東京・銀座の弁護士

弁護士布施明正 MOS合同法律事務所

コラム Column

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新型コロナウィルスによる緊急事態宣言

2020年4月7日

新型コロナウィルスの感染拡大が止まりません。

一昨日(4月5日)には,東京都で新たに感染が確認された人が140人を超えてしまいました。ニューヨーク市での感染拡大の状況と似ていますので,ここで感染拡大を押さえ込まないと,近日中に東京がニューヨーク市と同様の医療崩壊に陥ることさえあり得ます。

そうしたなか,政府は,本日,緊急事態宣言を出すようです。遅きに失したという観は否めませんが,これ以上の感染拡大を食い止めるため最後のカードを切ったということでしょう。

ところで,この緊急事態宣言ですが,新型インフルエンザ対策特別措置法(平成24年法律第31号)を根拠にしています(以下,「特措法」といいます。)。

特措法は,平成21年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)の経験を踏まえ,平成24年に制定されましたが,特措法32条は,新型インフルエンザ等が国内で発生し,その全国的な急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし,又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき,実施期間,実施すべき区域,概要とともに,緊急事態が発生した旨の公示をすると定めています。そして,この「政令で定める要件」は,新型インフルエンザ等に感染し,又は感染したおそれがある経路が特定できない場合(第1号),新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合(第2号)とされています(特措法施行令6条)。

このたび,今回の新型コロナウィルスの感染拡大を契機として,特措法が改正され

新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和2年1月に,中華人民共和国から世界保健機関に対して,人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。)

も新型インフルエンザとみなすとされ(特措法附則第1条の2),期間の限定があるものの新型コロナウィルスにも特措法が適用されることになったのでした。

 

緊急事態宣言がされると,対象となる都道府県の知事は

 生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる

とされます(特措法45条1項)。また,知事は,

 学校,社会福祉施設,興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し,当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

とされ(特措法45条2項),場合によっては,「指示」をすることも認められています(特措法45条3項)。

しかし,これらはあくまでも「要請」やせいぜい「指示」であり強制力が認められているわけではありません。

特措法上一定の強制力が認められるのは,

① 「臨時の医療施設を開設するため,土地,家屋又は物資(土地等)を使用する必要がある」のに,土 地等の所有者等が「正当な理由がないのに同意をしないとき」などの場合,「同意を得ないで,当該土地等を使用することができる。」(特措法49条2項)

② 医薬品等の「新型インフルエンザ等緊急事態措置の実施に必要な物資」を生産等する所有者が,「正当な理由がない」のに「要請に応じないとき」は,「当該特定物資を収用することができる。」(特措法55条2項)

③ 上記医薬品等の物資を生産等する所有者に対し,医薬品等の保管を命ずることができる(特措法55条3項)。

だけです。

今回の新型コロナウィルスの感染拡大により,ロックダウン(都市封鎖)が取りざたされますが,特措法では,ロックダウン(都市封鎖)をすることまでは認められていません。

なお,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)には,

 都道府県知事は,一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって,消毒により難いときは,政令で定める基準に従い,72時間以内の期間を定めて,当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され,又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し,又は遮断することができる。

として,一定の要件の下でのロックダウン(都市封鎖)を実施することを認めています(第33条)。今回,新型コロナウィルスも感染症予防法の「感染症」に加えられ(令和2年政令第59号),感染症予防法によるロックダウンも可能なのですが(令和2年政令第60号),最大72時間という制限付ですので,感染症予防法によっても,欧米で実際されているような長期間の都市封鎖を行うことはできません。

このように,特措法における緊急事態宣言には国民生活を直接制限する強制力に乏しいといえます。

とはいえ,感染拡大を食い止めるためには,国民や企業がそれぞれ適切な対応をとる必要があることはいうまでもありません。

同一労働同一賃金の施行

2020年4月2日

民法の改正債権法が施行された本年4月1日,働き方改革関連法においても,同一労働同一賃金を定めた部分が施行されました(但し,本年から適用になるのは大企業のみであり,中小企業における適用は令和3年4月1日からです。)。

