること,会社の社会的責任を踏まえた対応策を示すこと,再発防止策を示すことなどの一連の対応をスピード感をもって行うことです。もちろん,簡単なことではないでしょうが,対応を間違えるとさらに事態が悪化し,会社の存続に重大な影響を及ぼしかねません。逆に,危機対応が的確であると信頼を得ることができる場合もあります。

神鋼社は,今,どちらになるかの瀬戸際にあるように思われます。

今,大事なのは,過去のしがらみをリセットする勇気かもしれません。

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