地面師詐欺
2017年10月16日
最近,都心の地価が高騰しているため,地面師による詐欺事件が起きていると報道されています。地面師詐欺は,地主になりすました者が地主本人であると偽って売買契約を成立させ,代金を受け取って行方をくらますという詐欺事件です。「売主」は真実の所有者ではありませんので,買主は,相手を信頼していたとしても所有権を取得することはできません。
つい最近も,大手住宅メーカーが都心の元旅館経営者の地主になりすました女に約60億円をだまし取られたとのことです。
私も,地面師もどきの詐欺事件に関与したことがありました。
「もどき」というのは,地主になりすました人物ではなく,「売主」の代理人と名乗る弁護士と契約したという点で地面師詐欺の応用編でした。
「売主」の代理人弁護士は,委任状等「売主」の代理人として土地を売却する権限を有する書類を保有していたことから,買主の不動産会社は,「売主」の代理人弁護士と売買契約書を交わし,手付金を支払ってしまったのでした。もちろん,委任状等の書類は全て精巧に偽造されたものでしたが,それがわかったのは手付金をだまし取られた後でした。まさに後の祭りです。
その後,「売主」の代理人弁護士が,「売主」と連絡が取れなくなったとしたため,残代金をだまし取られずにすみ,損害は,手付金のみでおさまりました。
不動産会社が刑事告訴をし,本件に関与した数名が逮捕されたのですが,起訴されたのは一人だけで,だまし取られたお金は戻ってきませんでした。
地面師詐欺にあわないためには,とにかく「売主」の本人確認を確実に行うことにつきます。
宅建業者が売買やその媒介等をする場合,本人確認をすることが法律で義務付けられていますが,本人確認書類は極めて精巧に偽造されていますので,本人確認には細心の注意が必要です。
また,地面師詐欺では,「売主」に弁護士や司法書士が付いている場合がありますが,それだけで信用してはいけません。弁護士等が詐欺の片棒を担がされている場合があります。
また,地面師に利用されるのは,真の所有者が高齢,誰も居住していない,抵当権が設定されていないなどの土地が多いといわれていますので,そのような土地を目的とする場合も要注意です。
さらに,正体のよく分からないブローカーが同席していたり,「売主」が契約や代金の支払いを急がせる場合も地面師詐欺を疑うべきでしょう。
神戸製鋼所の検査データ偽装
2017年10月12日
株式会社神戸製鋼所は,10月8日,「当社のアルミ・銅事業部門(同部門傘下のグループ会社を含む。)において,お客様との間で取り交わした製品仕様に適合していない一部の製品につき,検査証明書のデータの書き換え等を行うことにより,当該仕様に適合するものとして,出荷していた事実(以下「本件不適切行為」といいます。)が判明しました」とリリースしました。
要は,顧客から指示された仕様に適合しない製品を,検査証明書のデータを書き換えるなどして販売していたことになります。
このような「不適切行為」に及んだ背景には,納期や生産目標を達成するため,「これくらい問題ない」などと判断していたとか(読売),「民間企業同士の取引で契約順守の意識が低かった」とされています(日経)。
現場サイドとしては,経営の柱に成長しつつあったアルミ・銅事業において成長の足を引っ張りたくないという気持ちが強かったのかもしれませんが,逆に成長の芽をつんでしまった可能性があります。
今回の問題は,法令や日本工業規格(JIS)違反ではありませんが,契約違反であることはもちろん,検査証明書を偽装して納入先を信用させていました。
納入先の会社としては,神鋼社が証明書を出した製品の仕様に疑いを持つことはまずないわけで,神鋼社は,取引先の信頼を大きく損ねてしまったことになります。
納入先の会社は,今後,安全性に問題ないかどうかを確認しなければならなくなりましたし,場合によってはリコールへの対応や神鋼社に対する損害賠償を迫られる可能性もあります。まさに降ってわいた災難というほかありません(納入先の対応については,山口利昭先生のブログ「ビジネス法務の部屋」の記事(10月10日付「神鋼品質データ改ざん事件-被害企業側の説明責任」)をご参照下さい。)。
それにしても,神鋼社は,平成28年にも,そのグループ会社が製品のバネに関する強度のデータを偽装していたことが発覚して大問題になりました。
これは,JIS規格を満たしていない鋼線を企画を満たしているとして出荷していたというものですが,規格外の製品を,データを偽装して出荷していた点で本件と同じ構造です。
このような問題が発覚して大問題になったのに,どうしてアルミ・銅事業部で品質偽装を継続したのかよく分かりません。おそらく今後第三者委員会が立ち上がるでしょうから,企業風土に関連して偽装を継続した事情などについても解明されるのではないかと思われます。
それにしても,我が国のモノ作りは職人気質による高品質が,製品に対する信頼感と高い評価を得ていたと思います。
最近,今回と同様の問題が繰り返し発覚していることから,モノ作りのよき伝統が失われつつあるのではないかといわざるを得ません。効率重視の経営がよき伝統を失わせてしまっているとしたら残念なことです。
電通事件について
2017年10月12日
電通過労死事件の刑事裁判の公判が9月22日にあり,電通のトップが出廷し,公訴事実を認め,謝罪しました。
罰金の額としてはわずか50万円でしょうが,大々的に報道されただけでなく,刑事事件で会社が起訴され,略式命令と思われたものが裁判所の判断で正式裁判となり,一部上場企業のトップが簡易裁判所に出頭して公開の場で謝罪する事態になりました。会社のレピュテーションが大きく毀損されたことは間違いありません。
いまや長時間労働の問題は,会社のトップの座はもちろん会社の命運を左右する重大なリスクといえます。したがって,これまでのような長時間労働を是としたり,やむを得ないとする考え方はきっぱりと捨てなければなりません。
しかし,今トップにおられるのは,概ね自分自身も長時間労働をし,競争を勝ち抜いて現在の地位に上り詰めた方が多いのではないでしょうか。そのような場合,自分の成功体験から,長時間労働はむしろ当たり前とさえお考えになるかもしれません。
そのような場合,長時間労働を是正するといっても,中身が伴わなわず,かけ声倒れに終わってしまうおそれが大きいと思います。過去の社員の過労自殺をきっかけに是正勧告が出ていたのに,今回新入社員の過労自殺を引き起こした電通はその典型例だったといえましょう。
これからは,長時間労働をさせないようにするために,業務量を調整したり人員を増強するなどの実効性のある具体的な方策が求められます。
これは,場合によっては,従来のビジネスのやり方を根本的に変更する必要があったり,会社の売上,収益にも直接影響する事柄であるため,一筋縄ではいかないことでしょう。また,過剰労働をさせないことを目的として自律的に統制するための部門の新設も必要かもしれません。
いずれにせよ,このような困難な問題は,トップの真剣な決断が不可欠です。
他社に取引を奪われるとか,社員のインセンティブが低下するなどの心配もあると思われますが,ブラック企業と後ろ指指される会社と取引したいと思う会社は多くないでしょうから,長い目で見れば,コンプライアンスを重視した会社として認知される方が会社の利益になると考えられます。また,長く働くことが必ずしも美徳ではないとの考え方が広がっていけば,働き方を工夫し,生産性を向上させるきっかけになるかもしれません。
いずれにせよ,今回の問題は,日本の社会全体のあり方を大きく変える転換点になったことだけは間違いないと思います。
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