なお,同じ働き方改革関連法では,長時間労働の是正,多様で柔軟な働き方の実現等の部分が大企業について適用されていましたが,本年4月1日から,中小企業についても適用になりました。

さて,この同一労働同一賃金の点ですが,要するに,短時間・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し,個々の待遇ごとに,当該待遇の性質,目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化するものです。この改正に併せて,該当する条項をこれまでの労働契約法(同法第20条)から,「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に移されました。

法は,同一労働同一賃金について,

 事業主は,その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給,賞与その他の待遇のそれぞれについて,当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において,当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち,当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して,不合理と認められる相違を設けてはならない。

と定めております(法8条)。

とはいえ,どのような場合に「合理的な相違」といえるのか必ずしも明確とはいえません。

この点,厚労省はガイドラインの中で

 基本給が,労働者の能力又は経験に応じて支払うもの,業績又は成果に応じて支払うもの,勤続年数に応じて支払うものなど,その趣旨・性格が様々である現実を認めた上で,それぞれの趣旨・性格に照らして,実態に違いがなければ同一の,違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。

 昇給であって,労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについては,同一の能力の向上には同一の,違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければならない。

 役職手当であって,役職の内容に対して支給するものについては,同一の内容の役職には同一の,違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。

 そのほか,業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当,交替制勤務などに応じて支給される特殊勤務手当,業務の内容が同一の場合の精皆勤手当,正社員の所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った場合に支給される時間外労働手当の割増率,深夜・休日労働を行った場合に支給される深夜・休日手当の割増率,通勤手当・出張旅費,労働時間の途中に食事のための休憩時間がある際の食事手当,同一の支給要件を満たす場合の単身赴任手当,特定の地域で働く労働者に対する補償として支給する地域手当等については,同一の支給を行わなければならない。

などとしています。

このように,ガイドラインには一定の判断基準が示されていますが,会社ごとにいろいろな名称,内容の給与や手当が支給されていることから,さらに細かく分析するには,これまでの裁判例を検討する必要があります。

この点,最高裁は,平成30年6月1日,同一労働同一賃金に関する2つの事件について判決をしました。

事件は,どちらも自動車運送事業をしている会社に関するものですが,一つは有期労働契約を締結している社員(契約社員)に関する事件(以下,「契約社員事件」といいます。),他は,会社を定年退職した後に有期労働契約を締結した社員(嘱託社員)に関する事件です(以下,「嘱託社員事件」といいます。)。

契約社員事件では,有期労働契約を締結している社員(契約社員)には,正社員に認められている無事故手当,作業手当,休息手当,住宅手当,皆勤手当及び家族手当の支給がなく,賞与及び対処金の支給並びに定期昇給も原則としておらず,また,交通手段及び通勤距離が同じ正社員と比較して,通勤手当の支給額が2000円少ないとの相違もありました。

この契約社員事件について,裁判所は,契約社員に無事故手当,作業手当,給食手当,皆勤手当を支給しないという相違や通勤手当の内容に差異を設けていたことが不合理であると判断しました。

嘱託社員事件の方ですが,無期労働契約を締結している社員には,基本給,能率給,職務給,精勤手当,無事故手当,住宅手当,家族手当,役付き手当,超勤手当,通勤手当,賞与を支給するとされているのに対し,会社を定年退職した後に有期労働契約を締結した社員(嘱託社員)には,基本賃金,歩合給,無事故手当,調整給,通勤手当,時間外手当を支給することなどが定められていました。

このような会社において,嘱託社員が,①能率給及び職務給が支給されず,歩合給が支給されること,②精勤手当,家族手当,役付手当が支給されないこと,③時間外手当が正社員の超勤手当より低く計算されること,④賞与が支給されないこと,が不合理であるなどとして訴えた事件について,裁判所は,精勤手当を支給しないことが不合理であるとしたほか,時間外労働(超勤手当)に係る相違は不合理であるとしましたが,その余の請求は認めませんでした。

このような裁判例の検討をもとに,賃金規定を整備する必要があります。

 

カルロス・ゴーン被告の海外逃亡

2020年1月9日

もう少しで年が明けるというところで,カルロス・ゴーン被告が,日本を不法に出国し,レバノンにいることがわかり,世界的に大騒ぎになっています。

ゴーン被告は,1月8日,レバノンで特定のメディアを集めて会見を行い,自分の無実を主張する一方で,我が国から不法に出国した経緯の説明を拒否しました。無実というのであれば,日本の裁判所で無罪判決を勝ち取ればいいだけのことですから,裁判を免れるため,音響機器用のケースに隠れて国外逃亡をした以上,あまり説得的でないことは明らかでしょう。

ただ,我が国が犯罪人引渡条約を結んでいるのは米国と韓国の2か国のみであり,日本との間で犯罪人引渡条約を結んでいないレバノン政府は,日本政府からゴーン被告の身柄の引渡を求められても,これに応じる義務はありませんし,引渡に応じることはなさそうです。ですので,ゴーン被告が再び我が国の土を踏むことはなさそうです。

そうなると問題となるのは,ゴーン被告に対する刑事裁判がどうなるかです。

刑事訴訟法は,軽微事件(原則として50万円以下の罰金又は科料に当たる事件)等一定の場合を除いて,「被告人が公判期日に出頭しないときは,開廷することができない。」と定めています(286条)。

ゴーン被告に対する公訴事実は,有価証券報告書の虚偽記載と会社法の特別背任であり,法定刑は,それぞれ10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金(又はこの併科)であり(金商法197条1項1号,会社法960条),軽微事件ではありませんので,ゴーン被告が出頭しない限り期日を開廷することはできません。

なお,刑訴法は,「被告人が出頭しないでも,その期日の公判手続を行うことができる。」場合があることを定めていますが,これは,「勾留されている被告人が,公判期日に召喚を受け,正当な理由がなく出頭を拒否し,監獄官吏による引致を著しく困難にした」という要件が必要ですので(286条の2),ゴーン被告には当てはまらないことになります。

したがって,ゴーン被告が裁判所に出頭しない限り開廷することができず,裁判所が有罪,無罪の判断をすることもできないことになります。

また,今回の件では,ゴーン被告の逃亡を受けて,東京地検が,裁判所の捜索差押許可状を得て,ゴーン被告が使用していたパソコンを押収しようとしましたが,弁護人がこれを拒否しました。この根拠となるのは刑訴法105条であり,同条は,「医師,歯科医師,助産師,看護師,弁護士(外国法事務弁護士を含む。)弁理士,公証人,宗教の職に在る者又はこれらの職に在った者は,業務上委託を受けたため,保管し,又は所持する物で他人の秘密に関する物については,押収を拒むことができる。」とされており,弁護人はこの条文を根拠としてパソコンの提出を拒否したのでした。

いずれにせよ,ゴーン被告が裁判所に出頭し,開廷することは(おそらく永遠に)できなくなったと考えられます。そうすると,ゴーン被告に対する判決がされることも永遠になくなったといえます(裁判所は,ゴーン被告が死亡すれば,控訴棄却の決定をすることになるのでしょうが,ずいぶん先のことになると思われます。)。

刑事訴訟の大原則は,有罪判決が確定するまでは,被告は無罪の推定を受けるということです(国際人権規約等)。つまり,ゴーン被告に対して有罪判決がされる可能性が永遠になくなったということは,実質無罪と同じです。

ゴーン被告は,内外の専門家から,海外に逃れれば日本の裁判所の裁判を受ける必要がなくなる,つまり有罪判決を受ける可能性もなくなる旨のアドバイスを受けていたでしょうし,それを踏まえて,このような違法な手段による国外逃亡をしたと考えられます。

ゴーン被告は,不法出国という違法な手段により,実質無罪を勝ち取ったのでした。

 

 

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